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December 01, 2010

人事にはデータ分析を持ち込む余地が大いにあるね−『人を潰す会社 人が輝く会社(DHBR2010年12月号)』

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情報技術が人事管理を変える 「人材分析学」がもたらす競争優位(トーマス・H・ダベンポート)
 カジノ・ホテルを展開するハラーズ・エンタテインメントは、分析学を使って予想利益が最も多い顧客を選び、ターゲットのセグメントに合わせて価格やプロモーションを調整することでよく知られている。ハラーズはこの手法を人事にも活用した。データから導かれる洞察で適材適所を実現し、フロントやその他のサービス地点で顧客に対応するスタッフの人数を最適化するモデルをつくったのだ。

 (さらに進んだ取り組みとして、)同社は、自社の医療・健康プログラムが、社員のやる気と会社の最終利益に与える影響を計るため、指標を使っている。病気予防のための社内クリニック訪問が増えたことで、過去12ヶ月の緊急医療費が数百万ドルも減った。そして同社は、社員のやる気と売上げとの相関関係を把握しているため、この健康プログラムが売上げへもたらした貢献も同様に測定できるのだ。
 この論文の著者は、『分析力を武器とする企業』の著者でもあるトーマス・ダベンポート。それにしても、ハラーズすげー。カジノの事例は知っていたけど、人材マネジメントにも統計学を活用しているんだな。

トーマス・H・ダベンポート
日経BP社
2008-07-24
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 ダベンポートはこの論文の中で、人事分野における分析パターンとして、難易度別に6つのパターンを紹介している。以下、メモ書き代わりに簡単にまとめておく。
(1)人的資本のファクト
 《目的》自社の総合的な健全性を表す重要指標は何か?
 《事例》ジェットブルーのアナリストは「乗務員の推奨スコア」(「自分の職場を喜んで他人に勧める社員」から「他人に勧めない社員」を引いて算出)という指標により、社員のやる気を観測し、ひいては自社の業績を予測することが可能になった。

(2)分析的人事
 《目的》改善が必要な対象として、どの事業部、部署、個人に注目すべきか?
 《事例》ロッキード・マーチン(※アメリカの航空機・宇宙船の開発製造会社)のマネジャーたちは自動化されたシステムを使い、業績評価データをいち早く収集し、改善が必要な分野を特定できる。

(3)人的資本投資分析
 《目的》自社のビジネスに最も大きな影響を与える行動はどれか?
 《事例》シスコ・コーポレーション(※アメリカの食品サービス業)は、配達員の満足度を追跡することでその定着度を65%から85%に上げ、新人採用と研修の費用を5,000万ドル近く節約した。

(4)労働力予測
 《目的》スタッフの増員や削減のタイミングをどう知るか?
 《事例》ダウ・ケミカルは自社仕様のモデル・ツールを使い、各事業部の将来の従業員数を予測すると同時に、業界のトレンド、政治や法律の変化、またさまざまな仮定のシナリオに合わせてその予測を調整できる。

(5)人材価値モデル
 《目的》社員が自社の会社にとどまる−または辞める−のはなぜか?
 《事例》グーグルは、業績下位の社員の多くが組織内の配置ミスか、マネジメントのミスによるものではないかと疑っていた。社員の業績データがそれを証明した。

(6)人材のサプライチェーン
 《目的》労働力需要を事業環境の変化にどう対応させるか?
 《事例》小売企業は分析学を使ってコール・センターの受信数を予測し、受信が減る時間には時間給社員を早く帰宅させることができる。
 ダベンポートは(1)〜(6)の順で難易度が上がると述べているが、個人的にはいまいちピンとこなかった(汗)。「労働力予測」は将来の不確実性を盛り込んだシミュレーションになるから、実は「人材サプライチェーン」より難しいんじゃないか?と思ったりして。

 まぁ、そんな不満はさておき、そもそも"分析"というものを時系列の観点からざっくり分けると、「現在と将来予測を比較する」パターンと、「過去と現在を比較する」パターンの2つになると思う。それぞれのパターンについて、人事分野における具体的な分析ケースを列挙してみると、こんな感じになるのではないだろうか?

