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December 09, 2010

「顧客生涯価値」と「社員生涯価値」のまとめ(1)−『バリュー・プロフィット・チェーン』

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ジェームス・L. ヘスケット
日本経済新聞社
2004-12
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成功するための秘訣とは?
バリュー・プロフィット・チェーン
翻訳の稚拙さが、星二つを減ず
posted by Amazon360

 市場が成熟し、供給業者が増えてくると、新規顧客を獲得するには競合他社の顧客を無理やり奪い取らなければならなくなる 市場が成熟期に入ると、限られたパイから新規顧客を獲得して売上を伸ばすには、競合他社の既存顧客を奪い取らなければならない(※脚注参照)。もともと競合に魅力を感じていた顧客を説得して自社に乗り換えさせるのであるから、それなりのマーケティング&営業コストが必要だ。一説には、新規顧客を1人獲得するコストは、既存顧客を1人つなぎとめておくコストの約5倍にのぼるとも言われる。そのため、収益を確保するには、新規顧客を無理に狙うよりも、既存顧客をつなぎとめておく方が効果的だと言われるようになった。

 では、既存顧客の中で、自社が優先的にリレーションを強化しなければならない重要な顧客は誰なのか?この問いに答えるために考え出されたのが、「顧客生涯価値(CLV:Customer Lifetime Value)」という概念である。CLVは、1人(1社)の顧客が一生涯(顧客ライフサイクル)のうちに企業にもたらす収益を意味する。

 一番簡単に計算する方法は、
CLV=(顧客が一生涯のうちに購入する製品・サービスの売上総利益)−(顧客を獲得・維持するために必要なマーケティング&営業などのコスト)
である。その顧客が熱心に自社の製品を買ってくれれば、当然のことながら売上総利益は増加する。また、そのようなヘビーユーザには、新規顧客に比べてそれほど大々的なマーケティングや営業を行う必要がなく、顧客維持コストも節約できるため、全体としてCLVは大きくなる。

 ただ、この式だと、顧客の口コミ効果が考慮されないというデメリットがある。ロイヤリティの高い顧客が発信するポジティブな口コミは、その人と同じように熱心な顧客を新たに連れてくる可能性がある。あるいは、その顧客自身のCLVは低いものの、例えばその人がアルファブロガーであってネットの世界で強い発言力を持つ場合には、その人の記事1つで多数の顧客がくっついてくることもありうる。そこで、「紹介顧客」のCLVも考慮したCLVのモデルというのも考案されている(まぁ、実際に計算するのはかなり大変だと思うが…)。

 「金になる顧客」と「金を連れてくる顧客」
 (DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2008年11月号に所収されているV・クマー、J・アンドリュー・ピーターソン、ロバート・P・レオーネの「顧客『紹介』価値のマーケティング」という論文について書いた記事)

 ちなみに、このモデルでもまだ不十分だと主張する人もいる。例えば、定期購読者と広告主という2種類の顧客を持つ雑誌ビジネスのように、自社をプラットフォームとして複数の顧客を抱えるビジネスの場合は、「ネットワーク効果」を考慮しなければならないという。

 つまり、定期購読者が増えるにしたがって、広告を掲載したい(あるいは、もっと高い広告料を払ってもよい)と思う広告主が増えるから、定期購読者のCLVには、「広告主から得られる収益」も加えなければならないというわけだ(もはや、ここまでくると計算式がとんでもなく複雑になってしまうが…)。

 事業の目的は顧客の創造である(byドラッカー)(2)−『顧客資本主義(DHBR2010年7月号)』
 (スニル・グプタ、カール・F・メラ「FREE時代の顧客価値創造」、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2010年7月号)

 前置きが長くなってしまったが、同書では顧客満足度(CS)とCLVの関係がデータで示されていて興味深い。なお、同書のCLVは、紹介顧客のCLVも含んだものになっている。著者は、顧客をCSの高い順に「使徒・所有者」、「伝播的忠誠者」、「忠誠者」、「傭兵」、「敵対者」という5つのカテゴリに分けた上で、ある家庭用品メーカーのCLVを分析した結果を紹介している。
 一言で言うと、<忠誠者><伝播的忠誠者><使徒・所有者>は同社の顧客基盤の20%にすぎないが、予想利益の基礎となるすべてのマージンを作り出している。さらに、関係が続くあいだの全マージンにおいて、<使徒・所有者>には<傭兵>のおよそ70倍の価値がある。
 「使徒・所有者」、「伝播的忠誠者」はその言葉づかいからも解るように、自ら熱心に製品を購入するだけでなく、口コミによって他の顧客を誘引する力を持っている。一方、「傭兵」とは、それほど満足度は高くないものの、訳あって仕方がなく製品を購入し続けている顧客を指す。

 もう1つ興味深いのは、著者がCLVの概念を応用して、「従業員生涯価値(ELV:employee Lifetime Value)」という概念を提唱している点だ(なお、本の中では「『従業員』生涯価値」となっているが、個人的に従業員よりも社員という言葉の方が好きなので、これ以降は「社員生涯価値」と書くことにする)。

 既存顧客の流出によって失われる利益を新規顧客でまかなうには高いコストがかかるのと同じように、社員の離職によって失われる能力やナレッジを補うために新しい社員を採用するのにもやはり高いコストがかかる。社員生涯価値(ELV)は、社員の離職を可能な限り防ぎ、雇用を維持すること(=リテンション)が収益に結びつくことを企業側に認識させるのに有効なコンセプトである。

 (その2へ続く)


(※)《2012年6月15日追記》
 非常に細かい部分ではあるものの、経済学の基礎的な知識を欠いた非常に初歩的な間違いなので修正した(汗)。一般的に、供給プレイヤーが多いのは市場の「黎明期」であり、市場が「成熟期」に入ると、競争力のないプレイヤーは淘汰されていくので、むしろ寡占状態に近づく。例外は、地域との結びつきが非常に強い業界である。例えば建設業界では、売上高1兆円規模のゼネコンでも市場シェアは3%程度しかない。ゼネコンと地場の中小・零細企業が多重下請構造を形成しているため、このような現象が起きる。

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