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February 05, 2011

【第6回】顧客のライフステージを押さえる―ビジネスモデル変革のパターン

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【パターンの概要と適用できるケース】
 これは前回取り上げた「【第5回】顧客の隣接する消費行動を押さえる―ビジネスモデル変革のパターン」と似ているが、前回よりも時間軸がぐっと長くなるのが特徴である。顧客を言わば「一生の間」追い続けて、その時々に応じた最適な製品やサービスを提供するというものである。

【パターンが当てはまる事例】
《銀行(リテール部門)[スルガ銀行、横浜銀行など]》
 銀行のリテール部門は、かつては預金や住宅ローンぐらいしかなかったのだが、規制緩和のおかげで保険や証券など様々なサービスを提供できるようになった。つまり、顧客のライフステージにマッチした金融商品を販売することが可能になったわけだ。

(6)顧客のライフステージを押さえる

 数年前から銀行の新しいマーケティング手法として、EBM(Event Based Marketing)が注目されている。EBMとは、顧客に起きる重要なイベントを推察し、最適な製品やサービスを最適なタイミングで提供して収益向上につなげるマーケティングのことである。(※1)スルガ銀行や横浜銀行などがEBMの導入事例として知られている。(※2)(※3)

 銀行は、預金口座の金額の変動から、顧客の身に起こったライフイベントを推測する。解りやすい例で言えば、「50~65歳」の顧客の口座に一千万円単位の入金があった場合は、退職金が振り込まれたと考えられる。イベント情報をつかんだ行員は、顧客に対して退職金の資産運用を提案することができる。

 もう少し複雑になると、「40~65歳で流動性預金残高100万円超」というセグメント条件で、「普通預金残高の増加傾向」(「どのくらいお金が増えれば増加傾向と言えるのか?」については、定量的な定義が別途必要)というイベントが発生した場合は、資産運用ニーズが高まっていると推測して運用のオプションを提示する、といった感じになる。

 横浜銀行などは、こうしたイベントと提案内容の組合せパターンをあらかじめ複数用意しておいて、口座残高の変動に応じてパターンを自動識別し、行員に対して取るべきアクションを通知するシステムを構築している。

《自動車メーカー、自動車ディーラー》
 あまりに古い事例になってしまうが、20世紀の始めにフォードが黒色ボディの「Tフォード」という画一モデルで大きな市場シェアを維持していたところに(ヘンリー・フォードは、「Tフォードはあらゆる色を取り揃えている…それが黒である限りは」と語っていた)、GMが「顧客のライフステージに応じた様々な車種」を投入してフォードのシェアを切り崩した、というのは有名な話である。

 トヨタも(もう最近はあまり聞かなくなってしまったが)、「いつかはクラウン」をキャッチフレーズに、顧客が年齢を重ねるにつれて徐々に高いグレードの自動車を購入することを想定した製品ラインナップを揃えていた。今ではどの自動車メーカーも、このようなビジネスモデルをごくごく自然に採用しているような気がする。

 もっとも、メーカーだけが頑張ってライフステージに応じた製品を揃えても、ディーラーがそれを売ってくれないことにはどうしようもない。ディーラーの営業担当者には、自分が担当している顧客のライスステージの変化を察知し、適切なタイミングでお勧めの自動車を提案することが求められる。

 例えば、若い夫婦に子どもが生まれたらミニバンを勧め、子どもが成長してあちこち旅行に出かける年齢になったらステーションワゴンを勧め、子どもが独立して夫婦二人に戻ったらセダンを勧め、さらに夫婦のうち一方しか車に乗らなくなったら思い切って軽自動車を勧める、といった感じだ。

 顧客のライフステージの変化を察知するには、営業担当者が定期的に顧客の自宅に足を運び、たわいない世間話の中から情報をつかんだり、顧客が修理や点検で販売店を訪れた際に、顧客の待ち時間を利用して近況を伺ったりする。銀行と違って入金情報などの明確なイベントを感知することができないディーラーの場合は、結構泥臭くて地味な活動が必要だ。

 ただし、ここまで徹底的にやっているディーラーってどのくらいあるんだろう??(いい事例があったら教えてください…)。ディーラーの営業担当者は離職率が高いので、担当顧客の情報を継続的にモニタリングすることが困難になっている可能性が高い。

