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October 10, 2011

ハード/ソフトのバランスが取れたリーダーシップ論―『リーダー・パワー』

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ジョセフ S ナイ
日本経済新聞出版社
2008-12-17
posted by Amazon360

 先日の記事「「ハード・パワー」「ソフト・パワー」と、両者の橋渡し役「スマート・パワー」の整理―『リーダー・パワー』」では、本書に登場する3つのパワーの概略を紹介したが、今回は本書を読んで私が感じた、ナイのリーダーシップに対する考え方の特徴を4点ほどまとめてみたいと思う。

(1)コンティンジェンシー理論よりも複雑な状況型リーダーシップ
 ナイは、「最適なリーダーシップとは、その時の状況によって左右される」という立場をとる。この点は、リーダーのハード・パワーとソフト・パワーを橋渡しするパワーとして、「状況を把握する知性(contextual intelligence)」をスマート・パワーとして挙げている点からもうかがえる。
 リーダーシップは、3つの重要な構成要素、すなわち、リーダー、、フォロワー、状況を備えたプロセスと考えることができる。状況を作り上げているのは、外部環境と、集団がある特定の事情の中で追求している変化する目標の2つである。効果的なリーダーシップにもっともふさわしい特性は、状況に依存する。
 この部分だけを読むと、ナイのリーダーシップ論は、ハーシー&ブランチャードのSL理論に代表される「コンティンジェンシー理論」と同じカテゴリに属するようにも感じる。ところが、ナイは次のように述べて、コンティンジェンシー理論の限界を指摘している。
 1960年代のある段階では、理論家たちが最適なリーダーシップのスタイルは状況によって決まるという「コンティンジェンシー」理論を発達させ、正確な予測を可能にする「状況の科学」の成立を期待した。しかし、その期待は空しく潰えた。リーダーシップ研究にはあまりに多くの変数がつきまとうからだ。
 SL理論は、「フォロワーの成熟度」をリーダーシップのスタイルを規定するパラメーターとしていた。ところが、実際には「状況」を構成する要因は非常に多岐にわたるのであって、それらを全て盛り込んだ関数を導き出すことは不可能なのである。

 ナイは本書の中で「取引型リーダーシップ」、「鼓舞型リーダーシップ」という2種類のリーダーシップのスタイルを掲げているが、各々のスタイルがどのような状況に適しているかを論じてはいない。そもそも、「取引型」、「鼓舞型」という分類自体が簡易的なものであり、

 ・リーダーはどのようにして重要な課題を設定するのか?
 ・その課題と関わりを持つ人々は誰なのか?彼らの関心事や個人的ニーズは何か?
 ・その課題の解決を歓迎してくれる人々は誰なのか?
 ・逆に、その課題解決によって不利益を受ける人々、課題解決に否定的な反応を見せる人々は誰か?
 ・彼らを自分の味方にするには、どのように働きかけるのが最も効果的か?
 ・リーダーがどんな手を使っても、課題解決に非協力的な態度を見せるメンバーはどのように扱うべきか?
 ・課題の実現に必要な資源(十分な能力と意欲のある人材、新しいナレッジやノウハウ、予算や資金など)は何か?その資源をどのように調達するのか?
 ・一部の資源が調達不能と判明した場合、どのような代替案が考えられるか?
 ・課題の解決に向けて、フォロワーのモチベーションをどのように高めればよいか?
 ・課題を解決するプロセスにおいて、リーダーとフォロワーの間、あるいはフォロワー同士で共有すべき情報は何か?その情報を効率的に共有するには、どのような方法をとればよいか?

