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December 14, 2010

(※注)以降の記述で作品に関する核心部分が明かされています―『ストーリーとしての競争戦略』

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楠木 建
東洋経済新報社
2010-04-23
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わかりやすく、読み物としても面白い
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優れた戦略の暗黙の前提を理論立てて明示した本
posted by Amazon360

 以前から気になっていた本(「実行を通じて戦略を修正するフィードバックループが欠けてるよな-『戦略の実現力(DHBR2010年11月号)』」の中でちょこっと触れた)をようやく読破した。何かよく解らないけどAmazonの評価が分かれてるね。「この本の肯定的なレビューしか書いていない不自然なレビュアーがいる」、「ゼミの学生に書かせているのでは?」という、本の内容と無関係なバッシングも入っているし。

 こっちに言わせれば、そんなに奇をてらった内容の本ではないのに、ネガティブなレビューにたくさんの賛同が集まるのも変だと思うけどね。それこそ、この教授の講義を落とした学生がやってんじゃないかと…まぁ、あんまりAmazonのレビューを読むと、自分の記事が書きづらくなるからこの辺にしておこう。

 「優れた戦略は、一貫性の取れたストーリーになっている」著者が言いたいことをまとめてしまえば、この一文に尽きる。外部環境の分析を重視するポーターの競争戦略論と、内部環境の分析を重視するJ・B・バーニーの資源ベース戦略論を統合的に俯瞰しながら、アマゾン、サウスウェスト航空、マブチモーター、ガリバーインターナショナルなどといった優良企業の戦略が1つのストーリーにまとめ上げられていく様子を非常に具体的に記述しているのがこの本の特徴だ。

 著者は、優れた戦略ストーリーの条件として、次の「5つのC」を挙げている。
(1)Competitive Advantage(競争優位)
 ストーリーの「結」=利益創出の最終的な論理
(2)Concept(コンセプト)
 ストーリーの「起」=本質的な顧客価値
(3)Component(構成要素)
 ストーリーの「承」=競合他社との「違い」。SP(Strategic Positioning:戦略的ポジショニング)もしくはOC(Organizational Capability:組織能力)
(4)Critical Core(クリティカル・コア)
 ストーリーの「転」=独自性と一貫性の源泉となる中核的な構成要素
(5)Consistency(一貫性)
 ストーリーの評価基準=構成要素をつなぐ因果論理
 (※注)以降の記述で作品に関する核心部分が明かされています(Wikipedia風)

 「優れた競争戦略は、一貫性の取れたストーリーになっている」という主張自体は、何ら不自然ではないし、取り立てて新しい考え方でもない。ポーターにしても、企業内の様々な活動(アクティビティ)を自社のポジショニングに「フィット」させる必要があると言っているし(著者もこの点には本の中で触れている)、ロバート・キャプランとデービッド・ノートンであれば、「バランス・スコア・カードの4つの視点(=「財務の視点」、「顧客の視点」、「業務プロセスの視点」、「学習と成長の視点」)を用いて、戦略目標の因果関係を明確にしなければならない」と言うに違いない。

 500ページにも上るこの本を読み終わった後に、「結局は、ごくごく普通の主張を何度も聞かされただけじゃないか!?」と感じる人は、同書をつまらないと評価するだろう。ただ、私が買った本の帯には、東京工芸大学准教授の大島武氏が同書を評して、「戦略ストーリーが主題と見せかけて、クライマックスで隠し玉をポンと出す意外性」と述べたレビューが載っている。そして、その言葉通り、この本には面白い仕掛けが入っている。

 著者が持っていた「隠し玉」とは、「優れたストーリーには、一見すると非合理的な要素が入っている」という分析だ。戦略ストーリーは、企業が次々と繰り出す戦略的打ち手の一連のつながりである。当然のことながら、それぞれの打ち手の間には、論理的な一貫性がなければならない。しかし、「優れた」戦略ストーリーが「普通の」戦略ストーリーと違うのは、ストーリーの構成要素の中に、「それ単独で見ると、非合理的に見える要素」が入っているという点である。

 その要素だけを取り上げると、「あの企業は何をバカなことをやっているんだ?」と思えるようなことでも、ストーリー全体の中で見れば、なるほど他の要素と因果関係が取れている(しかも、複数の要素と強い因果関係がある)と言える要素が入っていることが、優れた戦略ストーリーの条件であるというのである。

 実はこれが、先ほどの(4)Critical Core(クリティカル・コア)のミソだ。著者がクリティカル・コアの例として挙げているのは、アマゾンの「自社倉庫」、デルの「自社組立工場」、アスクルの「文具小売店のエージェント(代理店)化」などである。

 「持たない経営」がよしとされるeビジネスにおいて、アマゾンがバカでかい倉庫に莫大な投資をし続けることは、投資家にとっては我慢ならないことであった。他のPCメーカーが製造ラインをどんどんアウトソーシングしている中で、組立工場を自社で保有するというデルの動きは、時代の流れに逆行していた。小売店舗を中抜きしてダイレクト販売をやろうとしているのに、地場の小売店をエージェントにして自社チャネルに取り込もうとしているアスクルの行動は、競合には不可解に思えた。

 しかし、アマゾンにとって自社倉庫は「在庫を自社でコントロールし、あらゆる製品を常に販売可能な状態にする」ために必要であったし、デルにとって自社工場は「顧客が望む多様なセミカスタマイズのパターンに迅速に対応する」ために欠かせないものであった。アスクルは、ターゲット顧客となる中小企業に素早くリーチするために、地元の中小企業を知り尽くした各地の文具小売店と提携するという方策をあえて採ったのである。こうしたクリティカル・コアは、戦略ストーリーの全体の流れの中で眺めれば、ちゃんとした必然性を持っているのである。

 クリティカル・コアが強力なのは、それ単独ではバカげたことに見えるため、競合他社が真似しようと思わないからだと著者は述べている。これは、バーニーの資源ベース理論でいうところの「模倣困難性」とは異なる競争優位である。模倣困難な経営資源は、文字通り模倣が困難なのであって、ポジティブに捉えると「頑張れば真似できる」可能性がある。通信インフラがなければ参入できない通信業界においては、通信インフラが模倣困難な経営資源であると言えるが、ソフトバンクは莫大な資金を調達してボーダフォンを買収し、インフラを補ってしまった。

 しかし、クリティカル・コアは、一見すると非合理であるから、競合他社は真似しようともしない。つまり、自社の戦略の本質的な部分から、競合他社の視線をそらすことができるのである。アマゾンの競合は資金ショートを避けるために自社では倉庫を持たず、デルの競合はデルより安くPCを組み立てるために自社で組立工場を持たなかった。それでも、競合他社はアマゾンやデルを打ち崩すことができなかった。それは、クリティカル・コアが本当に「クリティカル」であることに競合が気づいていなかったからだ、というのが著者の分析である。これはなかなか面白いなぁと思った。だから、個人的にはいい本だと思うよ。

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