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March 08, 2011

【第8回】製品をまとめてパッケージ化する―ビジネスモデル変革のパターン

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【パターンの概要と適用できるケース】
 しばらくこの連載が滞りました…。今回の「製品をまとめてパッケージ化する」パターンと、次回の「製品を分解する」パターンは、実は密接に関連している。というのも、多種多様な製品をバラバラに販売することが当たり前になっている業界では、前者のパターンで切り込んでくる新規プレイヤーが現れるし、逆にパッケージ販売が当たり前になっている業界では、後者のパターンで競争のルールを変えてしまうプレイヤーが現れるものである。

 また別の見方をすると、人間というのは、ある時は製品の種類が多すぎて選ぶのが面倒だと思う一方で、ある時は幅広い選択肢の中から選ぶことを楽しいと思う、非常に気まぐれな動物である。そして、選択を面倒に感じる場面と楽しいと感じる場面は、人によって全く異なる。だから、いろんな業界で両パターンは共存しうると考えられる(もちろん、時代によってどちらかのパターンが主導権を握ることが多いのだが…)。

【パターンが当てはまる事例】

(8)製品をまとめてパッケージ化する


《旅行代理店》
 旅行代理店のパッケージプランは解りやすい例である。旅行代理店は、交通機関や宿泊施設から切符と空室を大量に仕入れ、周辺の観光施設の入場券やお土産屋めぐりをセットにしてパッケージ化する(旅行代理店が観光客をお土産屋に連れて行くと、キックバックのマージンが得られる)。そして、このパッケージを販売することで成り立っているビジネスモデルである。

 こうしたパッケージプランがターゲットとしているのは、社員旅行や慰安旅行に参加する団体旅行客、さらには自分ひとりで旅行プランを立てるのが苦手な個人旅行客である。しかし、最近は福利厚生を縮小する動きの中で社員旅行も減ってしまい、旅行代理店は大きなダメージを被っている。また、インターネットで個人が代理店を介さずに簡単に切符購入や宿泊予約ができるようになったことも、大手旅行代理店の業績を押し下げる要因となっている(業界第1位のJTBと第2位の近畿ツーリストは、10年度3月期の連結決算でそれぞれ145億円、84億円の赤字[最終損益ベース]を出している)。

 社員旅行のニーズを取り戻すことは難しいかもしれないけれど、個人顧客に目を向けると、今でも旅行プランを自分で考えるのが億劫だという人はそれなりに存在するはずだ。聞くところによると、添乗員付きのパッケージプランを利用する個人顧客の大半は中高年であるらしい。

 逆に、若い人たちは添乗員や他の旅行客と一緒に行動するのを嫌がるので、切符と宿泊施設だけがセットになった添乗員なしの割安なパッケージプランを利用することが多いわけだが、若い人の中にも自分で行きたい所や食べたい所を決められる人と、そういうのを面倒に思う人がいるに違いない。

 後者に対しては、切符と宿泊施設だけを提供するのではなく、例えば旅行代理店が観光施設やレストランをネットワーク化して、ネットワーク内で自由に使える”3万円クーポン”みたいなのを発行することで、パッケージの単価を上げるというのも一つの手かもしれない(ビジネスモデルとしては、観光客がレストランでクーポンの中から5,000円分を利用すると、そのデータがレストランから旅行代理店に送信され、旅行代理店は5,000円から一定の手数料を抜いた金額をレストランに支払う、という仕組みになる)。

《大手SIer》
 90年代にIBMがルイス・ガースナーの下で業績回復を成し遂げたのは、まさにこの変革パターンを適用したからであると言えそうだ。当時のIT業界では、技術の進歩に伴って一部のハードウェアやソフトウェアに特化する専門企業が大量に出現しており、顧客企業はニーズに応じて好きな製品を組み合わせて利用すればいいようになると考えられていた。

