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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
February 01, 2011

価値観に従った行動のシナリオがどこまで描けているかがポイント―『「本物のリーダー」養成講座(DHBR2011年2月号)』

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 2月号は半分が経営者のインタビュー、残り半分が通常の論文という構成。まずは経営者のインタビューから、印象に残った文章をご紹介。

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復帰したCEOが再生に挑む スターバックス:誤りを認めるのが、本物のリーダー(ハワード・シュルツ)
 金融危機に伴うスターバックスの業績悪化をきっかけに、会長職からCEOに復帰したハワード・シュルツCEOのインタビュー記事。
 この会社がなぜ存在するのか、そのコアの部分を100%信じなければなりません。私の復帰後3~4ヶ月間は、戦略やビジネスモデルを抜本的に変えろという大きな圧力がありました。

 市場の声はこうでした。「スターバックスはすべての自社所有の店舗を手放し、フランチャイズにするべきだ」こうすることで巨額の現金が手に入り、資本利益率も大幅にアップしていたでしょう。経済的にはそれでいいのかもしれません。株主価値にとってもよい意見でしょう。

 しかし、もしそうしていたら、当社の文化は壊れていたでしょう。異なるロード・マップ、つまり自分自身に忠実でない地図を使って、ここから抜け出すことはできません。
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オークション方式による掟破りの株式公開プロセス グーグル:上場しても「らしさ」を失わない(エリック・シュミット)
 グーグルのエリック・シュミット会長兼CEOが、2004年のIPOについて回想しているインタビュー記事。
 通常の(IPOの)プロセスにおいて気に入らないいくつかの点について意見が一致した。成功したテクノロジー企業の上場時によく見られる「ポップ」と呼ばれる短期の転売益はその1つだった。IPOの公募価格と取引開始初日あるいは初週の終値との差額は、本来なら企業が手にするもののように思えたからだ。

 しかし通常は、引受幹事会社とつながりのある大手機関投資家だけが公募価格で株式を購入でき、数日後に難なく転売益を手に入れる。我々はそれをグーグルらしく思わなかった。より透明でオープンな方法を求めた。すなわち、グーグル・ユーザーにIPOへの参加機会を与えたかったのだ。
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ハリケーン・カトリーナとBP原油流出事故の対応に学ぶ 非常時のリーダーシップ(タッド・アレン)
 ハリケーン・カトリーナやメキシコ湾原油流出事件の際に、災害対策本部で全体の指揮を執ってきたタッド・アレン元アメリカ沿岸警備隊司令官のインタビュー記事。
 (カトリーナの対策の時、隊員約2,000人を集め、)私は拡声器を手に机の上に立って、全員に一つの命令を下しました。被災者に遭遇したら、自分の両親や兄弟姉妹などの家族と同じように処遇せよ、というものです。

 「これを実践したら、2つの可能性が考えられる。まず、諸君が間違いを犯すとしても、あれこれと頑張りすぎたために起きた過ちだ。気にすることでない。第二に、諸君の行動によってだれかが困るような場合だが、それは諸君の責任ではなく、私の責任だ」と、私は語りました。

 話し終えると、大きな拍手がわき起こりました。みんな救援活動のプレッシャーから大きなストレスを抱えつつも、思うように準備が進んでいないと感じていたからでしょう。思うに彼らが求めていたのは、船の舵取りをする時の北極星のように、簡単明瞭で核となる価値観だったのです。
 これら3つに共通しているのは、「自らが信じる価値観に従ってビジネスを展開し、ミッションを遂行している」という点だ。スターバックスは「人とのつながり(顧客同士のつながり、社員同士のつながり、顧客と社員のつながり)」を重視する企業であり、この価値観を踏み外さないよう、収益が悪化した後も敢えてコストのかかる直営店方式を維持した(ちなみに、以前紹介した『ストーリーとしての競争戦略』の中では、この直営店方式こそがスターバックスの戦略のクリティカル・コアであると指摘されている)。

 グーグルは「集合知を活用する」、「民主的に物事を進める」といった価値観を持っている。社員は自由にアイデアを出し合っていつでもプロジェクトを立ち上げることができるし、会議では役職や肩書きに関係なく自分の意見を率直に述べることが求められる。また、外部の開発者を積極的に活用してオープンソフトの開発を行っているし、新サービスを開発する時は世界中のユーザを開発プロセスに巻き込んでいる。そうした価値観を上場の際にも貫いた結果、「オークション形式のIPO」という方法にたどり着いたのだと思われる。

 最後のタッド・アレン元アメリカ沿岸警備隊司令官のインタビューでは、まず「被災者に対して家族のように接する」という価値観が表明されているが、それ以外にも災害支援チームの拠り所となる価値観が暗示されている。それはつまり、「隊員が正しいと思う方法で救助活動にあたってよい」という権限委譲の価値観であり、さらに「ミスを恐れるな(ミスをしても責任は自分がとる)」というチャレンジ精神である。

