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October 15, 2010

実行を通じて戦略を修正するフィードバックループが欠けてるよな−『戦略の実現力(DHBR2010年11月号)』

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 (続き)

ストーリーによる戦略構築のすすめ(マイケル・G・ジャコバイズ)
 企業幹部は、マップを描き、分析したり、数字をチャートに書き入れたりすることに精を出すよりも、言葉を用いて「台本」(playscript)を書くことに力を注ぐべきである。

 すなわち、その業界におけるキャスト(※筆者注:顧客や競合他社、取引先、関連産業の企業、政府、行政機関、NPOなど、業界に影響を及ぼすあらゆるプレイヤー)や彼らの関係、彼らのルール、彼らが演じるプロットやサブプロット、そしてビジネスやキャストが変化した時、いかに価値を創造し、維持するか、その方法を詳述したストーリーを書き起こすべきなのである。

楠木 建
東洋経済新報社
2010-04-23
おすすめ平均:
特に新しい視点とも思えませんでした
冗長という話もあるが
コラムとしては面白い。ポーター好きの方にはおすすめ
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 最近書店でよく見かけるこの本の著者の論文かと思ったら、全然違った(『ストーリーとしての競争戦略』の著者は日本人だった)。企業経営にストーリーを活用するという動きは、近年よく見受けられる。例えば、ビジョンや理念を社員に浸透させるために、「ストーリーテリング」の手法を用いることがある。また、マーケティングの分野では、ターゲット顧客の典型的な特徴を持った人物を描写する「ペルソナマーケティング」が注目されているが、このペルソナも言ってみればターゲット顧客の生活や購買行動をストーリー化することに他ならない。

 この論文では、戦略をストーリーで構築する方法が紹介されているわけだが、著者は既存の戦略立案フレームワークに対する批判から議論を出発させている。ポーターのファイブ・フォーシズ・モデルや、チャン・キムのブルーオーシャン戦略で提唱されている各種ツールは、「業界の境界線が明確であり、かつライバルやサプライヤー、顧客がはっきり区別できる」ことを前提としている。しかし、こうした静的なフレームワークは、想定外の顧客が出現したり、全くの異業種から競合が参入してきたり、あるいはかつてのライバルがよきパートナーとなるような、業界のダイナミズムを捉えることができないという。

 こうした業界の動的変化を戦略に反映させるには、ストーリーを活用するのが有効である、というのが著者の主張だ。ふむー、果たして本当にそうなのかな?フレームワークのような何の制約もなしに、自由に創造力を働かせて戦略をストーリー化するなんてのは、相当難しいんじゃないか?

 それよりも、「顧客のニーズは、収益性の高い企業の顔ぶれにどのような影響を与えるか。顧客ニーズの変化によって、対象領域の内外でどのように価値が再分配されるか」とか、「他のプレーヤーに価値が移動するおそれがあるか。それを防止するにはどうすればよいか。」などといった、著者が個別に提示している戦略に関わる論点(本誌p56参照)の方が、ずっと重要であるように思える。これらの論点に的確に答えられるならば、その手段がフレームワークだろうがストーリーだろうが、何だって構わないのではないだろうか?

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戦略実行の罠(ロジャー・L・マーティン)
 「実行に失敗した素晴らしい戦略」というコンセプトを考えてみよう。戦略が結果につながらなければ、どうしてそれが素晴らしいとわかるのだろうか。これは、「素晴らしい」という定義に当てはまらない。戦略の目的は、よい結果を生み出すことだからだ。(中略)

 定義に従えば、模範的な結果を伴う戦略のみが、「素晴らしい」と呼ぶにふさわしいことを認めるべきである。偉大な結果を生み出さない戦略は、単なる失敗である。
 著者は、組織内の階層に線引きをして、トップが戦略策定を、現場が戦略実行を担当するといった区別を設けることには意味がないと指摘する。そして、ある銀行の窓口担当の社員を例にとって、現場社員も戦略を立案し、実行することができることを示している。

 この窓口担当者は、リテールの顧客を独自に3つのカテゴリに分類した上で、顧客がどのカテゴリに所属するかを識別する顧客管理ツールを自ら開発し、カテゴリに応じて異なったサービス業務を実践していた。この窓口担当の実践はやがて銀行全体の戦略にも反映され、顧客セグメントや顧客データベースのデザインの基礎になったという。

