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July 18, 2011

今月号はインド企業の事例がいっぱい―『ビジネスモデル 構想と決断(DHBR2011年8月号)』

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 (レビューの続き)

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企業と社会起業家の有機的パートナーシップ ハイブリッド・バリューチェーン(ビル・ドレイトン、バレリア・バディニッチ)
 いまや営利団体は、これらCSO(Civil Society Organization:市民社会組織)と力を合わせることで、どちらも単独では解決できなかった大規模な問題に対処できるようになった。このパートナーシップの力は、参加者たちの強みが相互補完的なところにある。すなわち、企業は、その規模、製造やオペレーション二巻sるう専門知識、資金調達力を、かたや社会起業家とCSOは、コスト・ダウン、影響力の大きいソーシャル・ネットワーク、顧客や地域社会に関する深い識見を提供している。
 企業が新興国でビジネスを展開する際には、「(潜在)顧客にどうやってアクセスするか?」という壁にぶち当たる。新興国における販売チャネルの構築やマーケティング施策の実行には、現地のCSOやNPOとの連携が有効であることを示している。なお、NPOとの連携については、DHBR2008年1月号にC・K・プラハラードの論文が載っているので、ご参考までに。

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手つかずの巨大市場を攻めよ 新興国ミドル市場で成功する条件(マシュー・J・アイリング他)
 多くの企業は、新興国市場の貧困層にローエンドの製品やサービスを大量に販売することで利益を確保するという誘惑に負けてしまっている。しかし、ハイエンドの製品やサービスは、それに手が届く少数の人々には、新広告市場においても入手可能だ。世界じゅうほとんどどこでも、<メルセデス・ベンツ>や洗濯機を買えるし、高級ホテルに泊まることもできる。

 我々の経験から、より将来性のある、参入すべき場所を提供しよう。それは、両極の間にある、巨大なミドル市場である。この層の消費者は、特定の所得層よりも、一般的な暮らしによって定義される。つまり、ミドル市場のニーズは、ローエンド向けソリューションではほとんど満たされていない。なぜなら、ハイエンドの代替品のなかで最も安いものであすら、手が届かないからである。
 「BOPではなく、ミドル市場にアプローチせよ」という論文。ミドル市場はグローバル企業にとって魅力的である反面、現地企業との競争が最も激しい市場でもある。しかし、ミドル市場で成功する秘訣は、それほど特別なものではない。つまり、顧客をじっくりと観察して潜在ニーズを浮き彫りにし、最適な製品やサービスを開発・提供するという、ビジネスのいろはの「い」である。よくある定量的な市場調査に頼るのではなく、文化人類学者のように顧客に密着し、五感を通じて情報を収集することが重要だと著者は言う(いわゆる「エスノグラフィー・マーケティング」である)。

 本論文には、インドのとあるミドル層向けの冷蔵庫の事例が登場する。この層は、月収が5,000〜8,000ルピー(約125〜200ドル)程度であり、一部屋に家族4、5人と暮らし、頻繁に引越しをするという特徴がある。彼らは、従来型冷蔵庫を自家用に所有する余裕がないため、共用の中古冷蔵庫を利用していた。

 彼らは、富裕層向けの冷蔵庫(=先進国で使われているような冷蔵庫)ほどの機能を必要としない。頻繁に食料品を購入し、引越しを繰り返す彼らにとって必要なのは、2、3日程度の食料が保存でき、かつ持ち運びが便利な小型の冷蔵庫であったという。

 エスノグラフィー・マーケティングに関連する記事は、過去にもいくつか書いたことがあるので、リンクを掲載しておきます。

 「顧客のことは顧客でも解らないことがある−『マーケティングこそすべて(DHBR2010年10月号)』
 「P&Gが顧客(=ボス)との距離を極限まで縮めるためにやっていること―『ゲームの変革者』

 個人的には、エスノグラフィー・マーケティングなどという難しい言い方をしなくても、顧客をじっくりと観察して真のニーズを発見するというのは、ビジネスの基本中の基本だと思う。しかしながら、こうした取り組みに本腰を入れている企業がどの程度あるのかはやや疑問である。

 一般的な市場調査を行えば、必ずレポートという形で成果物が残る。また、1回の調査で数多くの顧客の情報を収集することができるし、統計的な手法を用いて様々な示唆を導くことも可能である。だから、市場調査を行えば、何かしら仕事をした気分になってしまうのだ。

