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October 14, 2011

あれ?「ソフト・パワー」の定義変わりました??―『スマート・パワー』

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ジョセフ・S・ナイ
日本経済新聞出版社
2011-07-21
posted by Amazon360

 ジョセフ・ナイの3部作『ソフト・パワー』、『リーダー・パワー』、『スマート・パワー』を立て続けに読んでみたが、率直な感想を言うと、この『スマート・パワー』を読んだことで、「ソフト・パワー」の概念がかえって解りにくくなってしまった(汗)。以下、本書を読んで気づいた点をいくつか述べていきたいと思う。

(1)「軍事力」や「経済力」も「ソフト・パワー」の側面を持ち合わせている
 3部作の最初の著書である『ソフト・パワー』では、国家の軍事力や経済力を「ハード・パワー」とし、文化や政治的価値観、さらに外交政策を「ソフト・パワー」とすることで、2つのパワーの間に明確な線が引かれていたのだが、本書では軍事力や経済力にも、ハードとソフトの両面があることが指摘されている。例えば、軍事力に関しては、次のような記述が見られる。
 軍事資源が生み出すハード・パワーの強制力には、たいていある程度のソフト・パワーが伴っていることに留意する必要がある。独裁者が大規模に強制力を行使するためには、部下を魅了するソフト・パワーをもたねばならない。たとえば、長く続いたローマ帝国はイデオロギーにより軍事的征服を強化し、さらに、ローマ市民権を得るチャンスを与えて、征服した異邦人を引きつけた。
 これは歴史的な教訓であるけれども、もっと最近の具体的な事例として、ベトナム戦争の失敗から導かれた「COINマニュアル」の存在が挙げられている。
 真の戦闘は、反乱勢力という「魚」に民衆の「海」という泳ぎ場を与えないよう、民衆の支持を得ることとされた。一般にCOINと呼ばれる対反乱作戦では、攻撃的な軍事作戦は控え目に扱われ、一般市民の信頼を得ることに重点が置かれている。反乱勢力の支配地域を占領し維持するためにハード・パワーが使われ、道路、診療所、学校などの建設というソフト・パワーがその後に使われる。
 ベトナム戦争は、アメリカの圧倒的な軍事力によって、すぐに終結するものと予測されていた。ところが、主に一般市民から構成される対反乱勢力が各地で抵抗を続けた結果、アメリカの予想をはるかに超えてベトナム戦争は長期化した。米軍が反乱勢力をつぶせなかったのは、彼らが小規模でかつ広範囲に散らばっており、彼らを発見することが難しかったためである(※1)。

 ベトナム戦争の失敗を受けて、アメリカは発想を変えることにした。反乱勢力を1つ1つつぶすのではなく、彼らから信頼を勝ち取り、彼らを懐柔して味方につけることにしたのだ。その作戦をまとめたのが「COINマニュアル」である。私が思うに、この懐柔作戦のメリットは、一部の反乱勢力に働きかけるだけで十分な効果を発揮できるという点であろう。

 反乱勢力は、各地に散在していながらも、見えないネットワークでつながっており、お互いに情報や資源を融通し合っている。ハード・パワーによる対反乱作戦では、個々の反乱勢力を全てつぶさなければ作戦が終結しない。他方、ソフト・パワーによる対反乱作戦は、一部の反乱勢力が自国を信頼してくれれば、その評判がネットワークを通じて反乱勢力全体に伝わり、自然と彼らの力が弱まっていく、というシナリオを想定しているのである。

 軍事力にソフト・パワーの側面があるのと同様に、経済力もソフト・パワーの要素を持ち合わせているとナイは主張する。
 経済資源は、ハード・パワーの行動(※筆者注:具体的には、北朝鮮に対するアメリカの経済的制裁や、中国によるレアアースの輸出制限など)を生み出せると同時に、ソフト・パワーの行動も生み出すことができる。成功している経済モデルは、ハード・パワー行使のための軍事資源を生み出す潜在力を高めるだけでなく、見習うべき模範として他者を引き付けることができる。冷戦終結時の欧州連合(EU)のソフト・パワーと、今日の中国のソフト・パワーは、それぞれの経済モデルの成功によって高められている。経済的な成功はハード・パワーの資源のみならず、魅力というソフト・パワーの吸引力を生み出すのである。
 EUは、「我々のネットワークに参加すると、こんなにも国の経済が豊かになりますよ(ただし、市場原理の導入や人権の尊重、民主主義への移行という条件つきではあるが)」というメッセージを送ることで、旧共産圏の国々をEUに取り込んできた。

 また中国は、途上国に対する多額の援助・投資と合わせて(つまり、ハード・パワーの行使と同時に)、「我が国のように、独裁的な政治形態であっても、経済を繁栄させることは可能なんですよ」というメッセージを発信していると言える。中国が特に重視しているターゲットは、豊富な資源エネルギーを有するアフリカ諸国だ。アフリカには独裁政治の国が多いため、中国のメッセージに魅了された国は、国内インフラの整備にあたって中国資本を積極的に受け入れ、さらに自国の天然資源を中国へ優先的に輸出している。

 こうした実態を踏まえると、経済力にもソフト・パワーの側面があるというナイの指摘は納得感がある。台湾やベトナム、マレーシアなどのアジア諸国・地域が、日本の経済発展に憧れて日本の成功モデルを取り入れようとしているのも、日本が持つ経済力のソフト・パワーの一例と言えるだろう。

 もちろん、一見魅力的な経済モデルでも、化けの皮が剥がれるとその魅力が失われるのは言うまでもない。EUの場合は、共通通貨を使っているがゆえに、ギリシャやイタリアなど特定の国の財政危機がEU全体の経済危機へと発展してしまう。さらに、中国の成功モデルも、独裁制から民主制へと移行した国では拒否されるようになってきている。

 軍政から民政に移管したミャンマーでは、テイン・セイン大統領が9月末に、中国と共同建設している水力発電用大型ダム「ミッソンダム」の開発中止を表明した。同ダムは、ミャンマーの軍事政権と中国政府との間で契約が締結されたものであるが、民政になってから環境保護を訴える声が沸騰。テイン・セイン大統領は、世論に応える形で「(ダムは)自然景観を破壊し、地域住民の暮らしを破壊する」などとして、軍政の決定を覆したのである(※2)。

 中国が最重要視しているアフリカでも、中国離れの動きが見られる。中国が鉱物資源を狙って20億ドル以上を投資してきたアフリカ南部のザンビアでは、9月末に反中国で知られる野党・愛国戦線のサタ党首が新大統領に就任した。前政権は、中国の投資が2万人の雇用を生んだと称賛していたが、米メディアによると、その陰では労働争議に絡んで、中国人経営者による現地労働者の射殺事件が頻発しているという(※2)。

 (続く)

(※1)『ヒトデはクモよりなぜ強い―21世紀はリーダーなき組織が勝つ』(オリ・ブラフマン、ロッド・A・ベックストローム著)では、分散型の組織が集権型の組織に勝る事例の分析が試みられており、非常に興味深いのでお勧め(アル・カイーダも分析の対象となっている)。

オリ・ブラフマン/ロッド・A・ベックストローム
日経BP社
2007-08-30
posted by Amazon360
(※2)「中国式投資 途上国「NO」 ミャンマー、ダム開発中止を表明」(MSN産経ニュース、2011年10月4日)

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