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April 10, 2011

柔らかいアイデアの段階で予算をつける勇気がイノベーションのカギ―『ゲームの変革者』

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A.G.ラフリー
日本経済新聞出版社
2009-05-23
おすすめ平均:
気付きを促してくれる本。Consumer is boss この言葉を心に刻みたい。
『イノベーションと起業家精神』の現代実践版
イノベーションを中心とする経営の教科書
posted by Amazon360

 イノベーションに対するP&Gの取り組みが1冊にまとめられている(先日の記事「P&Gが顧客(=ボス)との距離を極限まで縮めるためにやっていること―『ゲームの変革者』」も参照)。P&Gは、イノベーションを凡人には理解しがたいアートのような偶発的なものとは考えていない。CEOのアラン・ラフリーは本書の中で、「イノベーションを全ての業務に組み込む」と繰り返し述べているけれども、P&Gは「消費者はボス(=上司)」という基本的な価値観に基づいて明確なイノベーションプロセスを構築し、さらにそのプロセスを支える様々な仕組み・仕掛けを用意している。この「価値観―業務プロセス―プロセスを支える仕組み」がしっかりと一貫性を保っているところがP&Gの強みなんだろうな。

 本書では、イノベーションを継続的に起こすための8つの原則が戦略的な視点から提唱されているが、もう少し実務サイドの視点から、イノベーションプロセスを私なりに整理してみた。

イノベーションの3フェーズ12ステップ

 まぁ、イノベーションにはやはりどこかアート的な部分があるのは否めないし、ステップの入れ替わりや後戻りがあるのは当然であろうから、上図はあくまでもざっくりとした整理だという点はご容赦くださいな。まず、全体を「アイデア創出⇒事業化検討⇒実行&評価」という3つのフェーズに分け、さらに各フェーズを4つのステップで構成してみた。以降では、本書で紹介されているP&Gの事例と、P&G以外に頻繁に言及されているハネウェルの事例を踏まえて、各ステップの中身を紹介していきたいと思う。

【Phase1:アイデア創出】1-1.社内外の人材交流
《プロセスの概要》
 イノベーションの種となる新しいアイデアは、往々にして異なるバックグラウンドや能力、知識や情報、考え方や嗜好を持った人たちの交わりから生じるものだ。本書でも、イノベーションにおいては「対人関係を上手に管理すること」が肝要であると述べられている。
 イノベーションは人と人がつくるプロセスである。人と人が手をつないで課題、機会、学習を共有する、という単純だが重要なことを行なってはじめて成功する。
《プロセスを支える仕組み・施策》
(1)フューチャーワークス
 複数の専門分野にまたがるチームで構成される組織であり、「新たな消費を生み出すイノベーションの機会を探し出す」ことを目的としている。フューチャーワークスが編み出すアイデアは、既存事業の収益を脅かすような破壊的なものも多いという。ただし、新しいアイデアであれば何でもOKというわけではなく、P&Gの事業ドメインとの親和性は要求される。

(2)コネクト・アンド・ディベロップ(C&D)
 社外の専門家や研究者、優れた技術や特許を有する企業・団体・大学などとのネットワーク。このプログラムは、「P&Gの社員は、誰もが社外のアイデアに対しオープンでなければならない」というP&Gのスタンスを最もよく表している。「新しいものは自分たちの手で作り上げたい」という自前主義は、しばしば外部のアイデアに対してNIH(Not Invented Here)=「ここで生まれたものではない」という否定的な態度を生み出す。P&Gはこれを明確に否定しているのである。

(3)Living it(生活してみる)、Working it(働いてみる)
 先日の記事「P&Gが顧客(=ボス)との距離を極限まで縮めるためにやっていること―『ゲームの変革者』」でも紹介したプログラム。消費者が実際にP&Gの製品を購入し、使用する場面を文化人類学者のようにじっくりと観察し、消費者の潜在ニーズを探り当てていく(ちなみに、最近はこの手のマーケティング手法を「エスノグラフィー・マーケティング」と呼ぶそうだ)。P&Gでは、消費者との直接的な交流からアイデアが創出される。

