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June 30, 2010

スタッフ部門は現場のCクラス社員の受け皿でいいのか?

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 以前の記事「優れたリーダーは最短距離を走らない(前半)−『人と組織を動かすリーダーシップ(DHBR2010年5月号)』」で紹介した論文「優秀なマネジャーに成長する条件」では、「ハーバード・ビジネス・スクールの建学の精神はマネジャーの育成であるにもかかわらず、ライン・マネジャーの仕事に就くのは卒業生の3分の1にも満たず、残りはスタッフ部門やコンサルティング会社・監査法人などの専門職に就いてしまう」という調査結果が紹介されていた(もっとも、論文自体は40年前のものなので、現在は状況が変わっているかもしれない)。

 アメリカではスタッフ部門が出世の登竜門として看做される傾向があるようだが、日本だとちょっと事情が違うようだ。もちろん、スタッフ部門から経営陣が輩出されることはある。人事考課や財務を長くやっている人は、比較的経営陣になりやすい。だが一方で、スタッフ部門はライン部門であまりいい成果を上げられなかった社員、言い換えれば(言葉は悪いが)「Cクラス社員」の受け皿のような位置づけになっているという印象がどうしても拭い切れない。

 私の知人が勤めているある会社では、現場のプロジェクトでスキル不足との烙印を押されたり、体調不良になって業務遂行に支障があると判断されたりした社員が、大量に人事部あずかりとなっている。知人は彼らに適切な仕事を与えることができず、対処に困っていると嘆いていた。

 また同じ人事部でも、人事考課は出世コースであるのに対し、教育研修の地位は低い。最近は随分改善されたようだが、一昔前までは「人事考課>採用>教育研修」という明確な序列が存在したと聞く。教育研修の担当者には、現場であまり成果が上がらなかった社員が充当される。人材マネジメントの観点からすると、人事考課、採用、教育研修は密接に関係し合っているのに、その間に格差があるのは何とも奇妙な話である。

 マーケティング部門にも同じようなことが言える。BtoCのマーケティング部門は花形部門であり、ナイキ、コカコーラ、P&Gなどといったマーケティングが強い企業で担当者になると、周りからは羨望のまなざしを浴びる。しかし、これに比べるとBtoBのマーケティング部門は同情に値するぐらい地味な存在である。

 そもそもBtoBのマーケティングはBtoCに比べると体系だった方法論に乏しく、そのせいかマーケティング部門自体の位置づけ・ミッションが不明確になりがちだ。BtoBのマーケティング部門には、営業現場であまり数字が上がらなかった人が配属されることが少なくない、という話を何社かから聞いたことがある。

 購買部門もやはり地味なスタッフ部門と看做されやすい。社員の憧れはやはり製品開発や生産、エンジニアリングであり、それに対して購買部門は、単に発注処理のような事務作業を集約してやっているだけの部門(そして、その割にこの部品は高いだの、その納期では無理だのと文句ばかりつけてくる部門)と認識されている。そしてここに配属されてくるのは、やはり製造現場での成果があまり芳しくない社員だったりするのである(※脚注参照)

 現場=ラインを重視する日本企業には、暗黙のうちにライン部門>スタッフ部門という序列ができあがっていて、ラインで使えないとなるとスタッフ部門に異動させられることが多いように思える。

 しかし、スタッフ部門の本来の役割は、全社的な視点に立ち、限られた経営資源の価値を高めることにある。人事部門はヒトやヒトに紐付くノウハウ、購買部門はモノ、マーケティング部門はブランド資産、そして上記では触れなかったが情報システム部門は情報や形式知化できるナレッジという経営資源に対して責任を負っている。だから、スタッフ部門がCクラス社員の受け皿といった消極的な役割に留まることは許されず、もっと積極的なミッションの下に活動すべきなのである。

 例えば、人事部の中の教育研修に関していえば、Cクラス社員に研修の企画・運営をさせるのではなく、時にはラインのAクラス社員を思い切って引き抜き、彼らに人材育成を担わせるぐらいの勇気が必要だ。短期的には現場の業績は下がるだろう。だが、Aクラス社員のノウハウが全社に浸透すれば、彼らが従来上げていた成果の何倍もの成果が得られるのである。ものすごいレバレッジ効果が効くわけだ。

 BtoBのマーケティング部門についても同じだ。エース級の営業担当者を思い切ってマーケティング部門に異動させる。そして、彼らが現場で感じてきた顧客の生の声を製品開発に活用したり、顧客が自社を評価するポイントを整理してブランド価値を再構築したり、あるいは彼らが様々なタイプの顧客に接してきた経験に基づき、本当に自社にフィットするターゲット層はどこなのかを再検討し、セグメンテーションやポジショニングを見直したりする。こうした協業を通じて、何かと仲違いしがちなマーケティング部門と営業部門の間で、今まででは考えられなかった円滑なコミュニケーションが実現するかもしれない。

 購買部門も単なる事務処理部門ではなく、モノとカネの流れを握る非常に重要な部門である。「なぜこの部品なのか?」、「なぜこの価格なのか?」、「なぜこのタイミングで発注なのか?」、「なぜこの仕入先なのか?」、「なぜ1回の発注量がこの量なのか?」、「なぜ検品方法がこの方法なのか?」、「なぜ支払サイトがこの期間なのか?」など、購買に関して答えるべき問いは実に多い。これらに1つ1つ答えていくことは、自社の生産管理のあり方、生産工程、仕入先のマネジメント、在庫管理のルール、品質管理の基準やプロセスなどを見直すことにつながっていく。これらの作業を行うにあたって、生産現場のAクラス社員の知恵を借りない手はない。

 このように、スタッフ部門にライン部門のAクラス社員を抜擢することは、短期的にはリスクが伴うものの、長期的に見れば必ず大きなメリットをもたらす。ただし、こうした決断ができるのはおそらく経営陣に限られる。人事部に与えられた通常の権限では、ここまでの人事異動はできないからだ。経営陣が短期と長期のバランスを本気で考えるならば、このような大胆な人事異動もあってしかるべきなのではないか?と思うのである。

 最後に一つ付け加えておくと、ラインからスタッフへの異動は、会社だけにメリットがあるのではない。実は、本人のキャリア開発にとっても大きな意味を持つ。神戸大学の金井教授の研究によると、ラインからスタッフへの異動は「一皮向けた経験」になりやすいことが解かっている。スタッフ部門に入ると、仕事の視点が今までよりも一気に広がり、困難なタスクを背負い込むことになる。だが、それを乗り越えることで、重要な学びを得ることができるからだと考えられる。

 スタッフ部門への異動は、企業の長期的な成長という視点からも、社員のキャリア開発という視点からも、もっと慎重に検討すべき課題であろう。


《2012年6月11日追記》
(※)通常、購買部門はライン部門に分類されるが、個人的には、スタッフ部門を、(1)全社的な戦略の立案・実行をサポートする部門(よくあるのが経営企画部やマーケティング部。これに加えて、イノベーション部も必要と考える[まだ一般的ではないが・・・])、(2)経営資源の調達・投入・価値の増大を担う部門(「カネ」に関わる財務部、「ヒト」に関わる人事部が典型)と定義している。したがって、ここでは「モノ」という経営資源を扱う購買部門もスタッフ部門と捉えている。

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