 私はこの事例を読んで、著者は現場からボトムアップで戦略が立案され、実行される組織を論じるものだと思っていたのだが、期待外れだった(汗)。著者が持ち出したのは、「上流から下流への戦略カスケード」というコンセプトである。すなわち、まずトップが大枠の戦略を考案し、次にミドルがそれをもう少し具体化した戦略を策定し、さらに現場社員が日常業務のレベルで実践できる戦略に落とし込むという、上から下への一方的な戦略の流れである。

 これだと、結局のところ、トップが最初に打ち出した枠組みを外れて戦略を打ち立てることは許されないことになる。すなわち、トップが考えもしなかった戦略が、ミドルや現場から湧き上がってくる可能性が封じられてしまうのだ。著者が最初に持ち出した事例と、その後に打ち出したコンセプトがどうもズレている気がしてならない、そんな論文だった。

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戦略的提携を実現するバランス・スコアカード(ロバート・S・キャプラン、デイビッド・P・ノートン他)
 アライアンス(企業提携)がこれほど失敗しやすいのはなぜだろう。その主な原因は、これまでの組織編成とマネジメントの仕方にある。ほとんどのアライアンスは、お互いに何を得ることができるか期待するよりも、各社が何を提供するかを定めたサービス・レベル・アグリーメント(SLA)に基づいている。そのようなSLAで重視されるのは戦略的目標ではなく、業務実績を測定する評価指標だ。
 アライアンスにおけるバランス・スコアカード(BSC)の活用事例を紹介した論文。BSCが考案されてからもう15年ぐらい経つのだが、どんどんと活用の場面が広がっていくなぁ。

 アライアンスにおけるBSCの場合は、「財務の視点」の代わりに、双方の企業がアライアンスを通じて最終的に期待する「成果の視点」を導入しているのが特徴である。そして、その成果の実現に向けて必要な戦略テーマを、残りの3つの視点(「顧客の視点」、「業務プロセスの視点」、「学習と成長の視点」)から洗い出す、という手順になる。

 BSCの目的は「戦略の実行に向けた動機づけと実行のモニタリング」にあるから、それ以上のことを期待しても仕方ないのかもしれないが、BSCを通じた戦略の「修正」や「新しい戦略の策定」といったテーマがそろそろ出てきてもいいんじゃないかな?と個人的には思っている。

 BSCは、出発点となる戦略は正しいものだという前提に立っている。仮に、4つのレイヤーで設定されたKPIが想定した目標値に届かない場合は、(1)目標を達成するための施策が間違っているか、(2)目標値が高すぎるか、(3)KPIそのものが適切なものでないか、そのいずれかであるとされる。

 ただし、このモニタリングプロセスでは、「戦略そのものが間違っているリスク」は見過ごされてしまう。KPIを測定する上で収集した情報、あるいはそれに付随して得られる社内外の情報をよくよく検討すると、戦略そのものの欠陥が発覚することもあるだろう。そうなったら、出発点となる戦略を修正し、場合によっては戦略そのものを新しくつくり変えなければならない。

 上記のケースでは、BSCを通じて戦略の誤りに気づく可能性があるから、まだマシなのかもしれない。最悪なのは、BSC上のKPIがどれも正常な値を示しているのに、会社全体の業績が悪化しているというケースである。ちょうど、定期健康診断ではどの数値も正常なのに、実は重大な疾患に冒されていた、というのに似ている。

 これは、定期健康診断では測定しなかった数値が悪化していたことに原因があるわけだが、BSCでも同様のことが起きる危険性はある。すなわち、設定したKPI以外のところで重要な環境変化を示すサインが発せられているのに、それを見落としてしまう可能性である。

 そのようなサインにも敏感に反応し、うまく戦略の修正や再構築に反映させるにはどうすればよいのか?ということも、BSCをめぐる重要な論点になるように思える。間違っていることを正しくやっても仕方ない。正しいことを正しくやらなければ意味がないのである。

 (もう1回だけ続くよ)
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