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January 22, 2011

【第5回】顧客の隣接する消費行動を押さえる―ビジネスモデル変革のパターン

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【パターンの概要と適用できるケース】
 今回のパターンは、アンゾフの成長ベクトルで言えば「新製品開発戦略(=既存の顧客に新製品やサービスを提供する戦略)」に該当する。「隣接する消費行動」という表現がやや解りにくくて恐縮だが、要するに顧客が既存の製品やサービスを利用する際の「前後の行動」に着目し、その中で生じているニーズ、あるいは顧客が潜在的に抱えているニーズを特定する。そして、それらのニーズに合わせて、新製品やサービスを追加するというものである。

【パターンが当てはまる事例】
《CCC(TSUTAYA)のTポイント事業》
 多くのポイントサービスは、顧客の囲い込みを目的として、その企業でしか貯められない・使えないようになっている。しかし、顧客の側から見るとこれではなかなかポイントが貯まらないし、複数のポイントサービスを利用しようとすると、そのたびにカードが増えていってしまうというデメリットがあった。

 Tポイントは、TSUTAYAでDVDをレンタルする顧客の日常的な行動に着目し、顧客がTSUTAYA以外で頻繁に利用する企業でもTポイントが貯められる・使えるようにした点で画期的だったと思う。

 参考までに、Tポイント事業のビジネスモデルを図示してみたいと思うが、その前に「参考の参考」として(くどくてスミマセン…)Tポイント事業と非常によく似ているクレジットカードのビジネスモデルを図でまとめてみた。

クレジットカードのビジネスモデル

 カード会社は個人に対してカードを発行し、年会費をもらう。その一方で、加盟店にはカード決済インフラ(カードリーダーなど)を提供し、加盟店登録料を受け取る。カード会員が加盟店で買い物をすると、カード会社が会員に代わって代金を加盟店に支払う。その際に、カード会社は代金の一定割合を手数料として差引く。この手数料が、カード会社の収益の柱となっている。

 カード会員は、購入から1ヶ月~2ヶ月後ぐらいに、カード会社からの請求に従ってカード利用額を払い込む。このタイムラグがあるおかげで、加盟店にとっては、高額の販売があっても比較的早くキャッシュが回収できるというメリットが生まれる。

 加盟店からの手数料の一部は、カード会員のポイントの原資となる。カード会員がポイントを使ってキャッシュバックなどを行った場合は、原資からポイント分のお金が消化されるという仕組みになっている。

Tポイント・Tカードのビジネスモデル

 Tポイント事業もクレジットカードとよく似た構造になっているが、CCCが最初の段階で加盟店に対しポイントを販売する点が異なる。Tカード会員が加盟店で買い物をする際に「ポイントを貯める」ことを選択した場合は、加盟店はポイントのプールからポイントを付与する。逆に、Tカード会員が「ポイントを行使する」ことを選択した場合には、会員が持っていたポイントが加盟店側に移動する。

 加盟店は、Tカード会員から受け取ったポイントをCCCに現金化してもらう。CCCが加盟店に販売する際のポイントのレートと、加盟店のポイントを現金化する際のレートの差が、CCCの収益となる。

 お金の流れの仕組みは異なるが、クレジットカードもTポイント事業も、「どこでもカードが使える」というのがミソである(この点は図中には書いていないんだけどね…「何で肝心な点を書かないんだ!?」と怒らないでね)。カードビジネスは、会員の日常生活に注目し、会員が頻繁に利用する企業を加盟店としてネットワーク化できるかどうかがポイントとなる。

 Tポイント事業は今のところ加盟店を増やすことに注力しているようだが、加盟店が一定規模に達し、顧客の購買履歴が蓄積されてくれば、顧客の属性ごとに特徴的な消費行動を分析することが可能になる。実際、CCCは、「データベース・マーケティング」を掲げている企業であるから、おそらくそのような分析にすでに着手しているはずだ。

 例えば、「20代女性のTカードヘビーユーザーは、1ヶ月のうちにAコンビニでP円買い物をし、インターネットのコスメサイトBでQ円買い物をし、CレストランでR円食事をし…トータルで平均Xポイントを蓄積している」という結果が出たとする。すると、Aコンビニ、コスメサイトB、Cレストランなどと共同で、20代の女性向けに「Tカードをこういう風に使うと、こんなにポイントが貯まるよ!」といったプロモーションの展開が可能になると考えられる(CCCは、Aコンビニ、コスメサイトB、Cレストランから一定の広告収入を受け取る)。