《SIer(システムインテグレーター)》
 「顧客のライフステージを押さえる」というパターンは、BtoCに限られたものではなく、BtoBであっても可能である。例えば、SIerであれば、顧客企業の規模の変化や成長ステージの移行、事業の多角化・リストラクチャリングなどに応じて最適なシステムを提案するというビジネスモデルが考えられる。

 もちろん、大手のSIerであれば大手企業向け、中堅企業向け、中小企業向けのサービスをフルラインナップで用意している。ただ、「顧客企業の成長に伴ってどのように新たなシステムを提案していけばよいか?」という視点でプロモーションを行っている企業は少ないように感じる。その証拠に、SIerの組織は顧客企業の「規模別」に事業部が分かれていることが多い。

 もしSIerが「顧客のライフステージを押さえる」という変革パターンを採用するならば、例えば顧客企業の「エリア別」に事業部を分けて、顧客企業ごとに10年単位(!)で中長期的にお付き合いをすることを前提とした担当営業を割り当てる。営業の下には、大手企業向け、中堅企業向け、中小企業向けの各種製品・サービスを担当する専門SEや技術支援部隊をプールしておき、顧客企業の成長ステージの変化などに応じて、彼らを自由に活用できるようにしておく、という体制になるように思われる。

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 今回は事例から直接CSFを探ることはちょっと難しいのだが、私なりにCSFを推測するとこんな感じだろうか?

 ・顧客のライフイベントの変化を捉える仕組み
 (これはスルガ銀行や横浜銀行の事例から直接読み取れる)

 ・既存顧客のリテンションのためのマーケティング投資
 今回の変革パターンの場合、顧客とのリレーションは一生続くが、実際に購買機会が発生するタイミングは限られている。顧客が自社のことを忘れてしまわないように、直近の購買行動から次の購買機会までの長期間にわたり、顧客をつなぎとめておくプロモーションが必要になる。

 スルガ銀行や横浜銀行も、顧客が40代になった頃に資産運用の提案をした後、退職金が振り込まれるまでの10数年間は顧客をほったらかしにしているとはさすがに考えにくい。イベントとイベントの間をつなぐ様々な施策も合わせて実施しているはずだ。

 ・顧客接点の社員の離職率を押さえる取り組み
 顧客の立場からすれば、企業と中長期的な関係(時に数十年に及ぶ関係)を結ぶならば、できるだけ同じ営業に自分を担当してほしいと思うものだろう。となると、企業側には、営業担当者の離職率を抑制する努力が求められる。

 もちろん、離職率をゼロにすることは現実的ではないし、「たまには違う顧客を担当してみたい」という営業担当者も出てくるだろう。だから、離職率を押さえる取り組みと同時に、仮に担当営業が変わったとしても、それまで蓄積されてきた顧客情報が切れ目なく次の営業担当者に引き継がれる仕組みを構築することも重要である。

 ・顧客生涯価値(CLV)の算出の仕組み
 CLVの重要性はいろんな論文でも指摘されているが、CLVの管理が本当に必要なのはこの変革パターンだと思う。なぜならば、顧客との取引が発生しない期間のマーケティングコストや営業コストは、言わば顧客に対する投資であり、その投資から本当にリターンが得られるかどうかは、CLVを把握していなければ判断できないからだ。

 ・顧客生涯価値や継続取引期間など、顧客とのリレーションの強さを重視した人事評価制度
 どの営業組織でも、営業部門の業績評価や営業担当者の人事評価は何かと揉めるポイントである。私の限られた経験の範囲内での話である点はご容赦いただきたいが、たいていの営業組織は「その年の売上か利益」で評価を行っているものだ。

 これだと、すぐにはお金にならない新規顧客を時間をかけて開拓しようとする意欲が失せ、既存顧客に押し売りをした者が勝つ、といった事態になりやすい。ならば、こうした弊害を避けるために「中長期的な活動も評価する制度にしよう」という話になるのだが、「中長期的」とはどのくらいのスパンを指すのかがこれまた難しい。

 ただし、今回の変革パターンに限って言えば、CLVの算出の仕組みがある程度しっかり整備されていれば、それぞれの営業部門・担当者CLVの増減に応じて評価を行うことが可能になる。こうした評価制度もCSFになりうると考える。

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ

《参考》
(※1)「EBM とは - 知っておきたいIT経営用語:ITpro
(※2)「CRMを活かす企業戦略 ~スルガ銀行におけるCRM~
(※3)「横浜銀行 顧客ニーズが“変化する瞬間”を とらえよ!

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