 論文を読みながら、「リーダーや組織が拠り所とするべき『よい価値観』とは何なのだろうか?」という、以前から自分の中で引っかかっていた問題がまた頭をもたげてきた。昨年末の記事「他人からのアドバイスにはどのくらい耳を傾ければいいんだろうか?―『リーダーへの旅路』」では、価値観そのものの善し悪しを判断できるチェックリストみたいなものを示してみたものの、これだとあまりにイマイチなんだよね…。

 先日、シータヒーリングなるものをやっている知人と話をする機会があった。シータヒーリングという言葉自体、私は初めて聞いたのだけれども、知人曰く「その人を不幸な方向に導いている不当な思い込みを意識の根底に遡って取り除く」治療法らしい。

 さらに、輪廻転生を何度も繰り返している人の場合は、過去の魂の記憶がDNAに組み込まれているから、不当な思い込みを取り除くにはDNAのレベルまで踏み込まないといけないそうだ。この辺までくると私の理解レベルを完全に超えちゃっているんだけれど、何となく手塚治虫の『火の鳥』の世界観に通ずるものはあるんだな。

 思い込みというのは、言い換えればその人が持っている潜在的な価値観であるから、その善し悪しを判別する方法はあるのだろうか?と聞いてみたところ、「私にとってよい価値観が、あなたにとってもよい価値観であるとは限らない」という答えが返ってきた。極端な例を挙げれば、「私はお金が大事だ」という価値観であっても、ある人にとってはいい方向に働くし、別の人には害になるという。つまり、価値観そのものの是非を単独で判別することは困難だというわけだ。

 ここでふむーと考え込んでしまったのだが、改めてインタビュー記事を読み返してみると、ハワード・シュルツもエリック・シュミットもタッド・アレン元アメリカ沿岸警備隊司令官も、自分を始め社員やメンバーが軸となる価値観に従って行動したらどのような結果がもたらされるのかを、中長期的な時間軸でかなり明確にイメージできていたように思える。

 しかも、拠り所とする価値観は1つではない。インタビューでは言及されていない価値観も存在するに違いない。それらの価値観が複合的に組み合わさって社員やメンバーを突き動かす時、彼らはどのように行動し、彼らの行動に対して顧客や外部の人たちがどのような反応をし、企業や社会にとってどのような結果がもたらされるのか、その一連のシナリオを明確に持っていたのだろう。

 そして、企業や社会がいい結果を手に入れられる(企業の場合は、持続的な顧客の創造や利益の創出がいい結果にあたる)イメージが得られるのであれば、その価値観はよい価値観と言える、ということなのかもしれない(もっとも、本当にそれがよい価値観であったかどうかは、結局のところ結果が出てからしか判断できない、という別の問題はあるのだが…)。

 先日の記事「ミドルの暴走を止められなかった日本軍―『日本軍「戦略なき組織」失敗の本質(DHBR2011年1月号)』」の中で、レイテ沖海戦を指揮した栗田健男に言及した。栗田は「海軍は、艦隊同士の戦いで雌雄を決すべきだ」という価値観を貫いたのだが、結局は壊滅的なダメージをこうむってしまった。栗田は、自分の価値観に従って戦闘を続けた場合にどんな結果が得られるのか、果たしてどこまでイメージしていたのだろうか??そのイメージ像がなかったとすれば、価値観は単なる教条と化していただけということになる。

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顧客を本当に満足させるために HCL:従業員第一主義の経営(ビニート・ナイア)
 1976年に創業したインドのIT企業・HCLテクノロジーズで、2005年に創業社長から経営を引き継いだビニート・ナイア社長兼CEOのインタビュー記事。ナイア社長兼CEOが変革にあたって拠り所とした4つのキーワードを論文から引用した。
《HCLの変革・4つのキーワード》
(1)ミラー・ミラー
 正直に話し、真実を直視する。変革の必要性の自覚を促す。

(2)透明性を通じた信頼の創造
 変革計画が受け入れられるようにするために信頼の文化の構築方法を発見する。グループ内・グループ間で、良し悪しにかかわらず財務データを共有する。業績評価や戦略的計画への新たなアプローチの基礎として透明性を活用する。

(3)従来型のピラミッドの逆転
 通常の組織とは逆に、スタッフ部門や経営幹部が現場に対してアカウンタビリティを負うようにする。これにより価値が高まるだけでなく、組織に明瞭さや意味がもたらされる。

(4)CEOの役割の見直し
 変革のオーナーシップをCEOのオフィスから社員に移す。CEOが答えられるだけの数の質問をすることを社員に認める。
 これらのキーワードが目指しているのは、つまるところ現場社員の多様なアイデアを奨励し、適度な内部競争を促すことであると思われる。この点で、実は以前に紹介したゲイリー・ハメルの『経営の未来』と共通点が多いような気がした。

 この本を読んで、前提が崩れたマネジメント手法を整理してみた-『経営の未来』
 企業経営に市場原理を入れてみよう!でもマネジャーの仕事はどうなる?-『経営の未来』
 マネジメント・イノベーションがもたらす「自由」と「責任」-『経営の未来』

 (レビューは続くよ)
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