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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
September 06, 2011

【水曜どうでしょう論(5/6)】従来のマーケティングが軽視してしまった「作り手の主観的な意思」

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 4回にわたり、どうでしょう班との関係が深い外部パートナーや、番組の面白さを際立たせる個性的な素人さんたちを紹介してきた。どうでしょうにおいて、彼らのようなちょっと変わった人たちとのネットワークが重要なのは、彼らの価値観がどうでしょう班の共有価値観と非常によく似ており、彼らがどうでしょう班と接触することで、強固な「価値観連鎖(バリューズ・チェーン)」が生じるからである。

 今回の一連の記事では取り上げられなかったが、どうでしょうのスポンサー企業の担当者や、新作をいち早く全国で放送したVOD(パナソニックが運営するアクトビラなどのビデオ・オン・デマンド事業)の担当者、さらにはHTBからどうでしょうのコンテンツを購入してOAしている地方テレビ局の担当者に関しても、どうでしょう班の共有価値観に通ずるところがあり、「価値観連鎖」を強化する役割を担っているのかもしれない。

 ここまで「価値観」にこだわっているのは、マーケティングを論じる上で、作り手の主観面である価値観が重視されることが今までは少なかったからである。これにはある合理的な理由が存在する。マーケティングという言葉が使われ始めた時代のコンテキストを紐解くと、その合理的な理由が理解できると思われる。

 第2次世界大戦後、まだ需要が供給を上回っていた頃のアメリカは、メーカーが製品を製造すればそれだけで売れる時代だった。ところが、1960年代ごろから情勢が逆転して供給が需要を上回るようになり、単に製品を作るだけではダメだということに各社が気づき始めたのである。

 ここにきて各企業は、(1)市場をよく分析し、(2)自社製品を購入してくれそうな顧客層を特定して、(3)その顧客層に対し、具体的にはどんな製品をいくらで売るのが望ましいのかを真剣に考えるようになった。さらに、(4)どういう販売チャネルを構築すれば、自社が狙っている顧客層にモレなくアプローチできるか?あるいは、(5)どのようなプロモーションを打てば、顧客層のハートをキャッチできるのか?といった問題を提起して、十分な議論を重ねる必要が出てきた。お解りのように、(1)はセグメンテーション、(2)はターゲティング、(3)〜(5)はマーケティング・ミックス(マーケティングの4P)のことである。

 マーケティングの登場は、一言で言えば、「プロダクト中心」の考え方から、「顧客中心」の考え方へのパラダイムシフトを意味する。「顧客のことをよく理解せよ」、「顧客のニーズを第一に考えよ」―マーケティングを勉強した人たちは、こうしたフレーズを何度耳にしたことだろうか?

 「プロダクト中心」から「顧客中心」へのパラダイムシフトに拍車をかけたのは、同時期に大企業を相手に頻発していた「消費者運動」である。大企業は、作れば作るほど売れる時代の考え方に慣れきっており、製品に問題が起きても、対策をを先延ばしにしていた。

 しかし、弁護士で消費者運動のリーダーであるラルフ・ネーダーが、自動車の安全性に関する企業告発を行ったことをきっかけに、今まで幾度となく我慢を強いられ、煮え湯を飲まされてきた顧客の不満が爆発し、60年代から70年代にかけて、一気に消費者運動が盛り上がったのである(※1)。

 ドラッカーは「消費者運動の発生は、マーケティングの敗北を意味している」と、持ち前の過激な論調で企業をけん制した。このような時代の流れもあって、企業はマーケティングの意味を真剣に考えざるを得なくなり、顧客第一主義を体現する企業へと変革を進めることになった。

 ただ、「プロダクト中心」から「顧客中心」に一気に針が触れてしまうと、大事な視点が抜け落ちてしまう。それは、「売り手の意思」である。特定の業界に属する全ての企業が、「顧客中心」の考え方を貫いて、市場に投入する製品を開発すると仮定する。これはマーケティングの王道に沿った理想的な行動のように思える。しかし、逆説的ではあるが、各社から出てくる製品は、どこか似たり寄ったりなものになってしまうのである。

 なぜならば、供給過剰の状態では、複数の企業が同じセグメントをターゲット顧客として設定する可能性が高くなるからだ。そして、そのターゲット顧客に向けて各企業が投入する製品は、企業の組織能力や技術の違いによって多少の違いは出るものの、パッと見ただけではほとんど区別がつかない。

 実際、スーパーやコンビニ、家電量販店に足を運んでも、「どのメーカーも同じような製品だなぁ」と感じる人は決して少なくないはずだ。メーカー間、製品間の違いを知るためには、マニアックなほどに製品に精通している販売スタッフに声をかけるしかない。

 それぞれの企業がより個性的になり、エッジの効いた製品やサービスを世に送り出し、とんがったブランドイメージを確立し、他社との違いをより鮮明に打ち出すには、どうすればよいだろうか?ここで、マーケティングに対する見方をガラリと変えてみることを提案したい。

 一般的なマーケティングでは、「顧客が欲しがっている製品を製造し、顧客が求めているサービスを提供すれば、ビジネスになる」と考える。顧客のニーズは多種多様であるけれども、市場調査から得られたデータを統計的手法で分析すれば、客観的に顧客ニーズを体系化できるという前提に立っている。

 これに対して、新しいマーケティングでは、「自社を中心とするネットワークの『価値観連鎖』と顧客の『憧れ』が一致する時に、ビジネスが成立する」と考える。一般的なマーケティングに比べると、双方の主観的な側面がより強調されるのである。

 「価値観」とは、これまでも述べてきたように、企業が己の目的を実現する過程で直面する様々な課題に対して、想定される選択肢の中から、自社にとって最適なものを抽出する判断基準のことである。

 ただ、完全な垂直統合によって自社だけでバリュー・チェーンをカバーしている企業は非常に少なく、たいていは外部の組織や人材を活用しながら製品・サービスを提供している。外部のプレイヤーも、そのプレイヤーなりの価値観を持っているが、その価値観が自社のものと近ければ、プレイヤー間の連携がよりスムーズになり、製品やサービスをもっと効果的・効率的に提供できるようになる。自社と外部のプレイヤーが、類似の価値観を軸として緊密な関係を構築している状態を「価値観連鎖(バリューズ・チェーン)」と呼ぶ。これは、今まで述べてきた通りである。

 次回は、どうでしょうの「価値観連鎖」が顧客に対して発しているメッセージを具体的に考察してみたいと思う(次回で【水曜どうでしょう論】は最終回)。

(※)「消費者|Wikipedia」の「消費者問題・消費者運動」の項を参照。

【水曜どうでしょう論】シリーズ
 (1)某局のコンセプト「楽しくなければテレビじゃない」を本当の意味で体現しているのがどうでしょう
 (2)どうでしょう班の4人をつないでいる「共有価値観」
 (3)外部のパートナーを巻き込んで「価値観連鎖(バリューズ・チェーン)」を形成する
 (4)素人さえも「価値観連鎖(バリューズ・チェーン)」に組み込んでしまう凄さ
 (5)従来のマーケティングが軽視してしまった「作り手の主観的な意思」
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