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April 05, 2011

【第12回】販売チャネルを絞り込む―ビジネスモデル変革のパターン

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【パターンの概要と適用できるケース】
 前回の「販売チャネルを拡大する」とは逆のパターン。販売チャネルを自ら制限するのは売上を捨てるような行為にも見えるけれども、敢えて販売チャネルを限定することで、自社が顧客に訴求したい価値を的確に伝えられる場合もある。

 ブランド品や高級品はその典型例であり、限られたチャネル(多くは直営店など自前のチャネル)の中で、顧客との深いリレーション構築に努める。無理に販売チャネルを拡張すれば、自社製品の知識や顧客ニーズの理解が不十分な販売スタッフが増え、ブランドイメージを損なう結果になりかねない。ただ、ブランド品でなくても、販売チャネルの絞り込みが有効なケースもある。それを以下の事例で見ていきたいと思う。

【パターンが当てはまる事例】
《レクサス[トヨタ自動車]》
 トヨタがレクサスを従えて高級車市場に進出した時、既存のディーラー網とは全く異なるチャネルを一から構築したのは有名な話。レクサスの高い収益性に魅せられてレクサスを売りたがるディーラーは多かったが、トヨタはディーラーの選定にあたって極めて厳しい基準を適用した。レクサス自体が訴求する価値、そしてその価値に反応する顧客が期待する高水準の接客・アフターサービスを一貫して提供することをディーラーに要求したわけだ。その結果、アメリカでは1万件の応募に対し、レクサスの販売を認められたディーラーはわずかに130にとどまったという。

 さらにレクサスは、各ディーラーの社員と顧客に定期的にヒアリングや調査を行い、ディーラーのパフォーマンスをモニタリングしている。パフォーマンスが悪い場合には、トヨタの社員が直接ディーラーに出向いて、問題の解決に当たる。こういった一連のマネジメントがしっかりと仕組み化されているのはいかにもトヨタらしい。(※1)

 もともとアメリカのディーラーは接客やサービスに無頓着なことが多いようで、レクサスの「おもてなし」精神はアメリカ人に新鮮に映ったらしい。トヨタが出す車なら品質は間違いないし、その上サービスも優れているというのなら、もうこれは買わない手はないよね?ってな具合で、レクサスはアメリカでそれなりの成功を収めた(まぁ、日本におけるレクサスの実績については、成功だの失敗だのいろんな見方があるわけだが・・・日本だと、普通のディーラーでも丁寧なサービスをしてくれるから、レクサスのサービスが差別化要因にならなかったというのも一因)。

《キャロット[カゴメ]》
 今では当たり前に売られているニンジンジュースだが、カゴメが「キャロット」を上市する際には、非常に慎重な戦略をとった。顧客が飲み慣れていない飲料であり、単に店頭に並べただけではうまく売れないと判断したカゴメは、首都圏のスーパーで1店ずつエンド陳列(=陳列棚の両端であるゴンドラエンドで行われる陳列)をすることにした。そして、いかに「キャロット」が身体によいかを説明し、いかに飲みやすいかを試飲してもらって、その販売実績に基づいて1店ずつ配荷を増やしていったそうだ。

 陳列棚での露出率が売れ行きを左右すると言われる食品業界において、カゴメはコンビニエンスストアという重要なチャネルを捨て、さらにスーパーでもエンド陳列だけに販売を限定した。しかしそこには、情報発信ができないコンビニよりも、スーパーのエンド陳列の方が製品価値を顧客に正しく伝えられるというカゴメ流の考えがあった。(※2)

《1,000円カット[QBハウス]、てもみん[グローバルスポーツ医学研究所]》
 これも高級品ではないが、販売チャネルを限定している例である。いずれも、メインは駅構内の店舗であり、サービス業の店舗としては非常に限定的である(最近は商業施設への出店も増えているが)。JRの駅構内にある店舗は、キオスクなどを展開している「JR東日本リテールネット」というJR東日本の子会社によるフランチャイズ店である。

 もちろん、安価なサービスなので低コストで出店したいというQBハウスらの思惑と、駅構内の空スペースを有効活用したいというJR東日本リテールネットの思惑が一致したという側面はある。ただ、敢えて駅構内に(しかも改札”内”に)店舗を設けることによって、「通勤途中や空き時間にさくっとサービスを受けられる」という点が強調されたことの方が大きいと個人的には考える。改札内にあるのは若干不便であるものの、定期券の区間内であれば問題なく出入りできるから、来店を阻害する要因にはなっていないと思う。

《村田機械》
 これは失敗事例。村田機械がかつてファクシミリ「エフ・ジャン ムーラ」を市場に出した際、家電量販店での販売を避けて、百貨店のそごうにチャネルを絞ったことがある。ファクシミリが若者向けだったことと、当時のそごうがターゲット顧客として若者に狙いを定め始めていたこともあって、この異色のコラボレーションは実現した。

 ところが、結局はそごうが「メインターゲット=40代」という考えから抜け出すことができなかったために、両者とも思い通りの成果を上げることができなかった。村田機械の事例に限らず言えることであるけれども(前回紹介した「航空会社による自動車の販売」というアイデアもそうだ)、製品が持つイメージと販売チャネルが持つイメージが一致していないと、顧客に対して一貫した購買経験を提供することができない。販売チャネルを絞ると、チャネルのイメージがなおさら際立つから、顧客が味わう経験価値をブレなくデザインすることがより重要になる。(※2)

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?

 ・顧客価値と矛盾しない適切な販売チャネルを選定する基準の確立
 ・販売チャネルにおいて、顧客価値を的確に訴求できる人材の育成
 ・各チャネルが想定通りの顧客価値を提供できているかどうかをモニタリングし、チャネルにフィードバックするする仕組みの構築
 (レクサスの事例より)
 ・収益性を厳格にシミュレーションした上で、新規出店の判断を行う意思決定メカニズム
 (言うまでもなく、どんなビジネスでも新規出店時に収益性を検証することは不可欠だ。ただ今回のように、最初から販売チャネルを限定する場合は、収益源を自ら制限することになるので、各チャネルの収益性検証の重要度が高まる。カゴメがエンド陳列での売れ行きを見ながら、食品スーパー別の配荷数を決定していったのが好例だと思う)

《参考文献》
(※1)スティーブン・ウィーラー、エバン・ハージュ著『チャネル競争戦略』(東洋経済新報社、2000年)
(※2)住谷宏著『利益重視のマーケティング・チャネル戦略』(同文館、2000年)

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