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December 10, 2010

「顧客生涯価値」と「社員生涯価値」のまとめ(2)−『バリュー・プロフィット・チェーン』

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ジェームス・L. ヘスケット
日本経済新聞社
2004-12
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成功するための秘訣とは?
バリュー・プロフィット・チェーン
翻訳の稚拙さが、星二つを減ず
posted by Amazon360

 (その1からの続き)

 ELVは、「その社員が入社してから退職するまでに企業にもたらす収益の合計」と定義できる。同書には具体的な数式が載っていなくて残念なのだが、CLVの計算式を参考にすると、こんな感じになるのではないだろうか?

 ELV={その社員が担当している既存顧客のCLVの総和(A)
     +その社員が獲得した新規顧客のCLVの総和(B)
     +その社員が影響力を及ぼしている既存社員のELVの総和(C)
     +その社員が誘引した新卒・中途社員のELVの総和(D)}
    −{その社員の採用コスト
     +その社員に対して支払う給与・賞与の総和
     +その社員の雇用を維持するのに必要なその他のコスト}

 理論上、全社員のELVを合計すると、その企業の全顧客(将来の潜在的な顧客も含む)のCLVの合計に等しくなるはずである。

 (A)と(B)は「その社員が担当している顧客のCLVの総和」と一括りにしてもよいのだが、あえて既存顧客と新規顧客に分けておいた。どんなに企業が努力をしても、既存顧客の流出を100%防ぐことは不可能だ(極端なことを言えば、既存顧客が死亡[倒産]してしまえば、それだけでも顧客の流出になる)。流出した既存顧客の利益を取り戻し、かつ残りの既存顧客が毎年自社に支払ってくれる金額の伸び率を上回るスピードで企業が成長しようとするならば、新規顧客の獲得が必須要件である。よって、この2つは分けておいた方が、管理上有益であると思われる。

 (C)と(D)は、CLVでいうところの「紹介顧客」の価値に該当するものである。(C)は社内に対して、(D)は社外に対して発せられる社員の影響力の効果を意味する。マネジャーは、部下に対するトレーニングやリテンションを通じて、彼らの能力やモチベーションを向上させ、部下本来の能力を超えるパフォーマンスを引き出すのが仕事である。マネジャーの働きによって上積みされた部下のCLVが、上記の(C)に該当する。また、マネジャーでなくても、後輩や同僚に対して影響力を有する社員であれば、その社員のELVには(C)が加わる。

 逆に、部下や後輩を自分の手足のようにこき使い、彼らをストレスで休職に追い込んだり、彼らの離職を早めてしまったりする消耗型マネジャーの場合は、(C)がマイナスになる。

 (D)はその社員が採用活動に積極的に関与している場合に加算される項目である。日本企業は人事部が採用の権限の大部分を握ってしまっているため、ライン部門の社員で(D)を計算するのはちょっと難しい。これに対し、グーグルやゴールドマン・サックスのように、候補者の面接に何人(時に何十人)もの現場社員が関わるような場合は、その現場社員のELVに(D)が加わることになる。

 (D)についても(C)と同様に、社外に対して自社のネガティブなイメージを発信し、本来ターゲットとしていた優秀な候補者を遠ざけてしまうような厄介な社員については、やはりマイナスの金額となる。

 しかしながら、自分で書いておいてこんなことを言うのも何なのだが、ELVはCLV以上に複雑すぎておそらく計算できない(汗)。(A)と(B)はまだ何とかなりそうだが(それでも、前述のようにCLVの計算には困難がつきまとう)、(C)と(D)は社内外の複雑な人間関係を仔細に分析しないことには金額換算することができない。

 (C)について言えば、その社員が影響力を及ぼしている社員を特定した上で、影響力の程度を測定する必要がある。例えば、Xというマネジャーの下にYという優秀な部下がいたとする。Yは現在の仕事にあまり満足しておらず、3年後ぐらいに転職しようと思っていたものの、Xの献身的なフォローによって転職を思いとどまったというケースを考えてみる。

 この場合、マネジャーXにとって(C)に該当するのは、Yが4年後以降も今の会社にもたらしてくれるであろう収益の合計になる。ただ、実はYにはZというメンターがついており、Zの存在もYの意思を大きく左右していたとすると、「Yが4年後以降も今の会社にもたらしてくれるであろう収益」を、XとZの影響力の程度に応じて2人の間で分かち合うようにしなければならない。

 こうした計算をするには、「Yが3年後に転職しようと思っていたこと」、「Xがどの程度Yを献身的にフォローしていたのか?」、「Zは殿程度Yを献身的にフォローしていたのか?」という事実を、ELVを計算する部署(人事部?)が把握しておく必要がある。とはいえ実際問題として、そんなナイーブな情報を事細かに掌握して数値に反映させるのは神の仕業に近いだろう。

 それよりも、この式を整理して思ったのは、どんな組織でも、社員の役割というのは大きく分けると、

 (A)既存顧客の離脱を防ぎ、それぞれの顧客の収益を高めること
 (B)部門や企業の成長のために、収益ポテンシャルの高い新規顧客を獲得すること
 (C)トレーニングやリテンションによって、部下や後輩などのスキルを底上げし、転職を防ぐこと
 (D)有能で意欲のある新卒社員・中途社員の採用に貢献すること

という4つに整理できるということだ(スタッフ部門の場合は、社内顧客に置き換える)。まぁ、文章にしてしまえば至極当たり前のことなんだけどね。この4つの役割の比重と目標の大きさを、ポジションや入社年次によって調整する。

 マネジャーに上がる前の若手社員であれば、(A)と(B)の比重が大きくなる(営業担当者を例にとって、(A)と(B)の比重と目標の大きさが、入社年次によってどのように変化するかを考察した記事として、「新人・若手には「会社にとってのリスクは低いが、完結した仕事」を任せよう(1)」、「新人・若手には「会社にとってのリスクは低いが、完結した仕事」を任せよう(2)」がある)。(C)についても、後輩に対するOJTやメンタリングを実施することで、部分的にその役割を担うことになる。

 マネジャーに上がれば、やはり(C)が中心となる。ただ、最近のマネジャーは部下の育成に専念していればいいという状況ではなく、自らも実績を上げることが求められている。ここで言う実績とは、既存顧客の深耕というよりも、会社の成長に大きく貢献するような、重要な新規顧客の開拓を指すはずである。

 これに加えて、マネジャーは人事部と協力しながら、新卒・中途社員の確保をサポートすることもあるだろう。リクルーティング制度がない会社であっても、マネジャーが会社説明会で事業の内容を説明したり、採用HPで自社PRをしたり、面接を実施したり、内定後のフォローをしたりと、採用に関する役割は重要性を増しているように感じる。

 ELVを正確に計算することよりも、上記の4つの視点から各職種、各ポジションの役割の比重と目標の大きさを定義し、その達成度を評価する人事制度を構築することの方が、実務上は有益であると思われる。

 もちろん、ELVが正確に計算できないのだから、人事制度も完璧を目指すことは非現実的だ(あっさりとそう言い切ってしまっていいものか?という突っ込みはナシね)。それよりも、どの社員が見ても納得でき、かつ人事部・現場社員双方の運用負荷を考慮した役割・目標の設定と評価の方法を確立する方が、よっぽど大切である。

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