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July 12, 2011

企業買収は結婚と似ていると思う―『失敗に学ぶ人 失敗で挫折する人(DHBR2011年7月号)』

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 もうこれで7月号のレビューは終わりにするよ。残りの論文はM&Aに関するもの。1つはP&GのCEOアラン・ラフリーが自社のイノベーションやM&Aを振り返っているインタビュー記事であり、もう1つは中国企業のM&Aの成功・失敗事例を分析しているものである。

 正直に言うと、私自身はM&Aの案件に直接関わった経験がなく、前の会社で他のプロジェクト事例を見たり聞いたりした程度なので、今日の記事は感覚的な記述が多くなっている点はご容赦ください・・・。

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失敗からしか学べない(アラン・ラフリー)
 私は社内にチームを編成し、P&Gが1970年から2000年にかけて行った買収を徹底的に分析することにしました。その結果、同期間に買収が成功した割合はわずか25〜30%という実態が判明しました。この場合、成功とは、過去の投資実績と同等かそれを上回り、投資の目標から外れていないことです。資本コストを上回った場合は、部分的な成功としました。

 (買収を分析した結果、)失敗の根本的原因として次の5つを突き止めました。(1)双方にとって必勝法といえるような戦略の欠如、(2)統合の遅れあるいは不手際、(3)期待した相乗効果の未実現、(4)文化の相違、(5)リーダーの相性の悪さです。
 P&Gは、失敗を知的資産に変えるのがうまい企業だと思う。新製品開発やイノベーションが失敗に終わっても、そこから得られた教訓をグローバル規模で共有したり、プロジェクトが保有していた知的財産を他のプロジェクトに転用したりしている。M&Aに関しても徹底的な分析を行って、自社流のノウハウを構築しているあたりが、何ともP&Gらしいなぁと感じた。

 アラン・ラフリーの著書『ゲームの変革者』については、以前このブログでも取り上げたので、ご参考までに。

 P&Gが顧客(=ボス)との距離を極限まで縮めるためにやっていること
 柔らかいアイデアの段階で予算をつける勇気がイノベーションのカギ
 イノベーションを既存事業部門から敢えて切り離さないP&G
 P&Gは”イノベーションは結果が出ればOK”という柔な評価で済まさない

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上海汽車、徳隆のM&Aから学ぶ 七転八起の失敗学(ピーター・J・ウィリアムソン、アナンド・P・ラマン)
 中国企業のM&Aについて分析した論文。過去の失敗のパターンと最近の動向について、著者は次のように整理している。
中国がM&Aで犯したミス
(1)安価な取引や収益性の低い事業を追い求める。こうしたターゲットは普通は、経営を好転させるために多大な時間と資金をつぎ込まなければならない。
(2)ターゲットを評価する際に財務面ばかりを重視して、システムや人材、プロセス、ブランド価値といった無形の要素を軽視する。
(3)M&Aプロセスの重要なステップを省く。
(4)ブランドやシステム、人材、文化といった要素が価値の大部分を構成する企業をターゲットに選ぶ。国境を超えてそのような企業を統合するのは難しい。
(5)買収先の製品やサービスを中国市場でどのように利用するのかを前もって考えない。
(6)しかるべき能力や人材を有していないにもかかわらず、統合上の複雑な問題に対処しようとする。
中国の新たなM&Aアプローチ
(1)ブランドのような無形資産ではなく、油田や天然資源といった有形資産を買収する。
(2)最先端技術や世界的なR&D施設を有する企業や組織を探し求める。
(3)海外市場ではなく、中国市場で自社のポジションを強化するための手段として海外企業買収を利用する。
 論文の他の記述と合わせて整理すると、以前の中国企業は、バリューチェーンの川下の領域で落ち目のブランドを買収していたが、最近では川上の企業をM&Aのターゲットとしており、かつ天然資源や知的財産のような、比較的金額換算しやすい企業を買収しているようである。中国企業の触手は日本にも及んでおり、最近でも「中小製造業の集積地帯である大田区の買収を中国がもくろんでいる」といった記事が流れたこともあった。

