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January 16, 2011

【第4回】全く異なる属性の顧客を狙う―ビジネスモデル変革のパターン

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【パターンの概要と適用できるケース】
 前回の「(3)水平展開で事業エリアを拡大する―ビジネスモデル変革のパターン(第3回)」が「類似のニーズを持つ顧客を狙うパターン」であるとすれば、今回は「全くの非顧客を狙うパターン」である。

 ドラッカーは複数の著書の中で、「どんな企業であっても、顧客の数よりも非顧客の数の方が多いのだから、事業を拡大するためには非顧客のニーズに耳を傾けるのが効果的だ」といった主張を繰り返している。昨年末から始めたこの連載「ビジネスモデル変革のパターン」は、広い意味ではいずれも非顧客の取り込みを目的としているのだが、今回のパターンは「既存顧客の属性とはかけ離れた顧客層(=常識的には、その製品を購入するとは考えられない顧客層)」をターゲットとする点で、最も極端なパターンであると言える。

【パターンが当てはまる事例】
《グラミン銀行》(※1)
 バングラデシュのグラミン銀行は、通常の金融機関が相手にしなかった貧困層向けの小額融資(=マイクロファイナンス)で有名である。融資を希望する人は、5人1組となって融資を受ける。借り手は融資を元手に、農畜産物の生産・販売といった事業を起こす。グラミン銀行は、融資を行った後も、借り手の事業が軌道に乗るように様々なサポートを行う。借り手が融資額以上の利益を上げられれば、貧困から脱出することも決して夢ではない。

 貸倒リスクを低減するための仕組みはユニークである。グループの各メンバーは連帯責任を負っており、特定のメンバーの返済が滞ると、他のメンバーへの追加融資がストップする。それぞれのメンバーには、「他のメンバーに迷惑をかけてはいけない」というピア・プレッシャーがかかり、返済の動機づけになるのだ(ちなみに、連帯「保証」責任は負っていないので、他のメンバーが抱えている債務に対する支払義務はない)。

 マイクロファイナンスに近いビジネスとしては消費者金融が挙げられるが、マイクロファイナンスは消費者金融とも異なるビジネスモデルになっている。消費者金融の場合、書面審査によって手軽に融資を受けられるものの、返済が滞れば法的措置が取られることもある。これに対して、マイクロファイナンスが採用している審査方法は人物重視であり、かつ返済が滞ったとしても法的手段に出ることはない。マイクロファイナンスは、借り手と貸し手の信頼関係に基づいたビジネスとなっている。

《任天堂》(※2)
 Wiiがこのパターンに当てはまることは特段の説明を要しないだろう。任天堂は、それまで子供向けであったゲームを家族向けに再構築した。ソニーとマイクロソフトが、プラットフォームの性能向上やゲームシナリオの複雑さを追求していたのとは対照的である。

 国内のゲーム市場の縮小に直面していた任天堂は、「なぜゲーム人口が減っているのか?」をリサーチすることにした。その結果、「子どもがゲームをしていても、母親は一緒にゲームをしない」、「大人になるとゲームをやる時間がなくなる」などといった現状が明らかになった。「家族が気軽に遊べるゲーム」というWiiのコンセプトは、これらの地道な調査に基づいている。

 「全く異なる属性の顧客を狙う」というパターンは、頭の中で意外と簡単にシミュレーションできるように思える。例えば、自社の製品について次のような問いを立てて答えてみると、今まで見落としていた意外な市場が見つかるかもしれない。

 ・「富裕層」向けの製品を「大衆層」に販売するにはどうすればよいか?
 (例:先進国の企業が新興国に進出した場合は、新興国内の富裕層をある程度獲得した後に必ずこの問いに直面する)
 ・「若者」向けの製品を「高齢者」に販売するにはどうすればよいか?
 (例:ゲームセンター(※3))
 ・「中小企業」向けの製品を「大企業」に販売するにはどうすればよいか?
 (例:Salesforceに代表されるようなSaaS)
 ・「男性」向けの製品を「女性」向けに販売するにはどうすればよいか?
 (例:「歴女」向けの製品)
 (もちろん、上記のいずれにおいても、逆の問いを立てることが可能)

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 このパターンの場合、企業によって非顧客に訴求する新しい顧客価値が異なるため、その価値を提供する事業構造も多様なものになる。よって、これといったCSFを特定することが結構難しい。ただ、1つ確実に言えるのは、このパターンでは既存事業に染みついている常識とは180度異なる価値観を組織内に醸成する風土改革が、他の変革パターンよりもはるかに重要になるということだ。

 仮に既存の銀行がマイクロファイナンスに進出する場合には、「収入の低い人には融資をしない」、「確実に融資を回収するためのルールを固めておく」といった、通常の金融業であれば当然とされる価値観を捨て去らなければならない(※4)。任天堂は、「ゲームのクオリティ向上こそがゲーマーの心をつかむはずだ」という従来の価値観に別れを告げている。これは、スペックの改善やグラフィックの高度化にやりがいを感じていたエンジニアにとっては苦渋の決断だったはずだ。

 任天堂の岩田社長はWiiを開発するにあたり、キーパーソンとなる宮本専務、竹田専務の2人を巻き込むのにかなりの時間を割いたようだ。宮本専務は比較的早い段階で岩田社長に共感したが、竹田専務は技術のロードマップを外れた製品開発には難色を示していたらしい。しかし、岩田社長の粘り強い説得により、トップの3人が同じ方向を向くことができた。このことが、後に現場社員の意識改革を推進する上でも非常に重要であったという。(※2)
 
>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ

《参考》
(※1)菅正広著『マイクロファイナンスのすすめ―貧困・格差を変えるビジネスモデル』(東洋経済新報社、2008年)

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(※2)安部義彦、池上重輔著『日本のブルー・オーシャン戦略 10年続く優位性を築く』(ファーストプレス、2008年)

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(※3)「「ゲーセン」お年寄り囲い込みへ 交流、心のスイッチオン」(産経新聞、2011年1月11日)

《2012年5月6日追記》
(※4)井上達彦著『模倣の経営学』によると、グラミン銀行の創業者であるムハマド・ユヌス氏は、グラミン銀行のアイデアをどのようにして思いついたのか尋ねられた時、こう答えたそうだ。

 「一般の銀行のやり方をよく見て、あらゆることを逆にしてみたんですよ」

模倣の経営学―偉大なる会社はマネから生まれる―模倣の経営学―偉大なる会社はマネから生まれる―
井上達彦

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