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September 19, 2011

お客様からの褒め言葉は、時に上司の激励よりも効果的―『マーケティングを問い直す時(DHBR2011年10月号)』

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 (2011年10月号のレビューの続き)

心理学的実験で実証される お客様の言葉が社員を顧客志向に変える(アダム・M・グラント)
 多くの研究の結果、顧客、得意先、患者をはじめとする、企業の製品やサービスの恩恵を受けるエンドユーザーが、驚くほど効果的に、社員をより熱心に、より賢く、より生産的に働こうという気にさせることがわかった。(中略)

 社員の努力がどんな結果や価値をもたらしているかを目に見える証拠として示すことにより、こうしたエンドユーザーは、リーダーが社員を触発し意欲を高めるうえで重要な協力者となりえる。社員への激励をエンドユーザーにアウトソーシングすることで、社員の注意は、自社の製品やサービスが及ぼす影響へとまっすぐに向かう。
  顧客からのポジティブなフィードバックは、上司やリーダーからの激励よりも、社員のモチベーションを向上させるのに有効であるという論文。まさに、以前の記事「『ES向上⇒CS向上⇒利益向上』の自己強化システムについての考察−『バリュー・プロフィット・チェーン』」で作成した下図の内容そのものである。

ES向上⇒CS向上⇒利益向上の自己強化システム

 論文では、大学への寄付金を集める部門の例が紹介されている。寄付金は、学生に給付する奨学金の貴重な原資だ。ところが、寄付金部門のスタッフは、どんな学生が奨学金を利用しているのかを知らないまま、ただ単に多方面に電話をかけまくって寄付金をお願いする毎日である。当然のことながら、寄付金を断られるケースの方が圧倒的に多いので、スタッフの離職率は高く、モチベーションは低い。

 そこで著者は、奨学金を利用した学生をスタッフに会わせて、奨学金のおかげで学生生活がどれほど充実したものになったかを話してもらうことにした。すると、学生の話を聞いたスタッフは、以前よりも1日あたりのコール回数が増加し、寄付金も大幅に増えて、仕事の生産性が飛躍的に改善したという。

 この論文を読んで、私も印象的なエピソードを思い出した。ある企業の担当者から聞いた話であるが、技術部門の社員(以下Aさん)を営業部門に異動させることになった。Aさんは入社以来ずっと技術畑を歩いてきた人であり、顧客と顔を合わせたことがない。しかも、Aさんは営業という仕事がひどく嫌いだった。

 異動直後のある日、Aさんが出勤してくると、何とスキンヘッドになっていた。Aさんは、「これで顧客先に私を連れていけないだろう」と言って、上司に抵抗したのである。とはいえ、いつまでもAさんが営業を拒否し続けるのを許しておくわけにもいかない。Aさんの上司は、スキンヘッドのAさんを半ば強引に連れ出して、商談に同席させた。

 何度か商談同行を経験した後、Aさんは担当顧客を持つことになった。慣れない営業に四苦八苦しながらも何とか営業を続けるうちに、担当顧客からそれなりに評価してもらえるようになった。それがきっかけかどうかは解らないが、異動直後の態度からは想像できないほど、Aさんの勤務態度は大きく改善されたそうだ。
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新しいバリュー・プロポジションをつくり出す トレンドを正しく解釈する法(エリー・オフェック、エリー・オフェック)
 ほとんどの経営者たちが、時代の大きなトレンドを明確に言い当てることができるだろう。だが、我々が数々の業界において実地調査や市場調査を行い、企業と直接携わるなかで見出したのは、経営者たちは大きなトレンドが消費者の願望や態度、行動に与えている、一見とらえにくいが深い意味を持つ影響を見逃しがちであるということである。
 この論文では、外部環境の変化に反射的に対応するのではなく、その変化が自社の顧客にもたらす意味を十分に解釈し、「顧客価値」を再定義することの重要性が説かれている。論文で紹介されている事例を2つ、以下に整理しておく。

 コーチは2008年のリーマン・ショックによって、消費意欲の減退という危機に直面していた。ブランド品は、消費者の財布の紐が固くなると、真っ先に出費が削られる製品の1つである。仮にコーチがこうした変化に即応していたならば、コーチは既存製品の値下げへと安易に踏み切り、ブランド価値を毀損していただろう。

 しかし、コーチはそうしなかった。コーチは、消費者の意識の変化を慎重に調査することにした。その結果、消費意欲の低下は新たな消費心理の一部にすぎないことが判明した。消費者は、経済が悪化し、社会全体が不安定な状況だからといって、将来への希望を失ったわけでも、消極的になったわけでもなかった。それどころか、「私たちは苦境を乗り越えられる」という姿勢を保ち、自分たちに活力を与えてくれるような何かを求めていたのである。

