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June 29, 2011

「業務プロセスがイノベーションの原動力」というのは別の意味で一理あり―『イノベーションの新時代』

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M・S・クリシュナン、C・K・プラハラード
日本経済新聞出版社
2009-06-11
おすすめ平均:
「個客経験の共創」と「グローバル資源の利用」の価値創造戦略
主張に新規性なし
肩すかし
posted by Amazon360

 1ヶ月ほど前に紹介した本をまた取り出して記事を書いてみる(しつこい(笑))。本書はゲイリー・ハメルとの共著『コア・コンピタンス経営』で知られるC・K・プラハラードの著書であるが、本書のポイントは「イノベーションの源泉が”業務プロセス”にある」という点である。
 通例には反するが、本書では、戦略、業務、ビジネスモデルなどを切り口としたイノベーションの分類は重視しない。ここでもまた、イノベーションの基本原則−個客経験の協創とグローバル資源の利用−をめぐる議論と同じく、イノベーションのおもな原動力に注目したい。業務プロセスは、組織にとっていわば血流のようなものである。イノベーションにはさまざまな形があるが、たとえ形は違ったとしても、イノベーションを生み出す気風は共通の土台に支えられている。それが、融通の利く、磨き上げられた業務プロセスである。
 ただ、本書を読む限り、「業務プロセスはイノベーションを着実に実行するために必要である」、言い換えれば、「新しい戦略が画餅に終わらないようにするために、新しい戦略に適合した業務プロセスを構築しなければならない」という、至極当たり前のことを言っているだけのように感じる。

 しかし、私が思うに、業務プロセスがイノベーションの源泉になるというのは、別の意味で真実である。なぜなら、イノベーションは「例外」から生まれることが多いからだ。そして、例外を判断する基準となるのが、標準的な業務プロセスなのである。

 ここでいう業務プロセスとは、製品やサービスを製造・販売するプロセスに加えて、その製品やサービスが提供している経験価値や、その経験価値を享受するターゲット顧客、さらにはプロセスを支える組織構造やITインフラ、社員の人数やスキル、人事異動のルールや評価制度、予算管理の仕組み、ナレッジやノウハウ、意思決定の構造、その他諸々の社内ルールまでを含めた、統合されたシステムであると捉えていただきたい。

 マネジメントの定石としては、まずはターゲット顧客とその顧客に提供したい価値を定義し、その価値が具現化された製品やサービスを企画する。次に、その製品やサービスを最も効果的、効率的に生産・販売できるプロセスを構築する。そして、プロセスが円滑に運用されるよう、ヒト、モノ、カネ、情報、知識といった経営資源を、どのプロセスにどの程度投入するかをルール化していく。こうしたルールが、組織構造や予算配分の方法、人事制度などといった社内の様々な仕組みに反映されていく。これらの多様な要素が一貫した形でがっちりと組み合っていれば、企業は高い競争力を手に入れることができる。

 だが、この統合されたシステムに矛盾をきたすような「例外」が、日常業務の中ではしばしば起こる。例えば、「想定外の顧客に製品がよく売れる」とか、「全く眼中になかった販売チャネルから、わが社の製品を扱いたいとの依頼が来る」といった具合である。こうした例外こそが、イノベーションの源泉になると思うのである。

 ドラッカーはイノベーションの「7つの機会」を整理しているが、最も頻度が高く、かつ最も成功の可能性が大きい機会として「予期せぬ成功」を挙げている。実際に、「予期せぬ成功」がイノベーションにつながった事例が、ドラッカーの著書『イノベーションと起業家精神』の中でいくつか紹介されている。その中から1つだけ引用しておこう。

P.F.ドラッカー
ダイヤモンド社
2007-03-09
posted by Amazon360
 動物用医薬品業界において、世界の主導的な地位を占めているスイスの医薬品メーカーがある。しかし、扱っている動物用医薬品のうち、自ら開発したものは1つもない。それらの医薬品を開発したメーカーが、動物用医薬品市場に進出することを嫌ってくれたために扱えるようになったにすぎない。

 抗生物質を中心とするそれらの医薬品は、もともと人間用に開発したものだった。したがって、獣医たちが注文を寄こしたとき、開発したメーカーは喜びはしなかったし、ときには売ることさえ拒否した。当然、動物用に調合を変えたり、包装を変えるようなことはしなかった。(中略)

