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March 29, 2011

P&Gが顧客(=ボス)との距離を極限まで縮めるためにやっていること―『ゲームの変革者』

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A.G.ラフリー
日本経済新聞出版社
2009-05-23
おすすめ平均:
気付きを促してくれる本。Consumer is boss この言葉を心に刻みたい。
『イノベーションと起業家精神』の現代実践版
イノベーションを中心とする経営の教科書
posted by Amazon360

 先日の記事「顧客理解にこれほど役立つツールはないはず―『ソーシャル・メディア戦略論(DHBR2011年4月号)』」では、ソーシャル・メディアがメーカーと最終顧客との距離を縮める有効なツールであることは間違いないものの、リアルの世界で顧客と深く接してニーズを理解する力がないままに、ソーシャル・メディアというITツールに頼っても、大した効果は見込めないだろうと書いた。本書『ゲームの変革者』では、マーケティングに強い代表的な企業であるP&Gが、顧客とリアルの世界でどのように接し、どのようにイノベーションを起こしているのかが詳細に述べられている。

 P&Gには「消費者がボス(=上司)」という基本的な価値観がある。技術ありきではなく、消費者が求めるものを作るという姿勢の表れだ。では消費者のニーズとは何か?P&Gは「2つの真実の瞬間」というものを重視している。それは、「製品を購入する時」と「製品を使用する時」である。この2つの場面で、消費者が何を求め、何を考え、何に満足し、あるいは何に不満を抱くのかを徹底的に調べ上げる。

 といっても、消費者は自分のニーズを明確に言葉で表現できるとは限らない。むしろ、重要なイノベーションは、消費者が気づいていない潜在ニーズから生まれるものである。だからP&Gは、典型的な市場調査やグループインタビューに頼らない(かつてはそうした調査に多額の予算を投じていたが、アラン・ラフリーがCEOになってからはごっそりと予算が削減された)。その代わりにやっているのが、「生活してみる(Living It)」と「働いてみる(Working It)」という2つのプログラムである。(※1)

 プログラムの中身はもう本当に文字通りのものである。「生活してみる」では、P&Gの社員が消費者と一定期間一緒に暮らし、消費者がP&Gや競合の製品をどのように使うのか、消費者のライフスタイルはどんなものなのかを観察する。「働いてみる」では、P&Gの製品を取り扱う小売店でP&Gの社員が一定期間働き、消費者がどのような購買行動をとるのかを観察する。「生活してみる」は「製品を使用する時」に、「働いてみる」は「製品を購入する時」に対応しており、P&Gが言う「2つの真実の瞬間」に関する洞察を深める役割を果たしている。

 P&Gがこれらのプログラムを通じて具体的に新製品を開発した例を1つだけ紹介しておく。ちょっと長いけれども、メキシコにおける柔軟剤の開発の事例である。
 僻地に住む何百万人という女性は、いまだに井戸や地域の水道ポンプまで行ってバケツで水を運ぶ生活を送っている。都市部でも一日数時間しか給水されないところが多い。ほとんどの家庭には全自動洗濯機がなく、乾燥機ともなるとさらに少ない。ということは、洗濯は実に大変な家事労働ということだ。

 ところが、低所得者層の女性は、洗濯を本当に真剣に考えている。新しい服を頻繁に買う余裕はないけれど、家族の身だしなみを整えることに並々ならぬプライドを感じているのだ。P&Gの調査によれば、メキシコ女性は、その他の家事にかける時間の総合計よりも、はるかに多くの時間を洗濯にあてている。9割以上の人が、手洗いにもかかわらず、なんらかの柔軟剤を使っていた。

 通常の洗濯は、洗う・すすぐ・すすぐ・柔軟剤を加える・すすぐ・すすぐの6つのステップを経る。ボタンを押すだけでこの一連のステップができるのなら問題はない。だが、半マイルかそれ以上離れた場所へ水を汲みにいくとなると、とんでもないことだ。洗濯機があっても全自動でなければ途中で注水しなければならないし、洗濯ものを手で取り出す手間がある。タイミングが悪いと洗濯の途中で給水が切れてしまうこともある。(中略)

 解決すべき問題点―洗濯を楽にして水量を抑える―が判明し、消費者が便利に感じることがわかってしまえば、あとはどのような商品を提供するかに的は絞られる。求める性能、目標原価が研究室に送られ、答えが出た。それが<ダウニー・シングル・リンス>だった。この商品を使えば、洗う、柔軟剤を入れる、すすぐの3ステップですむ。(※2)
 こういった取り組みを見ると「さすがP&Gだなぁ〜」と言う気もするが、ここまでできるのはP&Gが既に強いブランドを確立しており、消費者から高く信頼されているからであろう(そうでなければ、いきなり「P&Gの社員と一緒に暮らしてくれませんか?」と依頼されても、「ヤダよ」って言うもん)。また、「働いてみる」にしても、小売店と信頼関係が構築できているのはもちろんのこと、P&Gの社員にそれなりの販売スキルが備わっていなければ、小売店にとって足手まといになるだけである。

 本書を参考にして一足飛びにP&Gの真似をするのは困難に違いない。徐々に顧客との距離を縮めていく別の方策を考えなければならないだろうね。ただ、「働いてみる」に関して言えば、図らずも部分的に実現している業界がある。それは家電業界だ。大型量販店では、メーカーの社員が実際に店頭に立ち、接客を行っている。

 もちろん、メーカー社員が小売業の販促支援をするのは家電業界に限らず、どこの業界でも見られることだ。だが、家電業界の場合は、メーカーの売上に占める量販店の割合が非常に高いので、本来であればメーカー社員の販促活動は非常に重要な位置づけになるはずである。

 ところが、実態としてはメーカーが子会社の派遣会社を通じて量販店にスタッフを派遣しているケースが大半である。これでは、家電量販店の人手不足をメーカーが安いコストで肩代わりしているようなものである。メーカーが量販店での接客から潜在ニーズを拾い出して、それを新製品開発に活かしている、なんていう話は果たしてあるのかね??

(※1)余談になるが、「生活してみる」に近い取り組みをやっている日本企業で思い当たるのが良品計画である。良品計画は、顧客ニーズを理解するために、顧客から家の写真を送ってもらっている。写真を見ると、顧客が家具や日用品をどのように配置し、何を収納しているのかが解る。膨大な写真の中から、顧客が何に不便を感じているかを読み取って製品開発に活かしているそうだ。

(※2)全くの蛇足だけれども、メキシコの水事情についていくつかリンクを貼っておく。
 外務省:メキシコ
 JICA Knowledge Site - メキシコ市の水道水質管理プロジェクト
 (「プロジェクト概要 背景」の部分に説明あり)
 海外の水道事情 Foreign Water Business
 (メキシコの水道普及率を見ると、都市部は95%だが農村部は69%)

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