《異なる業態を抱える外食チェーン》
 大手の外食チェーンは、複数の異なる業態を傘下に収めていることが多い。例えば、レインズインターナショナルは牛角、しゃぶしゃぶ温野菜、かまどか、土間土間という4つのブランドを展開しているし、ゼンショーグループにいたってはすき家、なか卯を始め、ココス、ビッグボーイ、華屋与兵衛など20以上の業態を抱えている。

 同じ飲食店に何度も通うコアなファンがいるのも事実だが、大多数の人は「その時々の気分や状況に応じて、行きたいお店を決めたい」と思っているのではないだろうか?レインズは「いろんな飲み屋に行ってみたい」というニーズに応えるために4つのブランドを持ち、ゼンショーは「同じ外食ばかりでは飽きてしまう」という顧客を逃がさないために20以上の業態を持っていると考えられる。

 ただ実際には、複数の業態を持つことでリスク分散を図っているという側面の方が大きいのかもしれない。つまり、ある地域に競合他社が類似業態の店舗を出してきて、それが原因で既存店舗の収益が悪化した場合に、すぐに別の業態に変えられるようにしている、ということである(「《おしえて!編集長》 増える外食店の「業態転換」」を参照)。

 だから、外食チェーンには「業態横断的に顧客を囲い込もう」という意識がそれほど高くない可能性もある。例えば、レインズやゼンショーがグループ全体で顧客情報を管理し、複数の業態にまたがるプロモーションを実施しているという話はほとんど聞かない。レインズの4つのブランドのうち、Tカードが使えるのは牛角だけ(2011年1月時点)という事実をとってみても、レインズがTカードを活用してブランド横断的に顧客を攻めようという意図があまりないように感じられる。

《中小工務店のリフォーム事業進出?》
 大手の工務店であればすでにリフォーム事業を展開しているところもあるが、中小工務店でも収益源の多角化を狙ってリフォーム事業を立ち上げる企業が出てきているという(中小企業診断士としてのごく狭い情報に頼っている点はご容赦ください…)。住宅を建てた後のリフォーム需要を捉えるという意味で、やはりこれも「顧客の隣接する消費行動を押さえる」パターンである。

 しかし、大手工務店と中小工務店の間には決定的な違いがある。大手工務店は、新築住宅の建築時点で家主の情報を入手できるため、その情報を活用してリフォームの提案を持ちかけることができる。だが、大手工務店からの下請でビジネスをやってきた中小工務店の場合は、家主の情報を持っていない。だから、リフォーム事業をやるにしても、一から顧客を開拓する必要がある。

 既存事業と新規事業の営業チャネルの違いを克服するのは容易ではない。顧客の消費行動に合わせた新しい製品やサービスの展開にあたっては、既存事業の組織能力(ケイパビリティ)との親和性を考慮する必要がある。新たに求められる組織能力が多ければ多いほど、このパターンの変革は困難になる。

《自動車メーカーのアフターマーケット市場進出?》
 同じことが自動車メーカーから見たアフターマーケット市場についても言える。自動車の購入後には、車検や定期点検、修理サービス、カー用品など、多様な製品・サービスの需要がある。これらアフターマーケットの市場規模は、新車販売市場の約4倍にも上ると言われる。国内の新車販売の金額は約9~10兆円であるから、アフターマーケット市場は約40兆円という超巨大産業なのだ。

 この魅力的な市場に自動車メーカーが目をつけない訳がないのだが、実際にアフターマーケット市場に本格的に参入している自動車メーカーはほとんどないと言ってよい(もちろん、ディーラーを通じた純正品の販売という形では部分的に参入している)。

 これは、自動車メーカーが地場のディーラーを取り込みながら販売網を構築してきたという背景がある以上、直販のチャネルを展開するとチャネルコンフリクトが起こるからという理由もあるが、自動車製造とアフターマーケットで求められる組織能力が大きく乖離しているのが最大の要因であると考えられる。

 自動車製造は資本集約型であるのに対し、アフターマーケット産業は労働集約型である。また、自動車製造と違って、アフターマーケット市場では1人1人の顧客を長期間にわたってきめ細かくフォローし、その都度顧客に合った製品やサービスを提供する必要がある。こうした組織能力の違いが、自動車メーカーがアフターマーケット市場へ参入するのを困難にしていると言える。

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?

 ・顧客が既存製品やサービスを使う際の「前後の行動」をじっくりと観察する
 ・既存製品やサービスを支えるケイパビリティ(組織能力)と関連性が深い領域の見極め
 ・顧客の一連の消費行動を記録・分析し、プロモーションへと活用する仕組み

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ

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