 この洞察に基づいて、コーチは2009年6月に<ポピー>シリーズ(※)の販売を開始した。新しいバッグは、鮮やかな色調と遊び心に満ちたデザインが特徴的であり、従来のターゲット顧客層よりもやや若い女性を取り込むことに成功した(現在の<ポピー>シリーズは、どうやらコーチの王道的なデザインに変わってしまっているようだが・・・)。<ポピー>の成功のおかげで、コーチは売上減のリスクを回避することができたという。

 もう1つの事例は、イギリスの大手食料品小売店のテスコである。食料品小売店が直面しているトレンドと言えば、言わずもがな「エコ」である。消費者は、有機食材や資源の再利用に高い関心を寄せいている。このトレンドに反射的な対応をする企業は、農作物のラインナップに無農薬野菜を加えたり、買い物袋の節約やペットボトルのリサイクルなどに乗り出したりする。もちろん、これらの取り組み自体は決して悪いことではないし、テスコも実施していることである。

 だが、テスコが他の食料品小売店と異なるのは、顧客にテスコが所有する土地の一区画を貸して、農作物の生産地や卵用鶏の飼育小屋のスペースとして利用してもらっている点である。この活動は、「グリーナー・リビング」と呼ばれている。「グリーナー・リビング」は、「『エコ、エコ』と言っても、具体的にどうすればエコにつながるのか、自分の肌身を通じて直接体験してみたい」、「有機野菜の購入などを通じてエコに間接的に貢献するのではなく、自分もエコに積極的に関わっているのだと感じたい」といった消費者のニーズに応えるプログラムと言えそうだ。

(※)論文の中で紹介されていたバッグは、「コーチ ポピー ペタル プリント グラム トート」(インポートショップ店長ののほほーんな毎日)に掲載されているバッグ。コーチのロゴも通常のバッグとは異なり、落書きのように描かれている。

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無料ビジネスの脅威にいかに対抗するか 「FREE経済」の戦略(デイビッド・J・ブライス他)
 (FREE戦略で新規参入してくるプレイヤーは、)どれくらいの成長スピードなら(既存企業にとって)危険なのか。我々がさまざまな市場で行った調査によると、無料サービスのユーザー・ペースが年40%以上増加していれば、あるいは顧客の離反率が年5%以上ならば、深刻な問題が迫っていると考えられる。このようなスピードを評価すれば、無料製品の脅威の度合いを知り、それに従って対応することができる。
 「FREE戦略」によって自社の顧客基盤を切り崩す新規参入プレイヤーに、どのように対応すればよいか?を論じたもの。「無料製品・サービスのユーザーが年40%以上増加し、かつ自社の顧客の離反率が年5%以上に上る業界」は、ビジネスモデルが危機に瀕しており、早急な対応が求められる。しかし、そのような業界はまだ数が限られている。

 大半の業界は、「無料製品・サービスのユーザーの増加率は年40%未満だが、自社の顧客の離反率が年5%以上に上る」か、「自社の顧客の離反率は5%未満だが、無料製品・サービスのユーザーの増加率は年40%以上に上る」かのどちらかである。どちらもリスクを抱えているのは確かではあるものの、FREE戦略で参入してくる新規プレイヤーに対応するだけの時間的余裕があるから安心しなさい、と著者は述べている。そして、反撃の戦略として提案されているのが、以下の4つの戦略である。

(1)アップセル
 無料の基本製品を提供して幅広い利用者を獲得し、その上で上位バージョンを販売する。
 《例》iPhoneアプリケーション、アドビ・リーダー
(2)クロスセル
 無料製品とは直接関係のない別の製品を販売する。
 《例》ライアンエアー(座席の4分の1を無料で提供するが、座席予約、優先搭乗などの追加サービスをクロスセルしている。機内では食事、スクラッチ・カードゲーム、香水、デジタルカメラなども販売)
(3)第三者への転売
 無料製品を利用者に提供し、彼ら彼女らへのアクセス権を第三者に販売する。
 《例》グーグルのAdSense
(4)抱き合わせ
 無料の製品・サービスを有料の製品・サービスと一緒に提供する。
 《例》HP(コンピュータ購入時にプリンタを無料提供)、銀行(口座や株取引などの無料サービスと、最低残高が必要な投資口座などの有料サービスを抱き合わせにする)

 まぁ、端的に言ってしまえば、「FREE戦略にはFREE戦略で対抗するしかない」ということなのだろう。ところで、この論文を読んだ後、以前このブログで連載していた「ビジネスモデル変革のパターン(全20回)」に、1つ欠けている視点があるなぁ、と感じた。それは「価格を変える」という切り口である。

 価格戦略の代表例としては、「スキミング・プライス」と「ペネトレーション・プライス」の2つがある。前者は価格を高めに設定することで、新製品開発への投資を早めに回収することを狙いとしているのに対し、後者は価格を低めに設定することで、新製品を一気に市場に浸透させることを目指している。「FREE戦略」は、後者の究極的なパターンと位置づけることができるだろう。この辺りがもう少しきちんと整理できたら、「ビジネスモデル変革のパターン(全20回)」にパターンを追加することにしよう。
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