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May 02, 2011

【第14回】プロセスを垂直統合する―ビジネスモデル変革のパターン

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【パターンの概要と適用できるケース】
 前回の「プロセスを分解して特定プロセスに特化する」パターンの舞台は”垂直統合型”の業界であったが、今回の舞台は製造と販売のプレイヤーが異なり、さらに製販の間に多段階の流通構造が存在するような、”分散型”の業界である。

 ”分散型”の業界は、2つの理由で非効率を生みやすい。1つは、各プレイヤーが品切れを恐れて多めに在庫を持とうとするため、バリューチェーン全体で見ると在庫過多の状態になりやすいという点である。過剰在庫はコスト高を招くから、最終的にはそのコストが最終顧客向けの販売価格に転嫁される。

 もう1つは、製造と販売が離れているために、販売の現場が感じている顧客ニーズの変化をメーカーにフィードバックしにくいという点である。メーカーはニーズを的確に捉えることができず、的外れな新製品を作ってしまう可能性がある。失敗作によってメーカーが抱えたコストは、別の製品の価格に転嫁されるから、結局のところは最終顧客がコストを負担することになる。

 これら2つの非効率を解消し、顧客のニーズに合致したリーズナブルな価格の製品を、需要の変動に応じて柔軟に提供できるように、バリューチェーン全体を垂直統合するプレイヤーが登場するわけである。

【パターンが当てはまる事例】
《GAP、ユニクロ、しまむら》
 このパターンの代表例は、GAPやユニクロが採用しているSPAのビジネスモデルである。SPAとは、GAPのドナルド・フィッシャー会長が1986年に発表した「Speciality store retailer of Private label Apparel」の頭文字を組み合わせた造語である。

 従来のアパレルメーカーは、製品企画と仕上げの2次製造は自社でやるものの、1次製造は外注を使い、商社を使って製品を流し、最後は百貨店で販売するというスタイルであった。これに対してSPAでは、製造から小売まで全てのプロセスを自社で一貫して行う。

(14)プロセスを垂直統合する

 ユニクロはSPAのシステム構築と改善に並々ならぬエネルギーを注いでいる。2000年代に入ってから一時期ユニクロの業績が落ち込み、マスコミの間で「ユニクロはもうダメだ」という悲観論が広まっていた中でも、柳井社長はSPAシステムの改善をコツコツと続けていたという(※1)。

 ただし、これほどSPAシステムに熱を入れていても、ユニクロの既存店売上高は2010年8月から5ヶ月連続で前年同月比を割り込んでしまった。特に、冬場は暖冬の影響で主力の冬物製品が思うように売れなかった。暖冬であることが解れば、すぐに製品ラインナップを見直して生産量を変えることもできたのではないか?という感じもするけれども、それが思うように行かなかったところを見ると、柳井社長は「ユニクロのSPAシステムにはまだまだ改善の余地が大いにある」と考えているだろうね(ちなみに、1986年以来の寒さとなった1月になってようやく、ヒートテックなどの売れ行きが戻り、マイナスに歯止めがかかった(※2))。

 ちなみに、ユニクロは本当にバリューチェーンの全機能を自社の経営資源でまかなっているわけではなく、一部はアウトソーシングを活用している。製造工場は中国に委託しているし、物流は商社を活用している。日本国内の物流に関しては三菱商事と、中国の物流に関しては伊藤忠と提携している(※3)。しかし、アウトソーシング先に対するユニクロの影響力は強く、事実上”アパレル版の系列”のような状態になっている。

 例えば、中国の製造工場にはユニクロの社員が常駐して徹底した品質管理を行っている。また、編み・織布・染色・縫製などの各分野で経験30年以上という熟練した職人たちを中国に派遣し、中国人技術者の育成を図る「匠プロジェクト」なるものも存在する(※4)。

 商社の活用についても、通常のアパレルメーカーのように、商社に任せきりにすることはない。もともと、生地やボタン、糸などの素材の選定から調達の過程は、商社の独壇場である。商社は世界中に張り巡らせた情報網を通じて、最も安く最も適切な素材を海外の工場に集める。工場で生産された製品は、検品後に一旦商社の現地倉庫に納入され、その後国内の物流センターに運ばれる。

 ここまでの表面上のプロセスは、通常のアパレルメーカーと同様である。ところが、ユニクロが決定的に違うのは、各プロセスにおいて必ず同社の現地スタッフが決定権を持ち、彼らが最終的なゴーサインを出さないと動かないようになっている点だ。商社が持ってきた素材の採用の可否や、工場で製造した製品の品質管理、倉庫に納入された製品の搬出スケジュール・搬出量などを決定するのは、ユニクロの社員なのである(※5)。

