※2012年12月1日より新ブログに移行しました。自分で言うのもおこがましいですが、20代の頃に書いた本ブログよりも、30代に入ってから書いている現行ブログの方がはるかに中身が濃く、内容が多岐にわたり、面白いと思いますので、是非ご覧いただけるとありがたいです!
>>>現行ブログ free to write WHATEVER I like
September 23, 2010

顧客のことは顧客でも解らないことがある−『マーケティングこそすべて(DHBR2010年10月号)』

拍手してくれたら嬉しいな⇒
posted by Amazon360

 (前回からの続き)

エスノグラフィック・マーケティング(白根英昭)
 人類学の歴史は100年以上あるが、現在この人類学の調査手法が、ビジネス界、とりわけマーケティングの分野で再評価されている。この傾向は、「エスノグラフィック・マーケティング」という言葉がまさしく示しているように、単に直接観察するだけにとどまらず、人類学の手法そのものに学ぼうというものである。
 人類学者は研究対象となる集団に深く入り込み、彼らをじっくりと観察し、密なコミュニケーションを重ね、時には彼らとともに生活をすることで、集団を理解しようとする。企業に求められているのも人類学者と同じ姿勢、つまり顧客の中に深く入り込むという姿勢だというわけだ。

 論文では、P&Gやノキアの事例が紹介されている。P&Gには、社員が一定の間消費者と一緒に食事をしたり、買い物について行ったりする"Livin' it"というプログラムがある。また、ノキアがインドに参入する際には、インド人が携帯電話をどのように使っているのか、そしてどういう点で困っているのかをつぶさに観察し、インド向け携帯電話のヒントを得たという。

 日本でも、無印良品は消費者から家の中の写真を送ってもらい、写真に写っている家具の配置や収納の仕方を見ながら、潜在的なニーズを探り出して新製品開発に活かしている、という話を聞いたことがある。

 既存製品の改善が目的であれば、よくある定量的な市場調査で足りるかもしれない。私はいくつかの調査会社にモニター登録をしているので、定期的にアンケートが送られてくる。回答用紙が数十ページもあるから、たいていは回答するのにかなりの労力がかかる。

 一番疲れるのは、「次の製品についてのあなたのイメージをお答えください」といった質問で、20ぐらいの製品に対して、「洗練されている」、「品質がよい」、「高級感がある」、「爽やかである」、「信頼できる」といった無数の抽象的な選択肢の中からイメージを選ばなければならないヤツだ。多分、調査依頼をしているのは大手の広告代理店で、これらの回答データを基にCMなどの広告のデザインを練っていると思われる。

 ただ、この調査で解ることと言えば、せいぜい既存製品のプロモーションの改善点ぐらいであり、企業側も気づいていない(そして、顧客も気づいていない)ニーズを掘り当てることはできない。それをするためには、顧客の生の実態に直接触れる必要がある。

 「破壊的イノベーション」の概念で知られるクレイトン・クリステンセンの本に載っていた事例だと記憶しているが、あるベーグルショップで、朝食の時間帯に顧客がベーグルと一緒に購入するミルクセーキをどういうものにするかというテーマが持ち上がった。

 最初は、味をどうするか、種類をどのくらい用意するか、量をどのくらいにするかといったごくごく普通の議論を行っていた。ところが、それだけでは埒があかないということで、実際にミルクセーキを買う人に購入理由を聞いたり、顧客がどこでミルクセーキを飲んでいるのかを観察してみたりした。すると、通勤途中の車の中でミルクセーキを飲む顧客が多く、しかも彼らはどうやら「腹持ちのよさ」を重視しているのではないか?という推論が得られた。

 このベーグルショップの主要顧客は忙しいビジネスパーソンであり、味や量よりも、さっと飲めて昼までお腹が空かないことの方が重要なニーズだったというのである。そこで、従来よりも濃いめのミルクセーキを作って販売したところ、売上が伸びたという。

 既存の定量的な市場調査が無効であるとは思わない。繰り返しになるが、既存製品の品質やプロモーションの改善には有益である。ただし、定量的な市場調査は何らかの仮説に基づいて実施されるため、仮説から大きく外れる顧客の突飛な意見は拾うことができない。

 これに対して、エスノグラフィック・マーケティングでは、先入観を持たずに顧客を観察する。すると、意外なニーズが見つかり、そこからイノベーションが生まれる。両方の調査をうまく組み合わせることで、企業は顧客を深く理解できるようになるのだと思う。

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
ニューロ・マーケティングの可能性(関根崇泰他)
 消費者や顧客は無意識にうそをつく。自分の本音がわかっていないことがあるだけでなく、だれかに聞かれてみるまで、何がほしいのかなど考えたこともなかったという場合も少なくない。

 この裏返しこそ、ニューロ・マーケティングに期待が集まる理由である。つまり、「脳はうそをつかない」、すなわち言語に表出されない情報を持っていると考えられているからだ。
 アンケート調査やフォーカス・グループなどの伝統的な調査方法は、「消費者は自分の好みを正しく言葉で表現することができる」という前提に立っている。しかし、こうした調査方法には限界がある。

 先ほど私自身のモニター調査の話をしたが、このモニター調査では、数十種類の製品の写真を見せられて、「1年以内に買ったことのある製品と、その購入頻度をお答えください」とか、「それぞれの製品をどのようなシチュエーションで購入したかお答えください」といった質問をされることもある。だが、そんな昔のことを正確に、しかも数十種類の製品全てについて覚えているはずなどないのだから、どうしても曖昧な回答が混じってしまう。

 その点、脳は嘘をつかないというのが著者の主張である。脳は欲求や快楽、満足度、金銭的な損得などに反応する部位が決まっているから、それらの反応を見ていけば、人間の選好を言語に頼らずに把握することが可能だというのである。

 しかしながら、著者が懸念を示しているように、まともにニューロ・マーケティングをやろうとすると、脳を調べる装置に対して莫大な投資が必要になるらしい。あとは、こういう調査に参加してくれる顧客が果たしてどれくらいいるかも重要な論点になる。

 企業が顧客の脳を調べるということは、裏を返せば企業が顧客の言葉を信用していないというシグナルを送ることになるから、かえって顧客の不信感を煽ることになる、というリスクも考えられるのである。

 (まだ続くよ)

おススメの書籍

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:

コメントする