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December 07, 2010

「ES向上⇒CS向上⇒利益向上」の自己強化システムについての考察−『バリュー・プロフィット・チェーン』

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ジェームス・L. ヘスケット
日本経済新聞社
2004-12
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成功するための秘訣とは?
バリュー・プロフィット・チェーン
翻訳の稚拙さが、星二つを減ず
posted by Amazon360

 いやー、久しぶりにひどい訳の本に出会ってしまった(汗)。Amazonのカスタマーレビューにもある通り、かなり読みにくい。稚拙な日本語に耐えながら何とか内容を理解しようとしたけど、内容そのものも結構入り組んでいて、頭の中で整理するのに時間がかかった(大汗)。

 著者がいう「バリュー・プロフィット・チェーン」とは、私なりに解釈するならば、企業のステークホルダーが創出するそれぞれの価値がチェーンのようにつながって、企業の利益を生み出すことを意味していると思われる。ただ、しょっぱなに登場する、「バリュー・プロフィット・チェーン」と名のついた下の図の意味を把握するのに相当苦労した。

バリュー・プロフィット・チェーン

 顧客価値方程式はまだ納得感があるが、従業員価値方程式の分母にある「1/総収入」って何よ??従業員価値とは、企業が従業員に対して提供する価値であるならば、「従業員のパフォーマンス(成果)に見合った報酬が得られるかどうか?」が価値を決定するのではないだろうか?すなわち、分母は「従業員のパフォーマンス」であり、分子は「金銭的報酬(給与、賞与、昇給・昇進)+非金銭的報酬(上司からの承認、職場における人間関係の強化、成長実感、充実感など)」になるんじゃない?

 投資家価値方程式になると、もっと訳が解らん!何で分子に「R&D、従業員、顧客、パートナーへの投資」が入っているのさ?投資家にとっての価値は、純粋に投資に見合ったリターン(配当+キャピタルゲイン)の大きさじゃないの??

 個々の価値方程式を結ぶ左図の矢印は、もはや理解の範疇を超えている。この図を見ても、個別の価値がどういう風に循環しているのか、さっぱり解らない(何でパートナー価値から顧客価値への矢印だけ点線なのかも説明されていないし(汗))。個別の価値方程式の内容を自分なりに一生懸命書き換えて、矢印の向きを参考に方程式を組み直そうと試みたけど、小一時間やったところで頭が痛くなったから止めた。

 結局、この図を理解することは諦めたよ(涙)。それよりも、この本が最も重視しているのは、社員満足度(ES:employee satisfaction)が向上すれば顧客満足度(CS:customer satisfaction)も向上し、企業の収益増につながるという、サービス・マーケティングの分野で言うところの「インターナル・マーケティング」である。このこと自体はすでによく知られているが、同書はそのメカニズムと数値的なインパクトを詳細に解説したものだと思えば、多少は本を読む目的が明確になる。例えば、こんな記述がある。
 高い従業員満足は離職率を下げ、利益成長を高める。(主要小売チェーンの店舗を対象とした研究によると、)従業員の満足度が高い組織では、満足度が低い場合に比べて2倍も高い成果が得られる。
 シアーズでは、従業員満足度が5ポイント改善されると、顧客満足度が1.3ポイント改善し、店舗レベルの収入の成長率が全店舗平均で0.5%以上改善した、という発見がある。
 同書を読み進めていくと、バリュー・プロフィット・チェーンのもう1つの定義が見つかったので、その内容を図にまとめてみた(何で定義が2つあるんだ?と突っ込みたくなったが…)。

ES向上⇒CS向上⇒利益向上の自己強化システム

 同書によると、ES向上と因果関係が強いのは、

 ・上司の「公平さ」
 ・同僚との関係の質
 ・個人の成長機会
 ・顧客にサービスを提供するために与えられた権限の自由度
 ・顧客の問題を解決することで得られる満足感(ミラー効果)
 ・金銭的報酬

