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October 04, 2010

企業経営に市場原理を入れてみよう!でもマネジャーの仕事はどうなる?−『経営の未来』

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ゲイリー ハメル
日本経済新聞出版社
2008-02-16
おすすめ平均:
主体性と創造性を発揮するための経営とはどうあるべきかのヒントを提供
訳がひどい。。。
混沌と階層化
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 ゲイリー・ハメルは同書の中で、旧来的なマネジメントの手法(その多くは20世紀初頭に発明された)を、新しい時代に適合したものに作り変えるべきだと再三主張しているが、ハメルが目指している組織とはどのようなものなのだろうか?
 私は自発的に自らをつくり変えられる組織、変革のドラマに痛々しいリストラの衝撃が伴わない組織を夢見ている。イノベーションの電流があらゆる活動に流れ、反逆者が保守主義者に勝利する企業を夢見ている。社員の情熱と創造力に本当に値し、社員からそれぞれの最高の力を自然に引き出せる企業を夢見ている。もちろん、これは夢以上のものであり、必須の課題である。この先の動乱の時代に繁栄したいと願うあらゆる企業にとって、生死を分かつ挑戦である。そしてこの挑戦は、豊かな発想の経営管理イノベーションによってしか、乗り越えられないのである。
 大企業病に冒されて瀕死の状態に陥った企業を、カリスマCEOが救世主となって再建するというストーリーは、一般人が容易に食いつきそうな美談だ。だが、大規模なリストラや事業再編をしなければならないほど手遅れになる前に、組織が自発的に変革することができるのであれば、それに越したことはない。

 自発的に変革する組織とは、組織のあらゆるポジション(もちろん、管理職か否かは問わない)にリーダーシップを発揮する人間がいて、環境変化によって浮き彫りになった課題をメンバーに提示し、課題解決に向けて旧来の慣行や規則とは異なる方法で人材、資金、ナレッジなどの経営資源を社内外からかき集め、人心を掌握してブレイクスルーを生み出すような組織である(以前の記事「大事なのはリーダーシップのスタイルじゃないということ−『静かなリーダーシップ』」を参照)。

 もちろん、組織のあらゆる場所で変革が起こったら、かえって組織が混乱するリスクは否定できない。しかしそのリスクは、カリスマCEOが犯したわずかな間違いが致命傷となって組織が崩壊するリスクに比べれば、はるかに小さいだろう。変革が多発している組織は、いわば分散投資をしているのと同じであり、ごくわずかな変革でも大成功を収めれば、他の大多数の変革の失敗を補って余りある見返りが得られるからだ。ハメルが目指している組織も、このような組織だと私は思う。

 同書では、ハメルが夢見るマネジメントに実際に取り組んでいる企業の事例が紹介されている。例えば、アウトドア製品に使用される防水透湿性素材「ゴアテックス」で有名なW・L・ゴア&アソシエイツは、伝統的な階層組織とは全く異なる組織形態を採用している。

 ゴアでは管理職が部下に仕事を命じるということがない。というよりも、そもそも管理職というポストが存在しない。ゴアにいるのは「自発的なリーダー」であり、リーダーが何か仕事をしたいと思ったら、その仕事を一緒にしてくれそうな社員を探し出して協力を要請するのである。社員はその要請を自由に断ることができるものの、一旦引き受けたらその仕事に強くコミットメントしなければならない。端的に言えば、社内に流動的な労働市場が存在するようなものだ。ゴアではこうした組織形態を「格子型組織」と呼ぶそうだが、実際の社員の結びつきは格子よりもはるかに柔軟である。

 また、ロードアイランド州にあるソフトウェア会社のライトソリューションズでは、イノベーションにつながりそうなアイデアを社内で評価するための架空の市場を開設しているそうだ。全く新しい技術や事業に焦点を当てたリスクの高いアイデアを取引する「スパズダック」、現在の製品やケイパビリティと関連するアイデアを取り扱う「バウ・ジョーンズ」、短期的な業務改善につながる低リスクのアイデアを対象とした「セイビングズ・ボンド」という3つの市場に対し、社員が自らのアイデアを自由に「上場」させることができるとともに、架空の資金を自由に「投資」することができる。高い株価のついたアイデアは社員にとって魅力的なアイデアということになり、アイデアの具現化に向けたプロセスへと進むことができるという仕組みだ。

