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January 20, 2011

人間の根源的な価値観とマネジメントの関係をまとめてみた―『異文化トレーニング』

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八代 京子
三修社
1998-02
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 2回にわたって人間の根源的な価値観に関する研究を簡単に整理してきたわけだが、今回はそれらの価値観とマネジメントの関係について私なりにまとめてみたいと思う。

 (メモ書き)人間の根源的な価値観に関する整理(1)―『異文化トレーニング』
 (メモ書き)人間の根源的な価値観に関する整理(2)―『異文化トレーニング』 

価値観とマネジメントの関係(1)

価値観とマネジメントの関係(2)

 クラックホーンの「人間対自然志向」、ホフステードの「不確実性の回避の度合い」、トロンペナールスの「外的/内的コントロール志向」は、企業の「戦略立案のスタンス」と関連が深い。「自然に服従、または自然と調和」、「高い不確実性の回避の度合い」、「外的コントロール志向」は、いずれも組織が外部環境に依存する傾向を表しており、これらの価値観を持つ企業は「状況適応型」の戦略、すなわち環境の変化に自社を適合させる戦略を立案すると思われる。

 これに対して、「自然を支配」、「低い不確実性の回避の度合い」、「内的コントロール志向」は、いずれも組織が環境よりも優位に立てるという考え方であり、これらの価値観を持つ企業は「状況創出型」の戦略を立案する。つまり、自社にとって環境が有利なものに変化するような戦略を描くものと考えられる。

 また、クラックホーンの「時間志向」、ホフステードの「短期/長期志向」は、「戦略の時間軸」に影響を及ぼす。短期志向であれば文字通り短期的な戦略(3年程度か?)を多用するし、長期志向であれば長期的な戦略(10年から30年とか?)を採用する。

 なお、図にはしなかったが、「戦略立案のスタンス」と「戦略の時間軸」という2軸を用いると、さらに企業の戦略のタイプを4つに分類することができる。

 ・戦略立案のスタンス=状況適応型、戦略の時間軸=短期的の場合
  ⇒ステークホルダーからの喫緊の要請に対応した戦略を立案する。
  (例:株主や重要な顧客からの要求に応える、法規制や社会的価値観の変化[最近であればエコ重視の風潮など]に対応する、など)
 ・戦略立案のスタンス=状況適応型、戦略の時間軸=長期的の場合
  ⇒様々な市場調査に基づいて長期的に成長が見込める市場を特定し、その市場へ参入する。
  (例:解りやすいのが日本国内のシニアマーケットの取り込みや中国・インド市場への進出、BOPビジネスの展開など。ただし、これらの機会は競合他社も知っているため、長期的な戦略と言えどもいずれは競争が激化する)
 ・戦略立案のスタンス=状況創出型、戦略の時間軸=短期的の場合
  ⇒自社の組織能力(コア・コンピタンスやコア・ケイパビリティ)を重視し、「自社ができること」を拡張した戦略を立案する。
  (例:市場が成熟期に入ってくると、各社とも自社が得意とする機能を強化して製品の差別化を図ろうとするのは、この手の戦略に該当する)
 ・戦略立案のスタンス=状況創出型、戦略の時間軸=長期的の場合
  ⇒自社が望む将来(往々にして自社にとって有利な将来)をデザインし、それを自らの手で実現すべく、外部環境と組織能力を両方とも変える戦略を立案する。
  (例:ソフトバンクの「30年ビジョン」などはまさにこのタイプだろう)

 その他の価値観についても、同じようにマネジメントとの関係を図示してみた。全ての補足説明を書くのは面倒なので省略(汗)。1点、トロンペナールスの「感情中立的/感情表出的」については、マネジメントとの関係がどうしても思いつかなかったので「??」にしてある。多分、「意思決定の方法」に対して何らかの影響を及ぼしていると思うけどね。

 心理学の研究では、感情(特に、怒りや興奮といった感情)は意思決定にマイナスの影響を及ぼすことが多いことが明らかにされている。

 果たして意思決定に感情は不要なのか?
 「個人的な怨讐」を超越した渋沢の精神力-『渋沢栄一「論語」の読み方』

 トロンペナールスの研究によると、アメリカ人やオランダ人、スウェーデン人は感情と合理性を切り離して考えるのに対し、イタリア人や南欧の人々は両者を一体で捉える傾向があるとされる。日本人についてトロンペナールスがどう考えていたかは解らないが、念仏を唱えて邪念を払うとか、座禅を組んで無の境地に至るといった仏教の伝統を踏まえると、おそらく感情と合理性を切り離して捉えると推測される。

 アメリカ人やオランダ人、スウェーデン人、日本人にとっては、「感情と合理性を切り離した方が意思決定の質が高まる」という心理学の研究結果はしっくりくるに違いない。しかし、イタリア人や南欧の人がこの研究結果を読んだらどう思うんだろうね?それこそ興奮で顔を真っ赤にしながら、研究内容の欠点を指摘するんだろうか??

 ちょっと脱線してしまったが、要するに今回の記事で言いたかったのは、「どの価値観を持っているかによって、マネジメントの方法も変わってくる」ということである。ただ、今回取り上げた価値観に限って言えば、価値観の善し悪しはないと私は考える。

 例えば、クラックホーンの「人間性志向」は「部下マネジメント」に影響を与えるが、これはダグラス・マグレガーのX理論・Y理論そのものである。マグレガーは「Y理論の方がX理論よりも優れている」と主張したわけではなく、マネジャーを取り巻く状況や部下の特性によって有効な理論が異なると指摘しているに過ぎない。

 それよりも重要なのは、持っている価値観同士の整合性が取れていることと、それらの価値観に基づくマネジメントの方法に一貫性があることである。一例を挙げれば、長期的な戦略を志向しているのに、即戦力に頼った採用をするというのは、明らかな矛盾である。

 ただし、今回取り上げた価値観はごくごく根源的な価値観に過ぎないから、これだけでマネジメントが構築できるわけではない点は注意が必要である。仮にこれらの価値観だけでマネジメントが規定されるならば、市場には多少の種類はあっても似たような企業ばかりがあふれてしまい、全く面白みがなくなるに違いない。

 実際には、組織にはもっと微細な価値観がたくさんあって、それらがマネジメントの方法にきめ細かく反映されることで、他社とは一味違った企業ができあがる。そのような細かい違いが積み重なっていくと、競合との差別化にもつながっていくはずだと思うのである。
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