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December 18, 2010

【第2回】高級志向の顧客を狙う―ビジネスモデル変革のパターン

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【パターンの概要と適用できるケース】
 いわゆる高付加価値戦略。価格競争力のある競合製品が市場のパイを侵食し始めると、企業はプレミアム価格を支払ってくれる顧客をターゲットとして、製品やサービスに付加価値をつけて差別化を図る。海外企業の低価格製品による脅威を特に受けやすい中小企業は、こうしたビジネスモデル変革を行うことが多い。ちなみに、中小企業庁が毎年発行している『中小企業白書』には、ここ数年必ずといっていいほど「高付加価値戦略」というキーワードが登場する。

 プレミアム価格を支払うことができる顧客層は、市場の一部に限定される。前回の「(1)低価格志向の顧客を狙う」は、「提供する製品機能やサービス内容をぐっと絞る」パターンであったが、高付加価値戦略の場合は、「ターゲット顧客をぐっと絞る」パターンであると言える。

 当然のことながら、ここには1つのリスクが潜んでいる。ターゲットを絞り込むことによって、自社の成長余地を削ってしまうかもしれないからだ。単に品質を上げて高い価格を設定し、突発的な贅沢消費を刺激するだけの安易な方策では、すぐに行き詰まってしまう。こうしたリスクを回避するには、「自社が『継続的に』提供できる顧客価値」を再定義し、「一部の顧客と太く長く続く」ビジネスをデザインする必要がある。

【パターンが当てはまる事例】
《あわじ島の香司(兵庫県線香協同組合)》(※1)
 「あわじ島の香司」とは線香のブランドである。線香は日本では完全にコモディティであり、さらに中国などから安価な線香が輸入されているため、どうしても価格競争に陥ってしまう。兵庫県線香協同組合は、新たな収益源を求めて海外展開を図ることにした。

 とはいえ、「仏事のための線香」というニーズは日本独特のものであるから、そのままでは海外に持ち込むことができない。そこで兵庫県線香協同組合は、線香を「アロマテラピー」として再定義した上で、アロマテラピーの本場であるフランスに進出することに決めた。

 「あわじ島の香司」は、「より上質の香りにあふれた生活空間を提供する」というワンランク上の顧客価値を提供している。線香のままでは非常に限られた購入機会しか捉えることができないが、アロマテラピーであれば顧客が日用品として継続購入してくれることが期待できる。まさに、「自社が『継続的に』提供できる顧客価値」を再構築した事例であると考えられる。

《ハーレー・ダビッドソン》(※2)
 「一部の顧客と太く長く続く」ビジネスへと進化する企業は、顧客との接点を重視する価値観をベースに、顧客志向が色濃く表れた業務プロセスや組織をデザインする。1983年に倒産の危機に瀕していたハーレー・ダビッドソンは、85年にLBOを実施した後、「顧客に密着する戦略」へとシフトして再生を遂げた。

(2)高級志向の顧客を狙う

 私はバイクに乗らないのでよく解らないが、バイク好きの人たちは非常に強い仲間意識を持っていて、ある種のコミュニティを形成するようだ(ツーリングをするにとどまらない強い絆が生まれるみたい)。ハーレーは、「ちょい悪」(もうこの言葉は古いか?)なライフスタイルを提供するだけでなく、ハーレーを通じて生まれるコミュニティそのものに深く入り込み、コミュニティの形成・発展を手厚くサポートしているのである。

《アンテノール》(※3)
 企業の活動の中で、最も重要な顧客接点はやはり「製品販売やサービス提供の瞬間」である。販売チャネルが顧客志向の価値観を踏み外さないようにコントロールすることは、高付加価値戦略においてとりわけ重要だ。そうなると、代理店やフランチャイズを活用するよりも、自社でチャネルを整備する方が得策である。

 スターバックスのように、創業時から直営店のみで事業を拡大してきた企業ならば、チャネルへの影響力を一貫して保つことができる。しかし、もともと大衆路線であった企業が高付加価値路線に切り替える場合は、販売チャネルの切り替えという痛みを伴うことになる。

 洋菓子の製造・販売を行うアンテノールは、かつてマスマーケットを対象にケーキを販売していた。保存が効くデコレーション用の生クリームを開発し、自社工場で大量生産してコストを下げ、フランチャイズを含む多くの店舗で安価なケーキを提供していた。ピーク時には150店舗で50億円の売上があったという。