 仮に、大した分析結果が得られなかったとしても、「今回の調査対象者は、わが社のターゲット顧客にはならないのだろう」といった感じで片づけられてしまう。「戦略とは、”何をやらないか”を決めることでもある」というM・ポーターの有名な言葉に従えば、「特定の層が自社のターゲットに該当しない」ということも、重要な発見として重宝されるのである。

 一方、エスノグラフィー・マーケティングは時間も手間もかかるし、調査担当者の主観が入りやすい。それに加えて、必ず成果物が残るとは限らない。場合によっては、めぼしい発見が何も得られないことだってありうる。しかし、市場調査とは異なり、エスノグラフィー・マーケティングの場合は、何も発見がなければ、「君たちは会社の金を使って、ただブラブラしていただけではないのか?」という疑惑の目を向けられてしまう。

 エスノグラフィー・マーケティングのリスクやコストを承知の上で、こうした取り組みに寛容な姿勢を見せる企業だけが、新興国のミドル市場で現地企業とまともに勝負する資格を獲得するのだろう。

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すべてのステークホルダーの経験価値を共有する 人間中心の共創型事業をつくる(ベンカト・ラマスワミ、フランシス・グイヤール)
 エンド・ユーザーのために新しい経験を生み出すには、内部関係者にとっての経験を改善しなければならない。これは従来のプロセス分析でしばしば見逃されてきた事実である。
 全てのステークホルダーと言っても、実際には社員と取引先に焦点が当たっており、株主や債権者、社会的利益の保護を求めるNPOや消費者団体は本論文のスコープ外なので要注意。本論文で分析されているのは、「ES(社員満足度)向上⇒「CS(顧客満足度)向上」⇒「業績向上」という流れである。ちなみに、このチェーンについても、過去に記事をアップしたことがあるので、ご参考までに。

「ES向上⇒CS向上⇒利益向上」の自己強化システムについての考察−『バリュー・プロフィット・チェーン』
「ES向上⇒CS向上のサイクル」をサプライチェーン全体に広げてみたら―『バリュー・プロフィット・チェーン』

 通常のBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)では、ターゲット顧客と顧客価値を定義した上で、その価値を最も効率的・効果的に提供できるプロセスを描き、そのプロセスを支えるIT基盤や組織構造、予算配分のルール、適材適所を実現する人事システムといった様々な仕組みをデザインしていく。著者は、このような従来型の方法では、顧客満足度だけが過度に偏重されており、社員や取引先、協力企業の利害が考慮されていないと指摘している。この点は確かに「なるほど」と思った。

 本論文では、社員満足度の向上の視点から金融商品の販売プロセスをデザインしたヨーロッパの大手銀行や、サプライヤの満足度向上の視点から農作物の生産・流通プロセスを刷新したインド企業の事例が紹介されている。

 インドのコングロマリット企業であるITCは、インド農家の農作物が国際市場で求められる水準に達しておらず、農家の生産性が低すぎることに頭を抱えていた。従来型のBPRアプローチならば、ITCは農地を集約して大規模農家にし、品質の改善など厳しい条件をつけた売買契約を取りつけたことだろう。

 しかしITCは、低い生産性と少ない収入に苦悩する小規模農家の思いと、独立したままでいたいという彼らの切なる願いに共感し、貧困からの脱出を手がけるというアプローチをとった。具体的には、ITを活用した農業技術・ノウハウの提供や、伝統的な国営市場(この市場は腐敗しており、重量や価格のごまかしや支払い遅延に農家が悩まされていた)とは違う、透明で公正な取引を実現する市場の設置などを行った。その結果、農作物の品質と生産性は向上し、ITCは満足のいく農作物が入手できるようになったのとともに、農家にも収入増がもたらされたという。

 先ほどの「「ES向上⇒CS向上のサイクル」をサプライチェーン全体に広げてみたら―『バリュー・プロフィット・チェーン』」では、P&Gとウォルマートの事例に言及し、「P&Gの社員満足度の向上がウォルマートの仕入担当者の満足度にどのように影響し、ウォルマート全体の社員満足度にどう作用するか?」についての分析があると、もっと面白かっただろう、といった趣旨の内容を書いた。前述のITCの事例を読むと、サプライヤ(=農家)の満足度の向上が、顧客(=ITC)の満足度の向上につながっていることが(定性的ではあるが)うかがえる。

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