 私は中国企業の戦略には詳しくないので、これ以上は何とも言えないけれども、以前「【第18回】プロセスを分解して特定プロセスを独占する―ビジネスモデル変革のパターン」で少し触れたように、バリューチェーンの川上では寡占が進みやすい。中国企業は豊富な資金と人民元安を利用して川上を握り、世界に対する影響力を着々と強めているようにも思える。

 ところで、今日の記事のタイトルにもあるように、企業買収と結婚は似ているところがあると思う。企業買収は新規事業進出の一形態と捉えることができるが、新規事業の中身が既存事業と近ければ近いほど、新規事業の成功率は高まる。

 新規事業の成功確率を大まかに予測するツールとして、「近接ステップ・テスト」というものがある。このモデルでは、既存事業と新規事業の内容の近さを、顧客、競合他社、販売チャネル、地理的条件、コスト構造、コア・コンピタンスという6つの要素で判定する。

新規事業の成功確率

 6要素のうち、いずれかの要素が既存事業と異なれば、1ステップ外向きに離れる。つまり、上図に従えば、新規事業の成功確率は37%になるわけだ。もし全ての要素が異なるならば、6ステップ外側となり、成功確率は非常に低くなる(※)。もっとも、ここで重要なのは、成功確率の厳密な数値ではなく、既存事業と新規事業の共通項が少ないと、新規事業の成功確率が低くなるという事実である。

 企業買収の場合も、おそらく同じようなことが言えるだろう。つまり、買収側の企業と買収される側の企業の共通項が少なければ、買収は失敗に終わる可能性が高くなる。ただし、企業買収の場合は、6つの要素にもう1つ重要な要素を付け加えなければならない。それは「企業文化」である。しかも、6要素の先頭に追加する必要がある。すなわち、買収企業と被買収企業の近接性を検証するにあたって、企業文化を真っ先に確認しなければならない、ということである。

 そして、結婚の際に互いの価値観の類似性を重要視するように、企業買収においても、双方の企業文化が似ているかどうかが、買収の成否を大きく左右すると思うのである。逆に、互いの価値観の違いが離婚の理由になりやすいのと同じように、企業文化の違いは買収を破綻させる要因になりやすい。

 しかし、価値観が全く同じ人間などいないのだから、価値観の違いを理由に離婚する人は、単に価値観が違うから離婚したというよりも、むしろ「お互いの価値観の相違点を認め、それを乗り越えるコミュニケーションを取らなかったから離婚した」と言った方が正確である。これを企業買収に当てはめると、企業文化が全く同じ企業など存在しないのだから、企業買収の成否は「双方の企業文化の相違点を認め合い、それを乗り越えるコミュニケーション」に懸かっていると言える。

 企業文化は、社員の行動規範や行動様式、仕事に対する価値観、意思決定の基準などを無意識のうちに規定する見えないソフトウェアであり、企業の隅々まで浸透している。先ほど紹介した「近接ステップ・テスト」の6要素は、経営陣でも比較的容易に把握することができる。買収を協議している2社の顧客層や販売チャネルがどの程度重なっているかは、経営企画部やマーケティング部、あるいは外部のコンサルティング会社などに頼んで分析資料を作ってもらえば、割とすぐに解るものだ。

 これに対して企業文化は、日々の業務をじっくりと観察しない限り見えてこない。しかも、買収後に双方の社員が一緒に仕事をするようになって初めて、お互いの企業文化を認識するものだ。それはちょうど、日本人が海外旅行をして初めて日本文化に気づくようなものである。

 買収後、双方の社員が協業するうちに企業文化の違いが明るみになり、それが原因で業務上のトラブルが発生するようになる。どちらの社員も、今までとは違ったやり方での仕事を強いられるわけだから、こうしたミスはある程度はやむを得ないものだ。

 ところが、この状態を放置しておくと、最初はささいなトラブルで収まっていたものが、それこそ先日紹介した論文「ニアミス:隠れた災いの種」のように、やがては取り返しのつかない大問題を引き起こしかねない。そして困ったことに、経営陣が買収をめぐる問題に気づくのは、こうした大問題が起こってからなのである。

(※)アンドリュー・キャンベル著『成長への賭け(上)』(ファーストプレス、2006年)
アンドリュー・キャンベル
ファーストプレス
2006-07-14
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