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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
May 06, 2011

【第14回】の補足1―ファストリの農業参入は、既存事業(ユニクロ)の規模が小さければ結果が違ったかも

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 先日の「【第14回】プロセスを垂直統合する―ビジネスモデル変革のパターン」は、ユニクロとしまむらのことをいろいろと調べながら書いていたら、それだけでものすごい長い記事になってしまった。本当は、もう少し事例を取り上げたかったんだよね。なので、ちょこっと補足しておくよ。

《農業参入》
 ファーストリテイリング(ファストリ)は、2000年代の始めに農業に参入したことがある。ユニクロで培った垂直統合型のSCM(サプライチェーンマネジメント)のノウハウを農業にも適用し、「よりよい農作物を、より安い値段で提供する」のが狙いである。つまり、SPAシステムの農業版を目指していたわけだ。1,000億円の売上を目標とし、ファストリの第2の事業に育てるはずだった。

 しかしながら、ファストリはわずか1年半あまりで農業ビジネスから撤退した。その理由についてはいろいろ言われているけれど、「衣料品と違って天候に左右されやすい農作物は、在庫のコントロールが難しかったことが主たる原因」ということになっている。ただ、それ以外にもいくつか思い当たる要因はある。

 ファストリは、中国の工場を活用した大量生産で、衣料品のコスト減に成功した。また、需要が変動しても、基本的には中国の工場だけにその情報を伝えればよいので、生産量のコントロールが効きやすい。ところが、農業では大量生産ができないし、土地によって生産できる農作物も異なる。よって、ファストリは全国の農家と幅広く提携する必要があった。

 ちなみに、目標としていた1,000億円というのは、どのくらいの規模感なのだろうか?大手小売店の売上に占める食品部門の割合(2011年2月期)を見てみると、イオンリテール=56.5% 、イトーヨーカ堂=59.6%、ユニー=66.3%、ダイエー=69.1%、イズミ=58.5%、イズミヤ=63.1%、平和堂=69.1%、フジ=66.0%となっている(※)。

 イオンやイトーヨーカ堂は1兆円企業なので、食品部門だけで6,000億円ぐらいの売上があることになるけれども、イズミヤの売上高は2,661億円、平和堂の売上高は3,271億円であるから、食品部門の売上は1,500億〜2,000億円という計算になる。この点を踏まえると、ファストリの1,000億円という目標は、かなり野心的なものであり、イオンやイトーヨーカ堂には敵わないけれども、イズミヤぐらいのGMSとはガチンコで勝負する気だったのだろう。そうなると、相当な数の農家との提携がファストリには求められる。その労力がファストリにはなかった、ということも考えられる。

 とはいえ、ファストリぐらいの馬力がある企業ならば、力技で農家のネットワークを形成することができたかもしれない。けれども今度は、「いいものを安く」という事業コンセプトに合わなくなる。大半の農家は「普通の農作物」を作っているわけだから、ネットワークが巨大になれば、流通する農作物は「普通のもの」が中心になる。せいぜい、ファストリのコスト低減のノウハウを活かして、価格を下げることができるぐらいだ。そうなると、ファストリの製品は「イズミヤなどとほとんど同じで、ちょっと安い」という程度のポジショニングにしかならない。

 ファストリは、おそらくそうなることが解っていたから、参入当初から「永田農法」に目をつけていたのだろう。必要最小限の水と肥料しか使わず、敢えて厳しい生育環境で作物を育てるとうまみが格段に増すのが永田農法の特徴である。

 ただし、永田農法ができる農家は限られているため、今度は事業を大きくできない。永田農法に頼ると、ファストリの既存事業(この時すでに約4,000億円)と新規事業の規模が釣り合わなくなる、という点も撤退の要因になったと思われる。仮に、当時のユニクロの売上が1,000億円程度しかなく、農業ビジネスの目標が200億円ぐらいであったならば、別の道をたどったかもしれないね。

 農業参入は、事業規模を限定すれば決して不可能なビジネスではない。現に、飲食店の中には自ら農業をやっているところもあるし、特定の契約農家と直接取引をしているところもある。ただ、その規模を大きくしようとすると、ファストリのような壁にぶち当たるわけである。

(※)「小売店経営情報−GMS&食品スーパー 商品部門別粗利益率(2011年2月期)」(小売店経営情報 最新記事、2011年4月23日)
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