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September 10, 2011

【水曜どうでしょう論(6/6)】作り手の「価値観連鎖」と受け手の「憧れ」が交錯する所でビジネスは成立する

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 いつの間にか結構な文量の連載になってしまったが、今回が最終回。今日は、「価値観連鎖」がマーケティングにおいて果たす役割を論じ、どうでしょうが長年にわたって安定した顧客基盤を維持できている要因に迫りたいと思う。

 どうでしょうの話に入る前に、「価値観連鎖」の持つ役割が非常に解りやすいアップルを例にとってみたい。アップルの目的は、「ITを使って生活を豊かにすること」であろう。目的レベルで見れば、おそらくMSなどの競合他社も、それほど変わらない目的を掲げているに違いない。しかし、アップルは「価値観連鎖」の中身が他社とは大きく異なる。想像の域を出ないけれども、アップルの「価値観連鎖」は、以下の価値観を含んでいるのではないだろうか?(※)。

 ・市場調査やアナリストの意見はあまり重視しない。
 ・アップルの社員自身が欲しいと思うクールな製品を作る。
 ・アップルの社員が、家族や友人に勧めたいと思う製品を作る。
 ・スタイリッシュで洗練されたデザインにこだわる。
 ・最先端のテクノロジーを積極的に採用する。
 ・競合他社の真似などしない。競合他社の製品をクソ扱いし、競合の製品と品質、コストパフォーマンスなど、あらゆる面で圧倒的な差をつける。
 ・困難な仕事であっても、熱狂的に(というか、ジョブズのために)仕事をする。
 ・外部企業を含むネットワークを積極的に構築するが、どのネットワークでもアップルが主導権を握る。
 (iTunes Store、App Storeなど)
 ・新製品に関する機密情報を完璧に守り切り、アップルブランドに対する顧客の期待感を煽る。
 ・自社の製品やサービス、ブランドイメージを傷つける情報が流れていれば、強制的に削除する。

 本当はもっとたくさんの価値観が複雑に絡み合っているのだろうが、アップルの「価値観連鎖」のポイントは、「デザイン」、「最先端技術」、「権力」という3つのキーワードに集約されるように思える。そして、「価値観連鎖」の主観的な内容は、製品コンセプトに投影され、さらには企業が顧客に対して発信するメッセージにも反映される。アップルは、「デザイン」、「最先端技術」、「権力」という3つのキーワードを使って、(あくまでも推測であるが)次のようなメッセージを市場に向けて発信しているのではないだろうか?
「最新の技術を使ったら、こんなカッコいい製品ができたんだ。これを使うと、驚くほど仕事の効率が上がるし、日常生活が刺激的でクリエイティブなものになるのさ。どうだい、うらやましいだろう?え、それほどでもないって?君らはどこの製品を使っているの?はぁ?バッカじゃなかろかルンバ。あんな製品は何の役にも立たないでき損ないだぞ。

 それよりもこの製品を使いなよ。オレがカッコいいと言っているんだから、カッコいいんだよ。オレが便利だと言っているんだから、便利なんだよ。君らも早く使ってみるべきだね。そうじゃないと、世界のトレンドから取り残されるのは時間の問題さ」
 デザインと技術を極限まで追求する一方で、人間の権力欲求にも訴える。その下地となっているのが、アップルを中心としたネットワークが持っている、独特の「価値観連鎖」なのである。そして、アップルというブランドそのものを愛するコアなファンは、個別単体の製品やサービスの機能を評価しているという理由に加え、アップルが醸し出す「価値観連鎖」への「憧れ」から、アップルの製品やサービスを購入する。

 最先端の技術やデザインに強く惹かれる人、それを入手して周りに自慢したがる自己顕示欲の強い人、アップルの製品を使うとどのくらい劇的に日常生活が楽しくなるのかを友人たちに熱弁したい人、アップルがクソだと名指しした製品を使っている人の前に仁王立ちして優越感を味わいたい人・・・人間の腹黒い一面も含まれているけれども、そういう人たちがアップルの顧客になっていくのであろう。

 アップルの例からどうでしょうの例に戻ると、何だかすごくのんびりした話になってしまうのだが、どうでしょう班とどうでしょうファンの関係もこれと同じである。どうでしょう班、およびどうでしょう班と連携している外部プレイヤーによって形成される「価値観連鎖」は、「たまにはちょっと怠けたい」という人間の本能をくすぐり、「人生、多少手を抜いても、多少いい加減でも大丈夫なんだ」ということに気づかせてくれる。
「最初からそんなに一生懸命計画を作ったって、絶対に計画通りに進まないんだって。だから、いっそのこと計画など捨てて、目の前の物事にトライしてみれば?偶然の出来事や偶然の出会いが、人生を意外な方向へと導いてくれるかもしれないよ?それがたとえ自分の希望とと違っていたとしても、きっとそれが運命なんだって。

 あと、世間というのは何かと世知辛いし、正直者が損をするようにできている。だから、多少腹黒いぐらいでちょうどいいのさ。正義とか理想とかに縛られて、他人の犠牲になってしまったとしたら、それは本当に理想の姿だと言えるのかい?

 少しぐらい手を抜いて、それで他の人に迷惑がかかるとしても、そんなに気にしなくたっていい。だって、向こうだってこっちに迷惑がかかるかもしれないと思いながら、同じように手を抜いているかもしれないんだから。たまに本気を出して120%の力を出す必要があるかもしれないけど、普段は70%、80%ぐらいの力でやり過ごせばOKなんだよ」
 これが、どうでしょうの「価値観連鎖」がもたらすメッセージではないだろうか?アップルが発信するメッセージとは全く違う内容ではあるが、どうでしょうの「価値観連鎖」が示すメッセージに憧れている人たちは、実際には非常に多いと思われる(だから、どのDVDも未だに10万枚近く売れる)。

 というのも、現実の世界では、何をやるにしても事前に詳細な計画が必要とされるし、失敗に対する許容度も低い。もし失敗をすれば、それなりの説明責任が生じる。責任のなすりつけ合いなどをしようものなら、もっと厳しい弾劾の対象になるだろう。それから、「早く成果を出せ」という上司からのプレッシャーや、会社の体育会的なカルチャーが、回り道をしたり、脇道に逸れたりすることを許してくれない。本当は、そういうムダや遊びがあった方が、予想外の発見を得られるかもしれない、というのにも関わらずである。

 この息苦しい日常のことを、わずかな間ではあるが忘れさせてくれ、自分が心の奥底で憧れている生活を体現してくれているのが、他ならぬ「水曜どうでしょう」なのである。いみじくも大泉さんが『ヨーロッパ20か国完全走破 完結編』の中で、「私は『サラリーマンの入浴剤みたいな存在』ですよ」と発言したのは、まさにその通りなのだ。

(※)一部の価値観は、「フィル・シラー氏に聞く:アップル流イノベーションが大きく花開いた2010年(後編)」(ITMedia、2010年12月10日)の表現を拝借している。

【水曜どうでしょう論】シリーズ
 (1)某局のコンセプト「楽しくなければテレビじゃない」を本当の意味で体現しているのがどうでしょう
 (2)どうでしょう班の4人をつないでいる「共有価値観」
 (3)外部のパートナーを巻き込んで「価値観連鎖(バリューズ・チェーン)」を形成する
 (4)素人さえも「価値観連鎖(バリューズ・チェーン)」に組み込んでしまう凄さ
 (5)従来のマーケティングが軽視してしまった「作り手の主観的な意思」
 (6完)作り手の「価値観連鎖」と受け手の「憧れ」が交錯する所でビジネスは成立する

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