 しかし、コンビニの台頭により、安価なケーキでは勝負できないと判断した同社は高級路線へと転換し、フランチャイズから撤退するという意思決定を下した。販売チャネルは全て、製造設備も併設された直営店舗へと切り替えられたのである。

《ティファニー》(※4)
 高付加価値戦略へシフトする際には、製品にサービスをくっつけて、トータルで価値を高めるという方法がよく取られる。ただ、このサービスというのは非常に厄介で、製品と違って在庫が持てないから需要変動に柔軟に対応できないし、さらにサービスを提供する人材のスキルにクオリティが左右されるため、マネジメントがとても難しい。

 通常のサービスであれば、需要を平準化するために「予約制度」を取り入れたり、標準的なサービスプロセスを定義して品質のばらつきを抑えたりしようとするものだ。ところが、高付加価値戦略が相手にしているのは、極端な言い方をすれば、「高いお金は払ってくれるが、その分要求水準も高く、特別扱いを望んでいる顧客」である。こうした顧客に、平準化という概念はなじみにくい。

 ティファニーには、サービスの平準化という誘惑に駆られて手痛いしっぺ返しを食らった経験があるようだ。2001年当時、大衆富裕層と呼ばれる急成長市場でティファニーブランドに火がつき、店舗に大勢の顧客が殺到するようになった。その結果、顧客に対する接客サービスが疎かになり始めた。

 この時にティファニーがとった対策は、顧客に「ポケベル」(2001年当時なので)を持たせることであった。来店時に顧客にポケベルを手渡し、順番が来たらポケベルを鳴らすという仕組みである(要は、銀行や郵便局の順番待ちと同じ。これ、日本でもやってたのかなぁ??)。

 ティファニーは、どの来店客にも均質のサービスを提供するために、よかれと思ってポケベルを導入したわけだが、「自分のペースでゆっくりと買い物をしたい」と考える顧客にとっては、経験価値が損なわれる結果になってしまったのである。

 では、ティファニーはどうすればよかったのか?という問いに答えるのは容易ではないが、1つ考えられるとすれば、大衆富裕層の中には、純粋にティファニーブランドに憧れているだけで、とにかく店舗で早く製品が購入できればよいと考えていた顧客が相当数いたことが予想される。ティファニーの店舗は、こうした顧客をターゲットとした空間ではない。

 店舗では、充実した接客サービスを望む従来からの顧客を相手に、従来通りホスピタリティあふれる接客を実施し続ける。すると、先ほどのような「せっかちな顧客」は、ティファニーの店舗ではすぐに買い物ができないから、行くのを諦めようと考え始める(何を隠そう私自身もかなりせっかちな顧客なので、たまーにティファニーの店舗に入ると耐え難い苦痛を感じるのだ、汗)。

 ティファニーにとっては新規の顧客を失うことになるものの、そもそもティファニーがターゲットとする顧客ではないのだから気にしない、という判断もできる。「それでもティファニーを買いたい」という顧客に対しては、「じゃあ、どうぞWebで買ってください」ということで、直販サイトを用意しておけばよい(現在は直販サイトが存在する)。

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?

 ・「自社が『継続的に』提供できる顧客価値」を再定義すること
 (もちろん、どんなビジネスでも顧客価値の定義は重要であるが、市場の先細りリスクがあるこのパターンの場合は、とりわけ顧客価値を慎重に定義し、事業の継続が見込めるマーケットを選択することが必須)
 ・ロイヤリティの高い顧客のネットワーク・コミュニティを形成・発展させる仕掛け
 ・顧客に密着し、顧客のニーズを製品やサービスに迅速にフィードバックする仕組み
 ・販売チャネルに対する強いコントロール力
 ・サービスの平準化への誘惑を断ち切ること

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ

《参考》
(※1)「兵庫県下中小企業の海外進出の成功と失敗の考察」(社団法人中小企業診断協会 兵庫県支部)
(※2)スーザン・フォルニエ、ララ・リー「ブランド・コミュニティ 7つの神話と現実」(『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2010年10月号)
(※3)「神戸スイーツ年代記 アンテノール 比屋根 毅(ひやね・つよし)72歳」(産経関西)
(※4)フランシス・X・フライ「顧客サービスの問題解決法」(『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2007年7月号)

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