 人間用の医薬品は、世界中で激しい価格競争にさらされ、しかも行政による厳しい規制を受けるようになった。その結果、今日では、動物用医薬品が医薬品業界で最も利益率のよい分野になった。だが、その利益を享受しているのは、それらの医薬品を開発したメーカーではない。
 開発メーカーの業務プロセスは、人間用医薬品の開発・製造・販売に適したものになっていたことだろう。仮に獣医に向けて販売することになれば、調合や包装のプロセスも変えなければならないし、マーケティングも人間用医薬品と動物用医薬品の両方について実施する必要が出てくる。さらに販売チャネルについても、人間用と動物用が入り混じった複雑なものになるだろうし、自社の営業担当者には、獣医用医薬品の知識を新たに叩き込まなければならない。

 開発メーカーは、長年にわたって統合的なシステムを構築してきた。それを変更する作業があまりにも厄介に感じられたため、動物用医薬品という新しい市場の魅力が見えなくなってしまったのであろう。だから、獣医からの注文という例外に出くわしても、それをイノベーションの機会ではなく、単なる厄介な問題として片付けてしまったと推測される。逆に、例外をイノベーションの機会と捉えたのが、スイスの医薬品メーカーであったわけだ。

 「例外」は、毎日いろんな顧客に接し、細かいプロセスをいくつも遂行している現場の人間の方が気づきやすいかもしれない。こうした例外から新しいビジネスを作り出していく人材が現場付近に溢れている企業こそが、イノベーションに強い企業となるであろう。NRIラーニングネットワークの亀井敏郎氏は、こうした人材を一般的な経営職(CXO)や管理職と区別して「経営職ミドル」と呼び、その役割を次のように説明している。

亀井 敏郎
ファーストプレス
2005-10-07
posted by Amazon360
 (経営職ミドルは、)顧客の立場で問題を発見し、収益が上がる形でその解決策を提供しなくてはならない。これはビジネスプロセスの設計の問題であり、収益性の観点から業務の流れをつくりあげることだ。それには自社の強みや弱み、経営資源の特性などが関連してくるため、自社のことをよく知らなければできないのである。
 顧客と自社の間に新しい業務の流れをつくり出す一方で、顧客接点となる現場では、組織としてのマネジメントも求められる。顧客の立場を重視した業務を円滑に進めていくためには、担当するメンバーの配置や指揮・命令系統の整備、さらには個々のモチベーションの維持・向上が必要になるからだ。これは経営のミニチュア版であり、「現場の会社化」という考え方である。
 経営職ミドルは、自社が本来想定してた顧客ニーズと、それに合致すると思って用意した製品・サービスが、目の前にいる顧客にはうまくマッチしない場合でも、社内の資源(時には社外の資源も)をうまく組み合わせて最適なソリューションを提供する。この場合、往々にして標準的な業務プロセスとは違ったプロセスが構築される。経営職ミドルの1つ1つの解決策だけを見ればさほどインパクトはないかもしれない。ところが、複数の経営職ミドルが似たような新しいソリューションを提供するようになれば、それはイノベーションへとつながっていくだろう。

 経営職ミドルがイノベーションを創出できるのは、突出した才能のおかげとは限らない。自社が用意した標準プロセスがあるからこそ、経営職ミドルは「例外」を発見できると考えられる。この意味で、業務プロセスはイノベーションの源泉と言えるのである。

 多くの企業は標準プロセスを用意した上で、プロセスの成果を図るための指標を設定し、目標値を定めている。そして、いわゆる「進捗会議」を開いて各指標の値をモニタリングし、目標に届かなかった場合は、その原因を分析する。ところが、標準プロセスに該当しない「例外」を会議の材料にして、

 「その例外は自社にとって何を意味するのか?」
 「本当に単なる例外として片付けていいのか?」
 「実は、自社が見過ごしていた新しいビジネスチャンスがあるのではないか?」
 「その例外に目をつけている他の企業はいないのか?」
 「いるとすれば、その企業はどのような対応策をとっているだろうか?」

などといった論点について対話を繰り広げている企業はまだまだ少ないのではないだろうか?(このような対話の場については、「進捗会議」のような適切な語句が見当たらないことからも解る)逆に、そういう対話ができる企業は、イノベーションの機会を他社よりも上手に発見するに違いない。

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