 これに対してIBMは、ありとあらゆるハード、ソフトを自社で取り揃えていたため、企業規模が大きすぎるという批判を受けていた。事実、IBMを再建するには、ハード、ソフトなどの各部門を分社化するしかないという見解が投資家の間には広がっていた。

 ところが、ガースナーはIBMを分社化するどころか、「顧客企業に合ったシステムをIBMが一貫して構築するサービスを展開する」という、全く違う戦略を打ち出した。そして、顧客企業が望むのであれば、自社製品ではなく他社製品を導入することも厭わないと宣言したのである。今でこそ多くのITベンダーがこうしたインテグレーションサービスを提供しているが、当時のIBMが置かれていた状況を考えれば、この戦略が非難轟々だったのは明白である。

 ガースナーに先見の明があったということもあるけれども、この戦略はガースナー自身の経験にも根ざしているように思える。というのも、アメリカン・エクスプレス時代にIBMのシステムを利用していたガースナーは、IBMが自社のニーズを深く理解して、一貫したサービスを提供してくれることを強く期待していたからだ(実際は、IBMが傲慢で対応が遅いことにかなり苛立っていたようだ)。

 たとえ市場に高度な専門製品があふれることになっても、顧客企業が自ら製品を選定できるようになることとは別の話である。むしろ、製品が多様化すればするほど、顧客企業はそれらの製品をうまく統合してくれるサービスをより一層求めるようになる、というのがガースナーの考えであった。

 ただ、どのベンダーの製品でもOKというのではIBMの利益を圧迫してしまうし、他ベンダーの製品同士を機能面でうまく連携させることができなければ、そもそもシステムとして破綻してしまう。そこでガースナーは、IBMが特に強みとしてたミドルウェアに着目し、IBMのミドルウェアを介して他ベンダーのハードやソフトをネットワーク化するというサービスを展開した。IBMは、ミドルウェアを核として顧客企業と中長期的にビジネスを継続する仕組みを確立して、業績と信頼を回復させたのである。

ルイス・V・ガースナー
日本経済新聞社
2002-12-02
おすすめ平均:
リーダー一般、またはITビジネス関係者に
すごい
IBMの再建を託された男
posted by Amazon360

 他にも「製品をまとめてパッケージ化」している事例はたくさんある。例えば、家電メーカーや家電量販店は、一人暮らしに必要な家電一式をまとめて「新生活スタートパッケージ」を販売している。また、ニッチな市場ではあるけれども、特定分野の新聞記事をまとめてクリッピングするというサービスもある。さらに、最近私の手元に届いた広告の中には、「毎月、重要なビジネス書を何冊かピックアップして、その要約を配信する」というサービスもあった(これは、忙しくて1ヶ月に何冊も本を読む時間がない経営者などをターゲットにしていたようだ。残念ながら、私はターゲット外でした(笑))。

 あと、私は洋服を選ぶのが非常に面倒くさい性格(というか、ショップで店員といちいち話をするのが苦痛)なので、こういうサービスは非常に魅力的なんだな。
 http://www.lookup-fun.jp/

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?

 ・選択を面倒だと感じる顧客セグメントの特定
 (このパターンを成り立たせる大前提)

 ・パッケージの中核となるコア製品
 (IBMの事例で言うところのミドルウェア。複数の周辺製品をつなぐコア製品を押さえていることが重要。そのコア製品を自社で製造可能であれば、より有利)

 ・パッケージを貫くコア・コンセプト
 (当たり前と言えば当たり前だが、「なぜそれらの製品を束ねる必然性があるのか?」という問いに答えられなければ、顧客に対する訴求力を持たない)

 ・顧客のニーズに合わせて製品を組み合わせる提案力
 ・(自社製品、他社製品を問わない)幅広い製品知識
 (選択が面倒だと感じる顧客は、「自分のニーズは解っているが、どの製品が一番ニーズを充足してくれるのかが解らない」か、「そもそも自分が何を欲しているのかが解らない」顧客である。こうした顧客と接する営業・サービス担当者には、強い提案力と深い製品知識が必要)

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ

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