 ライトソリューションズの例は架空の資金を使った市場だが、ハメルはさらに一歩進んで、実際の資金を投資する社内市場の開設まで提案している。すなわち、社内に何百人、何千人といる予算管理者が、予算の数パーセントを、自分が有望だと思うアイデアに、部門の垣根を超えて自由に投資するというものである。従来は研究開発部門に閉じ込められていたイノベーションの資金を、社内で自由に流通させるのが狙いである。

 これらの事例やハメルの提言に見られる共通点は、「企業のマネジメントに市場原理を導入する」ということである。企業の外は市場経済で動いているにも関わらず、企業の内部はしばしばドラッカーも指摘していたように、未だに20世紀初頭の軍隊のようにマネジメントされていることが多い。それならば、企業にも市場原理を導入しようというのは一理ある考え方だと思う。

 市場原理は、時にバブル崩壊や金融恐慌といった深刻な失敗を犯すことがあるとはいえ、市場よりも効率的に資源を配分できる仕組みは今のところないといってよいだろう(その証拠に、どんなひどい金融恐慌が起こっても、市場自体がなくなったことは一度もない)。

 市場原理の活用で思い出すのが、下の『「みんなの意見」は案外正しい』という本である(過去の記事「「みんなの意見」が案外正しくなるためには、個人が自立していないとダメ」を参照)。この本でも、社内の意思決定の質を高める仕組みとして、ヒューレット・パッカードの社内市場が取り上げられていた。

ジェームズ・スロウィッキー
角川書店
2006-01-31
おすすめ平均:
Web時代にますます考えるべき集合知・みんなの意見
『投資苑』嫁
この本の要約
posted by Amazon360

 ただし、企業内部に市場原理を導入することは、市場に参加する資格を持つ現場社員にとっては朗報である一方で、マネジャーにとっては自分の仕事が失われるかもしれない危機である。マネジャーの仕事の大部分は、意思決定を下すことである。それを市場原理に委ねることになったら、マネジャーは何をすればよいのだろうか?この点については、ハメルは言及していない。

 漠然とした考えではあるが私なりの見解を書いておくと、マネジャーの仕事は「市場の公正さを保つ」ことと「市場の過熱や沈滞を防ぐ」ことの大きく2つになるのではないだろうか?要は、東京証券取引所と日本銀行の役割を担うようなものである。

 いくら市場が自由主義に基づいているとはいえ、どんなものでも市場に乗せることができるわけではない。東証には一定の厳格な基準を満たした企業しか上場できないのと同じである。これを社内市場に当てはめて考えると、アイデアの社内市場であれば、いい加減な情報が書かれた案件は排除しなければならないし、社員の流動的な異動と配置を目的とした社内市場であれば、市場で取引される(この表現はちょっと語弊があるが…)各社員の能力や経歴に過大評価がないかどうかをチェックしなければならない。「市場の公正さを保つ」ために、マネジャーは市場の監視機能を担うことになるだろう。

 もう1つは「市場の過熱や沈滞を防ぐ」という役割である。これはマネジャーが市場に介入することを意味するが、具体的にどうするかは結構難しいところだ。例えば、投機的な取引が増えた場合は、投資家である社員から一定の資金を没収して「資金プール」を作っておく。逆に取引が停滞した場合は、その「資金プール」から資金を社員に配分し、取引を活性化させる、という方法がありうるかもしれない。

 とはいえ、マネジャーの伝統的な仕事が社内市場に全て取って代わられることはない。社員を育成して能力アップを図り、社員がイノベーションにつながるアイデアを生み出せるようにサポートするといった役割は、むしろ重要度を増すに違いない。この役割が適切に果たされなければ、市場で流通させるもの自体が生まれてこない。
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