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May 23, 2011

社会的ニーズの充足を通じて経済的価値を創造する(1)―『戦略と競争優位(DHBR2011年6月号)』

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 今月のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューは、競争戦略で知られるマイケル・ポーターの論文集。先月号に続いて過去の論文のまとめだったので、「おい、またかいっ!?」っていう気持ちになったけれど、改めてポーターの論文を読み直してみたら、いろいろと考えさせられることがあった。

経済的価値と社会的価値を同時実現する 共通価値の戦略
 この論文は今月号のための書き下ろし。ポーターの主張を掻い摘んで言うとこんな感じかな。「企業は経済的価値の実現ばかりを追求していてはダメ。企業は地域社会があってこそ存続できるのであって、地域社会における様々なステークホルダーの”社会的ニーズ”をも満たす必要がある。企業の第一の目的は、社会的ニーズの充足を通じて経済的な利益を創出することである」

 社会的責任(CSR)の議論と似ているけれども、重要なのは最後にある「社会的ニーズの充足を通じて経済的価値を創造する」という点である。日本の場合は、昔から「三方よし」の考え方があり、さらに明治や戦後の起業家の多くは社会的な貢献を重視していたから、この手の主張は当然のように思える(とはいえ、最近の「生肉ユッケ事件」のように、倫理に反した企業の行動は絶えないわけだが)。

 ただ、アメリカだと未だにCSRが必要悪、あるいは社会的批判を避けるためのコストのように扱われているようで、この課題認識がポーターの議論の出発点になっている。ポーターは、社会的価値と経済的価値の両立を目指しており、それを「共通価値」と呼んでいるわけである。

 ポーターが言う社会的ニーズとは、天然資源の節約、不十分な公的教育を補うための社員の再教育、社員や顧客の健康促進、自社工場が立地する地域住民の生活への配慮、サプライヤーの生活の保障、金融システムの安定化など、社会が存続するための様々な要件を指している。こうした社会的ニーズを満たさなければならないということは、裏を返せば現状では企業が社会的ニーズを満たすことができてきていない、ということに他ならない。

 従来のCSRの考え方だと、「社会的ニーズに対して企業が自社の利益を補填する(それによって、非営利団体や環境保護団体などの批判をかわす)」という打ち手が導かれる。一方、ポーターの「共通価値」の考え方では、「社会的ニーズの充足を通じて、自社の利益を拡大する」という流れになる。両者の違いについて、ポーターはフェア・トレードを例にとって、次のように説明している。
 フェア・トレードの目的は、同じ作物に高い価格を支払うことで、貧しい農民の手取り額を増やすことである。気高い動機ではあるが、創造された価値全体を拡大するものではなく、主に再配分するためのものである。

 一方、共通価値では、農民の能率、収穫高、品質、持続可能性を高めるために、作物の育成技術を改善したり、サプライヤーなど支援者の地域クラスターを強化したりすることが重視される。その結果、売上げと利益のパイが大きくなり、農家と収穫物を購入する企業の双方が恩恵に浴する。
 ここでちょっと思ったのだが、環境負荷を無視した過剰な生産や複雑な流通、社員を馬車馬のように働かせるマネジメント、海外工場の周辺住民の健康を損なう危険な生産、サプライヤーへのコスト転嫁や不利な契約条件の押しつけ、金融システムを大混乱に陥れるかもしれない高リスクの金融商品の乱発などといった社会的弊害の原因の一部は、実はポーターの名を世界的に有名にした「ファイブ・フォーシズ・モデル」にもあるような気もするんだよね?(ポーターは絶対に反論するだろうけど)

 ファイブ・フォーシズ・モデルとは、業界構造を(1)新規参入の脅威、(2)代替品の脅威、(3)売り手の交渉力、(4)買い手の交渉力、(5)既存企業同士の競争、という5つの切り口で分析するフレームワークである。各業界の魅力度(=どのくらい利益を生み出せる可能性があるか)は、この5つの要因の強さとバランスによって決まる。そして、企業が自社の利益を拡大するには、各要因が自社にとって有利に働くよう仕掛けるとよい(=これが戦略的打ち手である)、というのがポーターの教えである。

 ただ、この考え方を推し進めると、極端なことを言えば、新規参入や代替品を排除して、売り手や買い手の交渉力を弱め、競合他社と過度な競争をしなければ、自社の利益を拡大することができる、ということになってしまう。具体的には、

 ・参入障壁を高くするような規制強化を政府に持ちかける。
 ・売り手(サプライヤー)の数を減らして自社への依存度を高くし、「うちの言い値で部品を作ってくれないんだったら、お宅との契約は切りますよ」と脅す(もちろん、恐喝にならない範囲で)。
 ・製品の計画的陳腐化を促して、顧客が新製品を次々と購入しなければならない状況を作る。
 ・独占禁止法に引っかからない程度に競合他社と協調して価格を維持し、顧客から利益をかすめ取る。

といった行動に出る企業が出てくるのである。

 (続く)
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