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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
April 14, 2011

P&Gは”イノベーションは結果が出ればOK”という柔な評価で済まさない―『ゲームの変革者』

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A.G.ラフリー
日本経済新聞出版社
2009-05-23
おすすめ平均:
気付きを促してくれる本。Consumer is boss この言葉を心に刻みたい。
『イノベーションと起業家精神』の現代実践版
イノベーションを中心とする経営の教科書
posted by Amazon360

 (12ステップの内容をそれなりにまとめようとすると、やっぱ4つぐらい記事が必要なんだな・・・)

 先日の記事の補足になるが、C&D(コネクト・アンド・ディベロップ)の成果について、本書の中で次のように述べられている。
 (本書の執筆時点で、)C&Dは500ほどの案件を成功裡に終わらせている。平均して1週間に2つの割合だ。この成果として合計200以上の新商品が発売されている。2001年に設定した目標は達成した。2007年にP&Gが着手したものの50%以上(※)は、少なくとも1社の社外パートナーと協力している。P&Gは世界で選ばれるパートナーになるという目標を達成しつつあると言ってもよいだろう。
 (※)の部分は何だか曖昧な表現になっているけれども、別の箇所と合わせて総合的に判断すると、P&Gでは「新たなアイデアのうち、50%以上は社外パートナーとの協力によるものとする」という目標が設定されているようだ。C&Dは、この目標の達成に不可欠な存在となっている。

【Phase3:実行&評価】3-3.進捗管理
【Phase3:実行&評価】3-4.業績評価・人事評価
《プロセスの概要》
 イノベーションを成果に結びつける最後のステップは、適切な指標管理である。指標管理は、日常業務における進捗管理と、四半期ごとの業績評価・人事評価の両方に必要だ。的確な指標を使っていれば、計画と現実のズレをすぐに発見することができるし、イノベーションを後から振り返った時に何が成功要因で、何が失敗要因だったのかを議論しやすくなる。

《プロセスを支える仕組み・施策》
 本書では評価の原則が具体的にまとめられていたので、ちょっと長くなるが引用しておこうと思う。
1.イノベーションの評価を投資のポートフォリオと同様に考えること。投資では、株、債権、投信の個別利回りよりもトータル・リターンを気にかけるだろう。それと同じく、各プロジェクトを個別に評価して、勝ち負けの判断をしてはならない。一定期間の投資と成果を比較して評価するのが秘訣だ。そうすれば、高リスクと低リスクのプロジェクトの両方を混ぜ、抜け目なくチャンスをとろうという気にさせる。

2.製造工場を建ててからフル稼働できるまでには時間がかかるように、イノベーションでも結果は遅れて出てくる。

3.計測できるからといって、それが計測の価値があるものだとは限らない。難しくても、不正確であっても、重要なものは計測しなくてはならない。計測が正しくなくても、計測すべきものが間違っていなければ、将来正確になっていく。

4.一定期間に発売された新製品の割合など、イノベーションでも正確に数量化できるものがある。その一方で、相対的な比較でしか評価できないものもある。たとえば、消費者の求めるものを探り出し、効果的に意思決定に反映しているかどうかを10段階で表わすと、チームAは「9」だが、チームBは「3」でしかない、といった具合だ。質的な評価は、成否を分かつもっとも重要なポイントに焦点を合わせることが多い。

5.試作品を開発するスピード、「ボス」である消費者にくり返しテストする回数など、やがて財務面に跳ね返ってくる数字も評価される。

6.イノベーションは各フェーズで、厳しく成果をはかり、到達目標と比較しなくてはならない。たとえば、100のアイデアにゴーサインを出したとしよう。そのうちのいくつが育成の段階までいくだろうか。いくつが市場までたどりつくか。そして、消費者に受け入れられて成功し、業績目標を達成できるものはいくつあるだろうか。

7.イノベーションの結果は、段階ごと、フェーズごとに行なわれる一連の意思決定によって決まってくる。したがって、数値評価がよく行なわれるほど、各フェーズでよい決定を下すことができ、プロセス全体の効果もあがる。各段階できっちり見直すことは、イノベーションの結果に大きな影響を与える。

8.イノベーション・プロセスで経験を踏んで、昇進候補にあがっている人の数を計測すること。とくに総合的経営のポジションに候補となっている人の数は重要である。
 イノベーションは、既存の事業や業務の枠組みから外れることもあるから、既存の評価制度では評価できない。従来の評価制度で無理に評価すると、イノベーションを潰してしまうこともある。例えば、通常のマーケティング投資であれば短期間での投資回収が求められるのに対し、上記2のようにイノベーションに対する投資は回収期間が長くなる。投資回収期間の基準を既存事業とイノベーションで同じように用いると、イノベーションはきっと生まれなくなる。

 ただ、今までになかった新しい取り組みを何らかの指標で評価するのは、結構な荒業である。指標管理というのは、何が成功要件なのかが初めからある程度解っているからこそできるのである。例を挙げると、プロ野球でバッターの出塁率や長打率が重視されるのは、この2つの指標がチームの得点と密接に関係していることが統計的に明らかになっているからである。

 イノベーションを成功に導くカギを特定することは難しい。しかし、引用文を読む限り、P&Gでは「消費者が求めているものを意思決定に反映させた割合」、「試作品の開発スピード」、「消費者=ボスへのテスト回数」など、いくつかの指標が全てのイノベーション・プロジェクトに適用されているように感じられる。これらの指標は、P&Gが無数のイノベーションを経験する中で、「ここだけは外してはいけない!」というポイントを指標化したものなのかもしれない(もちろん、P&Gではもっと重要な指標を複数設定しているに違いないのだろうけど、さすがにそこは企業秘密なので本書には書かれていなかった・・・)。
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