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November 20, 2010

「よかれと思ってやったのに・・・」というマネジメントのパラドクス集(その6〜7)

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(6)BPRで業務を効率化したのに、業務時間が短縮されない
 BPR(Business Process Reengineering)は、1990年代にマイケル・ハマー&ジェームズ・チャンピーが提唱したコンセプトであり、主に非製造プロセスの生産性向上にフォーカスが当たっていた。2人の著書『リエンジニアリング革命』の中では、IBMにおける事務処理プロセスの効率化の事例などが紹介されている。

 ちょうどこの頃のアメリカ企業は、コスト削減のためにリストラを進めている最中であり、人員整理を行えば株価が上がるという、今から考えれば変な状況にあった。BPRはリストラを正当化するコンセプトとして、一斉にアメリカ企業に受け入れられた。

 しかしその後、BPRを断行して組織をスリム化しすぎた企業が、かえって体力を失い業績を悪化させるという現象が見られ始めた。その原因として、BPRの提唱者であるハマーらが槍玉に挙げられてしまい、BPRには悪いイメージがつきまとうようになった。このような歴史的経緯はあるものの、"リストラありきのBPR"のようなおかしなことをしなければ、BPR自体は今でも有効なコンセプトであると考えている。

 だが、BPRによって業務プロセスを効率化したはずなのに、なぜか以前よりも時間がかかるようになった、というパラドクスが生じることがある。例えば、製品開発プロセスを効率化して、新製品をよりスピーディーに上市するために、従来はマーケティング部が主導で行っていた製品開発を、製品設計部、製造部、財務部も一体となったプロジェクトチームによって進めることにしたとする。プロジェクトチームは、マーケティング部の中に設置された。

 この部門横断型のプロジェクトチームは、マーケティング部だけでは気づかない設計・製造上の問題を早期に発見し、財務部のメンバーが提唱するコスト低減施策を早めに組み込むことで、製品開発リードタイムの短縮を目指した。当初の狙い通り、問題の早期発見・早期解決という意味では、この改革は絶大な効果を発揮した。ところが、開発リードタイム自体は思っていたほど短縮されない。なぜだろうか?

 原因は、製品開発プロセスという「横のプロセス」ではなく、稟議プロセスという「縦のプロセス」あった。まず、プロジェクトチームの結成に先立ち、各部門から必要なメンバーを選出してもらう段階で、各部門の稟議に時間がかかった。さらに、各部門が推薦するメンバーを人事部が承認するのにも時間がかかったために、プロジェクトが立ち上がるまでに、すでにかなりのタイムロスが生じていた。

 加えて、プロジェクトチーム内で提案された様々な企画や施策を、プロジェクトチームが所属しているマーケティング部内で承認するのにも手こずった。マーケティング部の稟議プロセスは多重階層構造になっており、承認が降りるまでプロジェクトチームは身動きがとれなかったのである。

 BPRはどちらかというと「横の業務プロセス」の生産性向上に主眼がある。だが、組織内には「横のプロセス」と「縦のプロセス」があり、「横のプロセス」は短縮したつもりでも、「縦のプロセス」はかえって長くなるケースがある。BPRを実施する際には、このパラドクスに注意しなければならないと思う。

(7)ハイパフォーマーの暗黙知を聞き出そうとすればするほど、誤った情報が出てくる
 ハイパフォーマーの暗黙知は、企業にとって重要な知的資産である。彼らの暗黙知を表出させ、一般社員と共有することで、社員全体の底上げを図りたいと考えるのは自然な考えだ。

 ハイパフォーマーの暗黙知を引き出すためにしばしば行われるのは、ハイパフォーマーを1時間から2時間ぐらい会議室に閉じ込めて、徹底的にヒアリングするという方法である。ハイパフォーマーが語るテキストを分析して、成果創出と相関関係の高いスキルやノウハウを導き出し、それらを社内で横展開する教育的施策を実行する、というのが一般的な流れだ。

 しかしながら、暗黙知はそもそも「言葉では説明しがたい」から暗黙知なのであって、それをヒアリングだけで引き出すことにはどうしても限界がある。しかも、人間は過去のことを無理に思い出そうとすると、記憶を捻じ曲げる傾向があることが心理学の実験でも明らかになっている。

 「相手の質問に何とか答えなければならない」、「自分はハイパフォーマーとして呼ばれているのだから、質問に答えられなければ恥ずかしい」というプレッシャーによって、インタビュー対象者がありもしない記憶を捏造してしまうのは、無理からぬことのようにも思える。

 (上記の心理学の実験が紹介されている本)

植木 理恵
講談社
2008-04-10
おすすめ平均:
(ビジネスパースンにも)実用的な心理学の本
一度読んでおいて損はない
ビジネスで成功する人
posted by Amazon360

 学習は、言葉や文字のみによって行われるものではない。五感をフルに活用して行われるものだ。にもかかわらず、ハイパフォーマーから何かを学ぼうとすると、学習の基本原則を忘れて(往々にして、ヒアリングが最も時間のかからない方法だというだけの理由で)、ヒアリングに頼ってしまう。

 もちろん、ヒアリングが全く無益だとは思わないし、暗黙知の手がかりを得ることはできるだろう。ハイパフォーマーにとっても、他人から質問されることで自分が日常的にやっている活動の意味づけを行うことができる。そのような意味づけも、知的資産を形成する貴重な要素だ。だが、ハイパフォーマーから最も効果的に学ぶには、ハイパフォーマーと一緒に仕事をして、彼らの活動を五感で感知する以上の方法はないように思えるのである。

 (続く)

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