など、リーダーが直面する様々な問いへの答え様によって、ありとあらゆるタイプの「取引型リーダー」や「鼓舞型リーダー」が生まれるのである。ただ、逆に言えばナイのリーダーシップ論はここに限界があって、最も効果的なリーダーシップのスタイルは状況に依存すると言いながら、その状況は「状況を把握する知性」によって認識するしかないと、リーダーに丸投げしてしまっている印象がある。

(2)ソフト・パワーに偏りすぎたリーダーシップ論に対して、ハード・パワーの重要性を強調
 最近のリーダーシップ論は、ビジョンの構想、ストーリーテリング、メンバーへの権限移譲(エンパワーメント)、メンバーとの対等な関係の構築、コーチング、アサーティブなコミュニケーションなど、どちらかというとリーダーシップのソフトな面が強調される傾向がある。これに対してナイは、スタンフォード・大学の心理学者、ロデリック・クレイマーによる興味深い研究を紹介している。
 スタンフォード大学の心理学者、ロデリック・クレイマーは、「最近、われわれは、社会的知性とソフト・パワーに心を奪われるあまり、実は、途方もなく強い抵抗と怠惰が渦巻く状況を変革するために、リーダーたちが必要としている数種類のスキルについて、見落としてしまっているのではないか」と警告している。いじめや脅しは組織の業績にとって有害であるとする研究もあるが、クレイマーは、ビジョンを持ち、しかも社会的な制約を軽蔑しつつ、強圧的なやり方で他人を追い詰める者のことを「偉大な脅迫者たち」と記述している。そして、彼らはしばしば成功するという。
 この「偉大な脅迫者たち」がメンバーを脅迫する際に発揮するのが、他ならぬハード・パワーである。先日の記事で見てきたように、ハード・パワーを使いこなすには、「組織のスキル」と「マキャベリズムの政治スキル」という2つのスキルが必要であり、ソフトなリーダーであっても、ある程度はこれらのスキルを習得しなければならない(偉大なリーダーの条件として「謙虚さ」を挙げるジェームズ・コリンズがこの主張を聞いたら、「えっ!?」と驚くかもしれないが)。

 確かに、フェデラル・エクスプレスのCEO、フレデリック・スミスが主張するように、「リーダーシップの第一の任務は、組織のビジョンと価値観を伝えることである」かもしれない。ただし、リーダーシップの任務はそれが全てではない。個人的には、(マキャベリズムの政治スキルはさておき、)とりわけ「組織のスキル」は非常に重要であると思う。

 マネジメントの延長線上では到底達成できない新しいビジョンや野心的な目標を達成するには、これまでのマネジメントによる経営資源の調達・配分方法とは異なるやり方で資源を確保し、時に異質な資源同士を結びつけることが肝要である。例えば、P&Gの有名な「コネクト・アンド・ディベロップ」という取り組みは、アイデアや知的財産を有する社内外の人々をグローバル規模のネットワークで結び、創造的な研究や製品開発を促す仕組みである。逆に、画餅で終わるビジョンは、往々にしてリーダーが従来の組織構造や制度、ルールや慣習にメスを入れることを怠っている。

 突然歴史の話になって恐縮だけれども、織田信長の「楽市・楽座」は、市座、問屋などの商工業者が有していた特権を排除して、城下町における活発な商業を促進し、城下町にたくさんのお金が落ちるようにすることを第一の目的とする経済政策であるが、実はもう1つの目的を持ち合わせている。それは、城下町にやってくる商人を通じて、他国の戦国大名に関する情報を入手することである。商売のために全国を行脚している商人は、敵の事情に精通した貴重な情報源であった。つまり、「楽市・楽座」は、資金と情報を効率的に獲得する新しい仕組みだったわけだ。

 また、三国志に目を向けると、曹操から魏を継承した曹丕は、皇帝に即位した直後に「九品中正法(九品官人法)」と呼ばれる人材登用制度を導入している。漢代の「郷挙里選」は、地方の有力者の主導で官僚の推薦が行われていたが、九品中正法は政府主導の制度であり、後漢に仕えた官僚たちの能力と、魏に対する忠誠度を見極めて、優秀な人材を吸収することを狙いとしていた。曹丕は、天下統一のために必要な人材を各地からかき集めるための中央集権的な人事制度を構築したと言えるだろう(もっとも、魏自体はその後司馬氏に乗っ取られてしまったが)。

 (続く。「『リーダー・パワー』だけでいつまで続くんだ!?」とか言わないでね)

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