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October 07, 2011

「ハード・パワー」「ソフト・パワー」と、両者の橋渡し役「スマート・パワー」の整理―『リーダー・パワー』

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ジョセフ S ナイ
日本経済新聞出版社
2008-12-17
posted by Amazon360

 思いがけず、リーダーシップ論の整理に4回も記事を使ってしまいましたが、今回から『リーダー・パワー』の本題に入ります。

 《「主要なリーダーシップ論の個人的整理」シリーズ》
 【第1回】整理の軸と考え方&特性論・性格論偏
 【第2回】ジョン・コッター、ウォーレン・ベニス、ジェームズ・コリンズ編
 【第3回】ハーシー&ブランチャード、ジョセフ・バダラッコ編
 【第4回】D・E・メイヤーソン、ピーター・センゲ編


 『ソフト・パワー』の中で、「国家は、国際政治の舞台で、相手から望ましい結果を引き出すために、従来の『ハード・パワー』(軍事力、経済力)だけに頼らず、『ソフト・パワー』(文化、政治的価値観、外交政策)をうまく組み合わせることが求められる」と主張したジョセフ・ナイは、リーダーシップについても同様に、どちらか一方のパワーに偏るのではなく、ハード・パワーとソフト・パワーの両方を駆使することが重要であると説く。

 ナイは本書の中で、ソフト・パワーには優れていたが、ハード・パワーに難があった大統領として、レーガンの名前を挙げている。レーガンは、自分のチームのメンバーに徹底した権限移譲をj実行していた。この方法は、有能なチームメンバーがついていた時にはうまく機能していた。ところが、海兵隊中佐のオリバー・ノースらが側近として力を持つようになると、チームは暴走し始め、イランへの武器売却代金をニカラグアの反共ゲリラ「コントラ」の援助に流用するという「イラン・コントラ事件」を引き起こしてしまった。

 逆に、ハード・パワーに過度に依存してしまった例としては、本書ではあまり触れられていないけれども、前著『ソフト・パワー』で言及されているブッシュ前大統領のイラク戦争が該当するだろう。ブッシュはテロに対して徹底的に抗戦する姿勢を表明してアメリカ国民の心を奮い立たせた。ところが、戦争を正当化する明確な根拠がないまま頑なに戦争を続けた結果、国際的な足並みが崩れ、戦争終結が大幅に遅れてしまった。

 ソフト・パワーとハード・パワーは、それ自体が集団をよい結果に導くか、それとも集団を悪い結果へ追いやるかを決定する要素ではない。重要なのは「両方のパワーを状況に応じて使い分けること」であり、このパワーを「スマート・パワー」と呼ぶ。「スマート・パワー」に長けたリーダーこそが、集団をよい結果へと導くことができる、とナイは主張している。以下、3つのパワーを発揮する上で重要なスキルを、本書の内容を引用しながら簡単に整理したいと思う。

.ソフト・パワー
 《何のためのパワーか?》
 ・メンバーを鼓舞して仲間にする。

 《必要なスキル》
 (1)EQ(心の知性)
 EQとは、リーダーが自らの個人的情熱を伝え、他人を引きつけるのに必要な克己心、自制心、感情移入能力のことである。感情は常に思考に干渉するという見解(※1)とは逆に、EQが示唆するのは、感情を理解し、統制してやれば、思考全体がより効果的になるということである。フランクリン・ルーズベルトがリーダーとして成功したのは、分析力に富んだIQのおかげというより、EQのためだという点については、ほとんどの歴史家の意見が一致している。

 (2)コミュニケーション
 鼓舞型のリーダーは、効果的にコミュニケーションをとる必要がある。ウッドロー・ウィルソンは子供の頃はさほど聡明とはみなされていなかったが、弁論術がリーダーシップに欠かせないと気づいた後、独学で弁論術を身につけることに成功した。また、ビル・クリントンには、劇場の雰囲気と物語を組み合わせる才能があり、論点を伝える全般的な能力に長けていた。

 しかし、弁論術と鼓舞型の演説だけが、フォロワーたちに意味を伝えるコミュニケーションの唯一の形態というわけではない。言葉によらないシグナルは、人間のコミュニケーションの重要な部分を占める。ガンジーのような鼓舞型のリーダーは雄弁家ではなかったが、その素朴な服装と生き方から浮かび上がる象徴的なものが、言葉以上に多くのことを語っていた。

 (3)ビジョン
 リーダーがコミュニケーションを通じて伝える内容の一部がビジョンである。言い換えると、ある思想に意味を与え、他人の心を鼓舞する絵を明確に表現してみせるスキルである。フェデラル・エクスプレスのCEO、フレデリック・スミスは、「リーダーシップの第一の任務は、組織のビジョンと価値観を伝えることである」と主張している。

 野心家のリーダーの中には、フォロワーたちを威圧するようなビジョンを公表しなければならないと考える者もいる。しかし、実際には、成功を収めるビジョンとは、集団の要求の中から発生したものが、リーダーによって形を整えられ、明確になっていったものが多い。キング牧師のビジョンは、アメリカン・ドリームとアフリカ系アメリカ人の経験に深く根差したものだった。

.ハード・パワー
 《何のためのパワーか?》
 ・メンバーを脅迫して誘導する。

 《必要なスキル》
 (1)組織
 組織のスキルとは、ある組織や集団の構造、情報の流れ、報酬を与えるシステムを管理運営する能力である。リーダーは直属の部下については、直接管理し、組織全体については、システムを確立し、それを維持することで間接的に管理する。特に重要なのは、決定のインプットとアウトプットに関係した情報の流れを、効果的に管理運営することである。