<妓什澆半来予測を比較する>
 この分析は、現在の社員構成と将来的に想定される社員構成を比較し、採用や配置・異動、教育などのプランニングを行うことが目的となる。どの程度の将来を予測するかによって、さらに3つぐらいのパターンに細分化できる。

 (a)最も時間軸が長いのは、企業の中長期的なビジョンや戦略を所与の条件として、ビジョンや戦略の実現に向けて必要となる人員数やスキルレベルを事業部、職種、階層ごとにシミュレーションするというものである。これはちょうど、ダベンポートが言うところの「労働力予測」に該当する。

 ビジョンや戦略にはいくつかの選択肢があるし、転職による人員減などといった不確実性も考慮した上でのシミュレーションとなるから、必然的に複数のシナリオを導き出す必要がある。こうして描き出したシナリオに基づいて、将来の人員数や質(スキル)と現在のギャップを抽出し、ギャップを埋めるための中長期的な採用・育成計画を策定することになる。

 (b)次に時間軸が長いのは、1年単位の事業計画をインプットとしたシミュレーションである。(a)と同様に、各部門の事業計画を達成するために必要な人員数やスキルを明確にし、現状とのギャップを埋めるための施策を立案する。この場合の施策は、即戦力となる中途社員の採用や適材適所を実現するためのローテーション、あるいは比較的短期で効果が出るトレーニングなどが中心となる。

 (c)最も時間軸が短いのは、ダベンポートが「人材サプライチェーン」と呼んだものであろう。これは、毎月、あるいは毎日の業務量を推測し、業務量に合わせて社員の出勤時間や人数を調整するというものだ。ダベンポートは「人材サプライチェーン」を最も難易度の高い分析として位置づけているが、アルバイトやパートを活用している小売店などでは、アドホックではありながらも部分的にこのような分析が行われているように思える。

<恐甬遒噺什澆鯣羈咾垢襦
 このパターンの分析は、採用、異動、配置転換、人材育成、福利厚生、ES向上のための取り組みなど、人事分野における様々な施策の投資対効果を検証することが目的である。私個人の感覚としては、こうした投資対効果の検証は、人事部が予算規模の妥当性を確認したり、現場に施策の結果や効果を訴求したりする上で非常に重要だと思うのだが、本格的に着手している企業は少ないように思える。

 投資対効果を算出する数式そのものは、それほど難しくない。正確な金額をはじき出すよりも、投資に見合ったリターンがあったか否かを確認することが目的であるから、むしろあまり複雑な数式にしない方がよいと思う。例えば、こんな感じになるだろう。

 (d)「他部門への異動」の投資対効果
  《効果》(異動後の部署で創出された成果)−(異動によって、異動前の部門で失われた成果)
  《コスト》(その社員の異動に関わる人事担当者の工数を人件費換算した金額)
     +(異動前の部門で業務引継ぎに費やした時間を人件費換算した金額)
     +(異動後の部門で新しい業務を覚えるために費やした時間を人件費換算した金額)

 (e)「トレーニング」の投資対効果
  《効果》(トレーニング後の成果)−(トレーニング前の成果)
  《コスト》(トレーニングの実施費用(※社外講師の費用など))
     +(トレーニングの企画・運営に関わる人事担当者の工数を人件費換算した金額)
     +(現場社員がトレーニングの参加に費やした時間を人件費換算した金額)

 (f)「ES向上のための施策」の投資対効果
  《効果》(施策実施後のES)−(施策実施前のES)
  《コスト》ES向上のための施策にかかる諸々の費用
(※施策の内容によってかなり異なるが、多くの場合は、施策の企画・運営に関わる人事担当者の工数を人件費換算した金額に、施策の実行に現場社員が費やした時間を人件費換算した金額となる。外部のコンサルタントを使った場合は、コンサルフィーもコストとして計上する。)

 ここで、(d)(e)における「成果」をどのように金額換算するかが問題になる。営業担当者のように、成果が金額的な業績で測定できる場合は解りやすい。これに対して、「トレーニングによって工場のライン担当者の加工技術が向上した」というような場合、その成果を金額で表すには工夫がいる。

 仮に加工"スピード"が上がったならば、工場全体のひと月あたり出荷額も増えるはずであるから、まずは出荷額の増分を計算し、増分に対するライン担当者の貢献度合いを20%と置くなどすると、効果を金額化できる。また、加工の"質"が上がって不良品が減ったのであれば、返品による機会損失や不良品の廃棄にかかるコストの減少につながるから、それらの金額を元にトレーニングの効果を金額で表すことが可能になる。

 (f)については、ESの改善率が業績にどの程度のインパクトを与えるのかをあらかじめ把握しておく必要がある。ESのスコアが0.1%増加したら、会社の利益はどのくらい上がるのだろうか?ダベンポートの論文によると、スターバックスはこうした金額をちゃんと把握しているらしい。

 ES向上の金額的な効果を最も簡単に特定するには、似たような立地条件や顧客属性の店舗を抽出し、ESと店舗の利益の相関関係を導き出すという方法が考えられる。相関関係の式が得られれば、ざっくりとではあるが、ESのスコアが0.1%増加した場合の利益の増分がつかめる。

 投資対効果を検証するデータが人事部内に蓄積されてくると、将来的に新たな人事施策を企画した際に、そのコストメリットを予測しやすくなる。すると、投資金額の妥当性を経営陣にも説明することができるようになり、必要な予算も確保しやすくなると思うのである。

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