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September 01, 2010

受賞論文からお気に入りをピックアップ(2009〜2006年)−『マッキンゼー賞 経営の半世紀(DHBR2010年9月号)』

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ダイヤモンド社
2010-08-10
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マッキンゼー賞の半世紀の論文が読めます
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 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューは2010年8月号からデザインが変わったようだ。本号でリニューアル2冊目。9月号の特集は、1959年から2009年までの50年分のマッキンゼー賞受賞論文がダイジェストで読めるというもの。でも、残念なことに実質的な論文紹介は1997年あたりまでで、それより前の論文は数行ずつしか説明がないものが大半だから、ちょっと物足りなかった。昔の論文でも現代に通用する名論文は、数ページを割いて紹介してほしかったな…。

 今回の記事では、2009年から1997年までのマッキンゼー賞受賞論文の中から、個人的に印象に残った文章をまとめてみたいと思う。

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 アウトソーシングによって、これを委託した企業の能力だけでなく、先端材料、各種ツール、製造機器やコンポーネントのサプライヤーなど、当該産業に関わる他社の能力も長期的に失われる。(ゲイリー・ピサノ他「競争力の処方箋」 2009年マッキンゼー賞金賞)
 これは、アウトソーシングによって競合他社の能力を破壊することができるという前向きな主張ではない。むしろ、非常にネガティブな指摘である。

 先進的な産業では、同業他社や関連産業の企業が同じ地域に集まって「産業集積」を形成するケースがよく見られる。例えば、IT企業が集まるシリコンバレーがそうだ。最近は環境ビジネス関連の企業が集まってグリーンバレーとも呼ばれる。

 こうした産業集積において、ある企業が製造プロセスのようなノンコア業務を新興国にアウトソーシングしたとする。もちろん、その企業はコスト削減のためによかれと思ってやっている。だが、その結果として、産業集積全体がイノベーションを生み出す力を失い、産業集積が衰退する可能性があるというのだ。

 つまり、ある企業が製造プロセスをアウトソーシングすると、他社もコスト競争力を維持するためにアウトソーシングをする。産業集積からは、製造プロセスがごっそり海外に移転する。しかし、製造プロセスと製品企画プロセスは、実は知的資産の点で密接に関連している点が見過ごされている。

 製造プロセスにおける擦り合わせから生まれるプロセスイノベーションは、製品企画におけるプロダクトイノベーションを引き起こすことがある。ところが、安易に製造プロセスをアウトソーシングしてしまうと、産業集積はイノベーションの種を自ら殺してしまうことになりかねないのである。

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 「自社の戦略について、35語以内で説明せよ」と言われて、あなたは答えられるだろうか。また、その答えは同僚たちと一致するだろうか。我々が知る限り、この単純な質問に、はっきり「イエス」と答えられる経営幹部はそういない。(デイビッド・コリス他「戦略を全社員と共有する経営」 2008年マッキンゼー賞金賞)
 英語の35語だから日本語だと200字程度か?これはなかなか厳しい条件だなぁ。200字で、社員の誰もが理解できるように戦略の構成要件、つまり(1)自社のターゲット顧客、(2)顧客への提供価値、(3)価値を提供するためにキーとなる組織能力(コア・コンピタンス、コア・ケイパビリティ)を表現するには、日頃から相当深く戦略のことを考えていないと難しそうだ。

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 興味深いことに、「出世の階段を上がるごとに、女性はいっそう不利になる」という結果は出ていない。むしろ、あらゆる階層でほぼ一様に、女性は不利に扱われているといえる。女性の企業トップは少ないが、それは、トップまであと一歩のところで何らかのバリアによって跳ね返されたからではなく、あらゆる階層での差別が積み重なった結果といえる。言い換えれば、問題はガラスの天井ではないのである。(アリス・イーグリー他「なぜ女性のリーダーが少ないのか」 2007年マッキンゼー賞銀賞)
 「ガラスの天井」という表現は、『ウォール・ストリート・ジャーナル誌』が、女性は目に見えないガラスの天井というバリアによって、経営幹部への出世が拒まれていると論じたことに由来する。

 女性活用の遅れ具合は日本の方が深刻だ。管理職に占める女性の割合はOECD加盟国の中で最悪の部類に入るし、女性が結婚や出産を機に退職することによって30代女性の就業率が著しく下がるという「M字カーブ問題」も未だに改善されていない。

 日本で女性活躍推進に取り組む企業は、女性社員のコミュニティを形成し、女性が働く上での問題を共有したり、出世した女性をロールモデルとして女性のキャリア意識を醸成したりといった活動を展開することが多い。しかし、コミュニティ形成は旧来的な男性社会とは別に、いわばもう1つ女性社会を作るようなものである。

 人間には、同質な者同志が集まると、異質な者を排除しようとする性質がある(とりわけ、集団意識が強い日本人はこの性質が強いと考えられる)。1つの組織の中に男性社会と女性社会を並存させることは、お互いが異質な存在であり、永遠に交われないものだという意識を強める可能性すらある。

 重要なことは、男性的な価値観で構成された組織のマネジメントを、女性からの視点を交えて書き換えることである。新たな価値観を構築した組織では、各社員がそれまでとは違う業務プロセス、職務範囲、意思決定、権限配分、タイムスケジュール、協業体制、コミュニケーションルートで仕事をするようになる。女性活躍推進は、本質的には組織変革でなければならないのだ(以前の記事「地位パワーがなくてもリーダーシップは発揮できる(2)−『静かなる改革者』」も参照)。

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 マネジメントの金言をじっくりと検証すれば、その多くはやはり根拠に乏しいと判明することだろう。このようにして既存の常識が揺らぐと、マネジメント・イノベーションの余地が広がっていく。(ゲイリー・ハメル「いまこそマネジメント・イノベーションを」 2006年マッキンゼー賞銀賞)
 ドラッカーはしばしば、医療技術が実践的な知識であるのと同様に、マネジメントも実践的な知識でなければならないと述べていた。これはおそらく、古代ギリシア・ローマの医学者であるセクストス・エンペイリコスの懐疑主義を意識したものであろう。セクストスは、医師として数多くの患者を診察した経験から、あらゆる信念に対する判断を留保すべきだと唱えた。早計な判断をせず、事実をありのままに観察し、心の平静の境地に至ることで、真の意味での知識が得られるとしたのである。

 マネジメントの原理原則は、数多くの実践の中から経験則的に導かれたものが多い。言い換えれば、帰納的推論に基づくものである。ドラッカー自身も、数多くの企業や非営利団体へのコンサルティング、および大学での社会人学生とのディスかションを通じて、膨大なマネジメントの体系を完成させている(そのため、一部の経営学者からはドラッカーは「科学的ではない」と評される)。

 しかし、帰納的推論によって導かれる原則は、数学的帰納法でもない限り、完全に正しいと証明することができない。ドラッカーのマネジメント原則も万能である保障はない。一部の例外事象が現れると、それまでの原則が崩れてしまい、代わりに新たな原則を探す必要が出てくる。これをハメルは「マネジメント・イノベーション」と呼んでいるのである。

 個人的に、21世紀最大のマネジメント・イノベーションの1つになると思うのが、「サービス業やクリエイティビティ人材を前提とした組織設計・人材マネジメント・品質管理」である。これらは未だに製造業のモデルを引きずっている部分が多く、時代遅れになりつつあると感じる。

 (続く)
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