の6要因だとされる。しかも、この順番が重要であることが多くの研究によって示されているという。つまり、給与を増やすよりも、公平な上司の下で働ける環境を用意することの方が、ESに対するインパクトははるかに大きいというわけだ。

 さらに、バリュー・プロフィット・チェーンは「自己強化システム」であると著者は述べている。すなわち、CS向上や利益の向上が再びESの向上をもたらし、CSや利益をさらに押し上げる。同書には詳しく書かれていないが、上図において点線で示したように(※点線は私が追加した)、例えば収益が拡大すれば社員の給与が上がる可能性が高くなるし、忠誠心やコミットメントが強い顧客と仕事をすることは、自社の戦略上非常に重要な顧客と一緒に仕事をすることであるから、社員にとってチャレンジを与えてくれるだろう。また、そのような顧客に十分なサービスを提供して満足してもらえれば、ミラー効果によって社員も満足感を得られる。

 ただし、当たり前の話ではあるが、放っておけばバリュー・プロフィット・チェーンが勝手に強化されるわけではない。自己強化システムにする、言い換えれば、点線の効果を飛躍的に高めようと思ったら、例えば企業の利益を社員の貢献度に応じて配分する報酬制度へと刷新しなければならないだろう。

 また、それぞれの社員にとって何が「成長機会」となるかは、社員のニーズによって異なる。既存の重要顧客を深耕することにやりがいを覚える社員もいれば、新規顧客の開拓に達成感を求める社員もいる。後者の社員に対して、CSの高い同一の既存顧客をずっと担当させるような人事政策をとると、企業、顧客、社員の3者にとってむしろまずい結果になるかもしれない。人事部は、社員のニーズとCSのバランスを考慮したキャリアパスの検討を迫られるはずだ(言葉で書くのは簡単だが、実際の制度設計は相当難しい)。

 さらに、上図の点線は、自己強化システムといっても、CSや利益の向上が6つの要因に対して及ぼす影響は限定的であることを示している。とりわけ、上位の2つ「上司の『公平さ』」、「同僚との関係の質」については、企業側がそれを積極的に担保する施策を打つ必要がある。

 その際に、何を持って"公平な上司"と定義するのか、あるいは何を持って"同僚との人間関係が良好"とするのかが問題になる。これはひとえに、その組織の価値観にかかっている。ある組織にとっては、「メンバーを選り好みせず、どのメンバーに対しても一貫した態度をとる」上司こそが公平な上司であり、「同僚との間で、部門の壁を越えてチームワークが発揮される」関係こそが良好な関係かもしれない。

 また、別の組織にとっては、「人事評価の結果を、本人が納得するまでとことんフィードバックしてくれる」上司こそが公平な上司であり、「同僚との間に適度な競争意識が芽生える」関係こそが良好な関係かもしれない。もちろん、複数の価値観が重視されることもある(その方が一般的だろう)。

 このような組織の価値観は、社員教育の内容、マネジャーの選抜基準、社員の職務設計、部門の業績評価や社員の人事考課など、組織の様々な要素に反映される。例えば、チームワークを重視する企業であれば、周囲のメンバーと緊密な連携が求められる仕事を積極的に社員に割り当てるだろうし、個人の成果に加えてチームへの貢献度合いも評価する人事制度が導入されるに違いない。

 以上、長々と書いてきたが、「ESが向上すればCSが向上し、利益が向上する」というのは感覚的にも学術的にも間違っていないものの、実際には言葉で書くほど簡単な話ではない。実務の場面では、組織の価値観や制度といった、目に見えない要素を緻密に組み込んで、地道に組織をデザインしていく慎重さが要求される。

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» 2010-12-08 from youandiandhimandherの日記
さらに、上図の点線は、自己強化システムといっても、CSや利益の向上が6つの要因に対して及ぼす影響は限定的であることを示している。とりわけ、上位の2つ「上司の『公平さ』」、「同僚との関係の質」については、企業側がそれを積極的に担保する施策を打つ必要がある。   [Read More]

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