※2012年12月1日より新ブログに移行しました。
>>>現行ブログ free to write WHATEVER I like
⇒2019年にさらにWordpressに移行しました。
>>>現行HP シャイン経営研究所(中小企業診断士・谷藤友彦)
⇒2021年からInstagramを開始。ほぼ同じ内容を新ブログに掲載しています。
>>>Instagram @tomohikoyato
   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
April 18, 2011

真の楽観主義者は究極の現実主義者である―『リーダーシップ 真実の瞬間(DHBR2011年5月号)』

拍手してくれたら嬉しいな⇒
posted by Amazon360

 東日本大震災を受けて、5月号の特集が「危機的な状況下でのリーダーシップ」に変更されていた。大半の論文は2001年の9.11テロや、2005年のハリケーン・カトリーナの直後に執筆されたものであり、急遽これらの論文をかき集めて特集を組み直したようだ。

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
当初の成功要因が後の衰退を招く なぜ日本は国際舞台で脇役になったのか(J・スチュワート・ブラック、アレン・J・モリソン)
 我々は過去四半世紀にさかのぼり日本企業の盛衰について調査した結果、当初の成功要因が後の衰退につながっていることを発見した。成長を後押ししたものが成長を維持してくれるとは限らない。日本企業にとっての問題は、輸出主導による当初の経済成長を推進した企業文化とプロセスを、グローバルなリーダーシップに必要なものに発展させられなかったことにある。
 これは新規の論文。(1)自社流への固執、(2)孤立した国内市場、(3)従順な国内の労働力、(4)経営陣の均質性という4つの要因が日本企業のグローバル化を妨げている、というよくある内容の論文。

 まぁ、それはそれでいいんだけど、著者が日本企業の衰退の根拠として挙げている、「フォーチュン500全体の売上高に占める各国企業の売上高の割合」という数字がどうも解せないんだな。確かに、1995年には141社の日本企業で35.2%の売上高を占めていたのだが、2000年が20.8%、2010年が11.2%と減少傾向にはある(ランク入りした企業も68社と半減)。

 ただ、アメリカを見ても、2000年に40%近くまで上がったのに、その後の10年間で10ポイントも数字を落としている。(1)グローバルスタンダードの確立に躍起になり、(2)海外投資を積極的に受け入れ、(3)移民を含む多様な労働力が存在し、(4)経営陣の多国籍化を進めているアメリカでさえ、約10ポイントも数字を落としていることについて、著者はどう思っているのか聞いてみたいよ・・・

(※)論文中のグラフでは、先進諸国の中で唯一、EU(スイスも含む)だけが着実に数字を伸ばしており、2009年時点で37%ぐらいになっている(1995年比で約7ポイント増)。けれども、EUは加盟国自体が増えているわけだから、パーセンテージが上がっても不思議ではない。

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
危機や難局を乗り越える不思議な力 「再起力」とは何か(ダイアン・L・クーツ)
 再起力の高い人は3つの能力を宿しているという仮説が成り立つ。それらは次のようなものである。

(1)現実をしっかり受け止める力
(2)「人生には何らかの意味がある」という強い価値観によって支えられた、確固たる信念
(3)超人的な即興力

 たしかにこれらの能力が1つや2つあれば困難を乗り切れよう。ただし、本当に再起力があるという意味においてはこれらの3要素すべてが必要なのだ。また、再起力の高い組織について考えた場合も同様である。
 生死を分けるような極限状況に置かれると、精神的にも肉体的にもダメになってしまう人がいる一方で、それでも踏みとどまって前進することができる人もいる。後者の人たちに特有のスキルが「再起力(resilience)」だと著者は言う。

 引用文にある再起力の定義だけを読むと、至極当たり前の内容に思えるけれど、再起力にはれっきとした研究の裏づけがあるようだ。ホロコーストの体験者、精神分裂症の親を持つ子どもなど、悲惨な経験を持つ人々を対象とした様々な心理学的研究がすでに半世紀近くも行われているという。

 1点、重要なポイントについて補足しておくと、「再起力がある人」と「楽観主義者」は必ずしもイコールではない(論文中では、『ビジョナリー・カンパニー』の著者であるジェームズ・コリンズの研究を引用しながら、この点が強調されている)。「困難な時こそ楽観的に考えよう」なんてよく言われるけれど(実際、今回の震災後もそんな言葉が聞かれるけれど)、個人的にはこういう甘いフレーズに惑わされてはいけないと思っている。

 現実の痛みから目をそらして、単に「明日はいい日になりますように」とバカの一つ覚えのように祈るだけの人は楽観主義者ではない。それはただの能天気というものである。本当の楽観主義者は、自分が思い描いている理想的な未来と、足下の現実とがあまりに違うことを十分すぎるぐらいに認識しているものだ。その違いに苦しみながらも、何とか理想と現実のギャップを埋めようと試行錯誤する。

 状況があまりにも厳しければ、あるいはあらゆる手を尽くしてもなかなか事態が好転しなければ、理想像そのものの変更を余儀なくされることもあるだろう。その苦しみたるや、楽観主義という言葉の響きからは到底想像できないものだ。ただ、その苦労を他人には見せないよう、周囲に対しては明るく振舞っている。だからこそ楽観主義者なのである。この点で、真の楽観主義者は究極の現実主義者であると言える。著者が指摘する「再起力」の3要素のうち、最も重要なのは(1)現実をしっかり受け止める力だと思うのである。

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
民間援助機関とのパートナーシップのつくり方 災害援助とCSR(アニシャ・トーマス・フリッツ、リン・フリッツ)
 現金は何にでも利用できるため、援助機関は何より現金の寄付を望んだ。ところが、それに飽き足らず、現物による寄付、通信機器やIT機器の提供、ロジスティックスの専門スタッフやマネジャーの派遣を申し出るグローバル企業が多数に上った。

 しかし、このような反射的反応から、民間企業と援助機関の協力体制には、さまざまな欠陥があることが明らかになった。たとえば、だれが、どのような援助を必要としているのか、企業側に伝える包括的なリストがなかった。企業側が提供できる資源とその所在地を把握できる仕組みもなかった。
 2004年のスマトラ沖大地震後に発表された論文。全く同じ問題が今回の震災でも起きていたように思う。震災後のtwitterでは、「【拡散】○○地域で△△が足りません。どなたか支援お願いします」といったツイートが多く見られた。食料や日用品に加えて、病院の重油、物資を運ぶためのガソリンなど、実に様々な物資が必要とされていた。

 引用文にもあるように、そして今回の震災でも多くの人が考えたように、他のモノに変えられない現物よりは、用途に制限のない現金の方が被災地にとってはありがたい。しかし、どの地域で何が足りないのかがあらかじめ解っていれば、現物をすぐに送ることも可能になる。

 今後数十年のうちに東海大地震や関東直下型地震の発生が確実視されていることも踏まえると、このような支援要請の情報を取りまとめ、企業や個人からの救援物資を迅速に調達・配分する仕組みについては、継続的な議論が求められるだろう。さらに、今回のように物流がマヒした場合は、物資だけでなく物流面でも企業の協力を仰がなければならない。物資の調達と現地への物流をセットにして、望ましい協業体制を検討する必要がありそうだ。
トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:

コメントする