 ユニクロとは全く異なる方法でSPAを実現しているのがしまむらである。実のところ、しまむらは製造機能を持っていないので、厳密に言えばSPAには該当しないかもしれない。しかし、取扱製品のほとんどはしまむらの専売品やPB製品であり、しまむらが完全買取を実施し、さらに価格決定権を握っている。

 また、同社のバイヤーは素材メーカーと直接商談し、同社が素材を押さえた上で、複数の製品メーカーに割り振って製品化を行う(決済は素材メーカーと製品メーカーが直接行う)。以上の点を踏まえると、しまむらは事実上メーカーと変わらない(※6)。

 逆にしまむらは、ユニクロが自社では持っていない物流機能を持っている。「自前でやるから宅配便の4分の1のコストでできるのだ」というのがしまむらの考え方のようである(※7)。

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?

 ・需要変動に応じて生産量、在庫量を柔軟に変更できるSCM(サプライチェーンマネジメント)
 (ユニクロの強みそのもの。また、事例では触れていないが、垂直統合型産業の典型である自動車業界において、SCMに最も強いのは言うまでもなくトヨタ。)

 ・販売現場から製品企画・製造へ顧客ニーズを迅速にフィードバックする仕組み
 (2000年代初頭に、ユニクロはABC(オールベターチェンジ)改革と呼ばれる運動を進めた。これは、「本部主導型経営から店舗自立型経営への移行を目的とした全社的な意識変革の活動であり、顧客接点である店舗を重視する組織運営に注力したものである。返品・交換などで店頭から得られる顧客の声や、社外モニター、メールなどを通じて判明した顧客のニーズを、製品開発に反映させている(※8)。)

 ・各プロセスに関する高い専門知識・スキルを持った人材の育成
 (ユニクロもしまむらもそうだが、バリューチェーンの全てのプロセスを完全に自社で行っているわけではなく、部分的にアウトソーシングを活用している。ただ、委託先と対等に渡り合えるよう、委託先の企業の社員と同じくらいの専門知識・スキルを自社社員にも習得させている。しまむらが年4回〜6回のペースでバイヤーをヨーロッパに派遣し、ヨーロッパ各都市のトレンドを学習する機会を与えているのがその一例。)

 ・専門性パワーを活用したアウトソーシング先へのコントロール強化
 (委託先をあたかも自社社員であるかのようにコントロールするためには、単なる契約を超えたパワーが必要である。そのパワーの源泉となるのが、前述の人材育成を通じて獲得された専門性であろう。専門性パワーがあるからこそ、ユニクロの社員は中国の工場に常駐して品質管理ができるし、しまむらの社員は素材メーカーとアパレルメーカーの間に入って主導権を握ることができる。)

(※1)柳井正著『一勝九敗』

柳井 正
新潮社
2006-03
おすすめ平均:
■経営者の苦しみがリアルに伝わってきました
MBAでも裸一貫でもない普通の経営者の成功哲学がここにあります
カリスマ経営者も普通の人?!
posted by Amazon360

(※2)「ユニクロ、1月売上高10.7%増 6カ月ぶりにプラス」(SankeiBiz、2011年2月22日)
(※3)「伊藤忠「中国消費」深掘り――ユニクロ商品配送、物流に強み、650都市網羅。」(リテールハックJAPAN、2010年11月8日)
(※4)「「匠」から生まれる、ハイクオリティカジュアル」(ユニクロHPより)
(※5)「低価格高利益システム」(青山学院大学 田辺ゼミナールHPより)
(※6)「しまむらが磨きをかけるバーチャルSPA(製造小売)」(ファッション流通ブログde業界関心事、2010年6月28日)
(※7)「物流産業は何を売るのか」(ロジスティクスマネジメント研究所、2008年1月21日) 月泉博著『ユニクロvsしまむら』(日本経済新聞出版社、2009年)に同様の記述あり。

月泉 博
日本経済新聞出版社
2009-11-03
おすすめ平均:
読んだほうがいいよ。 すぐに読めると思うよ。経営書としても素晴らしい本。アパレル業界以外の人にもお薦めしたい。
posted by Amazon360

(※8)「快進撃支える新マスマーケティング戦略」(社団法人日本マーケティング協会発行 マーケティングホライズン 2000年7月号)

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