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August 09, 2010

「内発的動機と外発的動機のどっちが重要か?」という問いは意味があるか?

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 人間の動機には大きく分けて「内発的動機」と「外発的動機」がある。内発的動機とは、興味や好奇心によって起こる動機であり、自分自身の心の中に自然と湧き上がってくるものである。これに対して外発的動機とは、例えば「それをすれば高いお金がもらえるから」、「他人に認められたいから」、「昇進・出世したいから」といった具合に、目の前にぶら下げられたニンジンに食らいつくようなものであり、他者の評価やフィードバックが介在する動機と言える。

 ここで、こうした二元論によくある議論として、「内発的動機と外発的動機のどちらが重要か?」という問いについて考えてみたい。非常にざっくりとした印象レベルの話をすれば、外発的動機はどちらかというとやましい動機、不純な動機であり、内発的動機はむしろピュアな動機として捉えられる傾向があるように感じる。「高い給料が欲しくて働いている」と言う人と、「この仕事が楽しくて働いている」と言う人のどちらに好感を持つかを考えてみると、私の言葉の意味が解っていただけると思う。

 学術的な話をすれば、マズローの欲求5段階説によると、人間の最上位の欲求は「自己実現の欲求」であり、その下に「承認の欲求」があるとされる。自己実現の欲求はまさに内発的動機であり、承認の欲求は外発的動機に該当する。マズローの考えでは、外発的動機よりも内発的動機の方が高次のものとして位置づけられていることが解る。

 だが、2つの動機の優劣を論じることにはあまり意味がないと私は思っている。それはちょうど、「左脳と右脳のどちらが優れているか?」という問いに答えられないのと同じである。

 まず、マズローの欲求5段階説について言うと、自己実現の欲求まで到達する人は非常に少ない。大半の人は承認の欲求のレベルに留まると言われている。自己実現という言葉に最も敏感に反応しそうなアメリカ人ですら、大部分は承認の欲求で満足しており、それで社会はうまく機能しているのである(過去の記事「沼上幹の名言」を参照)。

 日本の場合は、「恥」や「建前」という言葉に表れているように、国民性として外発的動機を重視する傾向がある。日本人の精神的支柱ともいえる「武士道」からも、この点を読み取ることができる。新渡戸稲造の著書『武士道』には、「武士は名誉のために生きる」という文がある。つまり武士は、武士にふさわしい精神を持った人間だと周囲から評価されることを最高の目的としているのである。

 ここまでの話をもって、実は外発的動機の方が内発的動機よりも優れているのだ、ということを言いたいのではない。私が本当に言いたいのは、内発的動機と外発的動機は切っても切れない関係にあるということである。それはちょうど、左脳と右脳が意思決定において密接に連携している(過去の記事「果たして意思決定に感情は不要なのか?」を参照)のと同じである。

 例えば、芸術家は強烈な創作意欲(=内発的動機)を持って作品づくりに励むが、それだけで長く活動することはできない。芸術家も社会から作品が評価されなければむなしいと思うに違いない。だからこそ、個展を開き、コンクールに出展して評判を高めようとする(=外発的動機)。

 プロ野球選手も、野球のプレー自体が好きという内発的動機だけで務まる職業ではない。ファンからの熱い声援を受け、ライバル球団を倒す喜びに浸り、いい成績を残して高い年俸をもらうという外発的動機が強く働いているのである。

 芸術家とプロ野球選手の例は、内発的動機を外発的動機が補完するパターンであったが、逆のケースもある。解りやすいのがベンチャー企業の経営者だろう。彼らは、一攫千金を狙いリスクを冒して事業を起こす。IPO(株式公開)に成功すれば、莫大なお金を手にすることができる。そうした外発的動機に突き動かされて、一般人にはとても想像つかないようなハードワークをこなすのである。

 しかし、IPOに成功して地位と名声、そして多額のお金を手に入れると、経営者には社会的責任が重くのしかかってくる。企業は単にお金をもうければいいだけの存在ではなくなる。そうなると、経営者は自分の会社を通じて社会にどのような貢献をしなければならないのかを改めて熟考する必要が出てくる(もちろん、創業時からある程度そういうことも考えているだろうが)。そのような経営者の思いがビジョンとして結実し、内発的動機となって経営者を突き動かすのである。

 「内発的動機と外発的動機のどちらが重要か?」という問いに対しては、「どちらが重要というよりも、両者をうまくうまく組み合わせることの方が重要である」と答えたい。内発的動機と外発的動機は、持続する期間が微妙に異なる。芸術家の例で言えば、自分の気持ちの変動によって、時に創作意欲が衰え、思うような作品が創れないことがある(芸術家に限らず、クリエイティビティ型の人間にはよくある話だ)。そんな時に、根強く応援してくれるファンがい続けていてくれると、再び創作意欲が湧いてくるということもある。

 逆に、ベンチャー企業の経営者の例で言えば、IPOによる外発的動機はIPOが実現するまでしか持たない。こちらは外発的動機の方が早く効果が切れるパターンである。もちろん、IPOの次に売上や利益、時価総額の目標を立てるのだが、これらの目標も結局は市場の評価を反映したものであるという点で外発的動機であり、目標が達成されればすぐに効果が切れてしまう。外発的動機だけに頼らず、社会的な使命に目覚めて強い意思が込められたビジョンを練り上げる経営者は、内発的動機によって気持ちを切らさずに事業をマネジメントすることができるのである。

 内発的動機と外発的動機の組合せは、「熱しやすく冷めやすい」動機と「熱しにくいが冷めにくい」動機の組合せであるとも言える(どちらの動機がどちらの性質を持つかはケースバイケースである)。よって、両者をうまく融合させる術を身につければ、人は短期的にも長期的にも高いモチベーションを維持することが可能になると思うのである。

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