 (2)マキャベリズムの政治スキル
 スタンフォード大学の心理学者、ロデリック・クレイマーは、「政治的知性」とは、他の人々の弱さ、不安定、好き嫌いを評価して、それを自分の道具にする能力であると述べているが、ここで彼が言っているのは、脅迫と誘導というハード・パワーに欠かせない、マキャベリズムの政治スキルのことに他ならない。

 リンドン・ジョンソンは、手近にいる人間の肩に腕を回したり、背広の襟をつかんだりして相手の顔を自分の顔のすぐ近くにまで引き寄せて、議論をふっかけるというようなやり方をしていた。客が訪ねてきた場合は、背の低い柔らかなソファーに座らせて、自分は座高が高く背もたれも大きなロッキング・チェアに座り、訪問者たちを威圧するように見下ろしていたという。

 しかし、職場についての研究によると、脅しばかりが用いられる環境では、仕事の効率は低下するという。強圧的なやり方で有名な、スコットペーパーの「チェーンソー」ことアル・ダンラップが作り上げた社内文化は、会社そのものを破壊してしまった(※2)。

.スマート・パワー
 《何のためのパワーか?》
 ・「ソフト・パワー」と「ハード・パワー」の両方を、状況に応じて使い分ける。

 《必要なスキル》
 「状況を把握する知性(contextual intelligence)」
 状況把握の知性とは直観的に情勢判断をするスキルのことで、変わりゆく状況の中でスマートな戦略を策定するために、リーダーが戦術と目標を組み合わせる際の手助けになるもので、判断力とか叡智などと呼ぶ人もいる。状況のスキルを持つリーダーは、自分たちの集団が直面している問題を定義することによって、意味やロード・マップを巧みに提供するのである。彼らは問題の中にある価値観の違いによる緊張を理解し、望ましい状態と実現可能な状態のバランスについても理解する。

 リーダーが行動を起こさなければならない状況は多岐にわたるが、状況把握の知性に含まれる直観的スキルにとって非常に重要なのは、次に挙げる5つである。

 (a)文化の状況を理解する
 リーダーに対して行動の枠組みを課すのは、その集団の文化である。文化のマネジメントは、リーダーが行う最も重要な仕事の1つである。もしリーダーが、自分が置かれた文化の状況について意識しない場合、文化の方がリーダーのマネジメントを行うことになる。

 ビジネスの例で言うと、メキシコの生産施設に最高責任者として赴任したアメリカ人が、部下たちと親睦を含め、職場に友好的な雰囲気を創り出そうとしたところ、そうしたことは自分たちの権限を弱体化させると考えた部下のメキシコ人管理職たち(彼らはヒエラルキーと権威に対する文化的価値観に依存していた)が造反した。有能なリーダーは、フォロワーたちの感情を慎重に管理することで彼らを鼓舞するが、適切な感情表現のレベルというものは、文化に応じて変化する。

 (b)力の資源の分散の具合を把握する
 リーダーは、その集団の政治的文化を理解するだけでなく、そうした文化が、人々のネットワークとどう関係しているか、また、使用可能なハード・パワー資源とソフト・パワー資源がどのように分散しており、それを使う場合コストがどうなるかについても精査しなければならない。

 リーダーと対等だという自己意識を持つ人々をリードするのは、ヒエラルキーを基本とする軍隊に命令するのとはわけが違う。法律事務所やコンサルタント事務所の運営は、製造業の会社を経営するのとは違う。専門的な組織で働く弁護士やコンサルタントの多くは、自分をフォロワーではなく独立したエリートと考えている。彼らは指揮統制型システムには馴染まない上、公式にリーダーの地位についている者に抵抗する力を持っている。

 (c)フォロワーのニーズと要求を把握する
 現状はどこまで安定しているのか?人々はどの程度、変化の必要性を感じているのか、また、どういうタイプの変化を望んでいるのか?リーダーは、フォロワーたちが辛く苦しい変化に進んで参加しようとするまで、あとどのくらい時間がかかるのかを判定しなければならない。リーダーは変化に対する抵抗がどこで起きるかを見極め、どういう行動をとり、どういうメッセージを人々に送れば、苦労しても適応が必要な仕事だと納得してもらえるか、よく考えなければならない。

 (d)危機と時間の切迫性を創り出す
 集団の価値観への脅威が延々と続く状況では、リーダーは敢えて切迫感を創り出そうとすることもある。危機感を創り出すことは、フォロワーたちに対して、いやでも適応しなければならない変化に直面していることを教え込むために、リーダーが利用する道具の1つになる。危機が、人々を教育する機会を提供し、かつ変化するチャンスへ向かう入口を開くのである。

 (e)情報の流れを創り出す
 チェスター・バーナードは、どんな集団や組織も、公式・非公式、両方の流れを持っている、と指摘したことがある。命令は公式の指揮命令系統にそって上から下へ流れ、それに対する報告が下から上へあがっていく。しかし、実際には、最も重要な情報の流れは、公式な縦型の連絡系統を回避するか、むしろそれを補うものであったり、フォロワー同士の間で横方向に伝わるものである。

 リーダーは、自分の計画を実現するために、効果的な情報システムの設計と監視を、どうすればよいかを理解する必要がある。情報がどのように自分の所に届くのかきちんと理解していないリーダーが、フォロワーたちの考えを知ろうとしても、結局は、そのリーダーの願望通りの答えを誰かが用意し、リーダーがそれを信じ込んでしまうという事態に陥るだけである。

 (続く)

(※1)過去の記事「果たして意思決定に感情は不要なのか?」、「感情は問題提起のサインである」を参照。
(※2)アル・ダンラップのキャリアとリーダーシップを記述した本に、 ジョン・A・バーン著『悪徳経営者―首切りと企業解体で巨万の富を手にした男』がある。

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