(4)アスク・ミー
 P&Gの社内イントラ。P&Gが擁する1万人の技術部門の社員に対して質問を投げかけることが可能。新しいアイデアに関する技術的な問題は、このイントラを通じてある程度解決することができる。

(5)大部屋方式のオフィスレイアウト
 これは非常に素朴なやり方だが、P&Gはアラン・ラフリーがCEOに就任してから、まずは役員クラスの部屋の壁を取っ払い、その後数年をかけて全世界のオフィスを大部屋方式に変えている。この目的はもちろん、社員同士のコミュニケーションを活性化することにある。

【Phase1:アイデア創出】1-2.助成金の提供
《プロセスの概要》
 面白そうなアイデアが浮かんだとしても、それを具体的な形にするまでには何かとお金がかかるものだ。研究室でちょっとした実験をしたり、市場や技術動向に関する調査をしたり、ターゲットとなりそうな顧客に対して簡単なアンケートをとったり、外部の専門家にコンサルティングという名目で協力を仰いだりと、ちょろちょろとお金が発生する。

 通常の企業では、多くのアイデアがこの段階で資金面の問題に直面して頓挫しているように思える。ところがP&Gやハネウェルでは、柔らかいアイデアに対しても資金を出す仕組みができあがっている。経営者の立場からすれば、海のものとも山のものともつかないアイデアにお金を出すなんてあまりにリスキーだけれども、今回の記事タイトルにもしたように、実はこの仕組みこそが、イノベーションを次々と生み出す組織とそうでない組織を分けるカギであるように思える。

《プロセスを支える仕組み・施策》
(1)コーポレート・イノベーション基金(CIF:Corporate Innovation Fund)
 ハイリスク・ハイリターンのアイデアを対象とした、ベンチャーキャピタルにも似た組織である。CIFは社内のあらゆるイノベーション・プロジェクトに資金を提供する。しかも、基金の予算は事業部門から完全に切り離されているので、プロジェクトは事業部門の予算のことを心配せずにイノベーションに集中することができる。

(2)新規事業開発(NBD:New Business Development)
 これは各事業部門内に置かれたイノベーションのための組織であり、かつ所属する事業部門から一定の予算を割り当てられている。よって、新しいアイデアが生まれるたびに必要な予算を申請するという、面倒なやり取りをしなくても済む。

(3)成長理事会
 これはP&Gではなくハネウェルの組織。成長理事会は、CIFと同じような役割を果たしている。成長理事会は本社レベルで2,000万ドルを用意して、複数部門にまたがるプロジェクトに出資する。「工場でワイヤレス・ネットワークを使うアイデアがあるんだけれど」(※本書からの引用です)といった、ものすごく漠然としたアイデアであっても出資の対象となる。

(4)ベンチャーファンド
 新規事業開発(NBD)のハネウェル版。各事業部門内のイノベーション・プロジェクトに出資する。

 (続く)


《2012年3月12日補足》
 『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2012年4月号の巻頭コラムに興味深いくだりがあったので引用しておこう。これを読むと、P&Gがイノベーションの初期段階で予算をつけるのもなるほどと思える。
 基礎研究に100億円を投資する場合、大型プロジェクトに全額投資するのと、1000人に1000万円ずつ配分するのとでは、どちらがイノベーションの創成に貢献するかという議論がある。この時、ノーベル賞を受賞した研究の多くが、後者のプロセスを経て成功したことが忘れられがちである。将来的な研究成果が不明という理由だけで、リスクを取らずに投資の可否を決めては、大きく開花するかもしれない千載一遇のイノベーションを摘み取ることになりかねない。
(安西祐一郎「科学技術の未来」)

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 04月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 04月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2012-03-10

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コメント

多くの学びがありました。有難うございます。

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