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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
June 14, 2010

キャリア開発の本としての『シンクロニシティ−未来をつくるリーダーシップ』

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ジョセフ・ジャウォースキー
英治出版
2007-10-02
おすすめ平均:
「やり方」より「あり方」が大事な理由
哲学書か、量子力学書か、宗教書か、心理学書か。でも大事なリーダーシップ論
迷える世代のバイブル
posted by Amazon360

 著者のジョセフ・ジャウォースキーは法律事務所で輝かしいキャリアを築いていた。しかも、副業で始めたビジネスはどれもトントン拍子に成功し、家庭生活もうまくいっていた(はずだった)。ところが、妻から突然突きつけられた離婚をきっかけに、ジャウォースキーの人生は一変する。

 ジャウォースキーはあてもなく世界中を旅しながら、自分の人生を見つめ直す時間を作った。当時、アメリカの雑誌記事はこぞって「アメリカのリーダーシップの危機」を伝えていた。ジャウォースキーはヨーロッパで様々な人たちとアメリカの現状について話をするうちに、これからの時代にとって望ましいリーダーシップの「あり方」を明らかにし、それをアメリカ中、いや世界中に広める必要性を強く感じるようになった。そして、それまでのキャリアを捨てて、リーダーシップに関する団体の旗揚げを決心する。

 とはいえ、元々ジャウォースキーは弁護士であり、リーダーシップの知識があるわけではない。さらに、法律事務所の運営方法は知っているものの、リーダーシップを世界規模で教えるような団体のマネジメントについても解らない。だが人生とは面白いもので、偶然が偶然を呼び、彼のビジョンに賛同する人が自然と集まってくるのだ。先日の記事で紹介した『ダイアローグ−対立から共生へ、議論から対話へ』の著者であるデビッド・ボームを始めとして、リンドン・ジョンソン政権下で保健教育福祉長官も務めた政治家ジョン・ガードナー、リーダーシップ論の大家であるウォーレン・ベニスなど、錚々たるメンバーと出会うチャンスがジャウォースキーの元に転がり込んできた。

 題名の「シンクロニシティ(日本語では「共時性」)」とはカール・ユングの言葉であり、「一見すると因果関係のないような事柄が、相互に関連し合って次々と起こる」ことを意味する。一言で言えば、「意味のある偶然の一致」だ。

 この言葉はちょっとした矛盾を含んでいる。なぜならば、偶然とは確率であり、本来は意味など何もないからだ。例えばサイコロを2回振った時、1回目に「1」が出て2回目に「6」が出ることに何の意味もない。36分の1の確率でそうなった、ただそれだけである。しかし、ジャウォースキーが離婚し、世界中を旅し、リーダーシップの課題に目覚め、ボームと出会い、そこから芋づる式に権威ある人物と出会ったのは、単なる確率では説明できない「意味のある一連の現象」なのだ。これが「シンクロニシティ」である。

 先ほど述べたように、ジャウォースキーは各界の重鎮たちの協力を得て、「アメリカン・リーダーシップ・フォーラム(ALF)」という団体を立ち上げた。さらにその後、ロイヤル・ダッチ・シェルの「シナリオプランニング」プロジェクトなどに携わり、自らリーダーシップを実践する立場にもなった。本書はそんなジャウォースキーの回顧録のような本である。末尾にある金井教授の解説にもあるように、この本には「ジャウォースキー自身のキャリア開発」と、「ALFが唱えるような、これからの時代の新しいリーダーシップ像」という2つの側面がある。

(1)キャリア開発の本として
 ジャウォースキーが世界中を旅し、ALFの構想を固めたのは働き盛りの40代のことである。本ブログでもキャリア開発については何度か触れているが、「入社後4年目からのキャリア開発−内発的動機を育て、仕事に自分色を加える」で少し書いたように、ビジネスパーソンは年数を重ねるうちに徐々に内発的動機を育んでいき、とりわけ自分ならではの価値観に根ざした「仕事の使命」に目覚めることが大切になる。

 しかしながら、これは相当難しいことである。組織の中で長く働いていると、自分の価値観なのか、組織から植えつけられた価値観なのか、区別できなくなることが多いからだ。「これは自分らしい価値観だ」と思っていても、実は組織の影響を強く受けた価値観であり、知らず知らずのうちにアイデンティティが埋没している可能性もある。

 ユングは人生の折り返し地点にあたる40歳頃を「人生の正午」と呼び、これまでの人生を振り返って、残り半分の人生をどう歩むかを十分に内省するべきと説いた(ユングの時代より今は平均寿命が延びているから、今なら「人生の正午」は45歳前後になるだろう)。リチャード・J・ライダーは「人生の半ばでは、それまで背負ってきた荷物がふくらみ過ぎているので、捨てるものは捨てる必要がある。身軽にならないと荷物が重すぎる」(『人生に必要な荷物、いらない荷物』)と述べている。

 それまで背負ってきた荷物の中には、「本当は自分が望んでいる価値観ではなく、組織から半ば無理やり持たされた価値観」が含まれている。それらを剥ぎ取って、「真に自分らしいと言える価値観」を背負って人生の後半の再スタートを切ることが、40代からのキャリアを実り多きものにするのである。

 ジャウォースキーも離婚を契機に自分の荷物を再点検した。法律家時代のジャウォースキーは、「(時に家族を犠牲にしても)ハードワークをこなすこと」、「困難な訴訟に勝つこと」、「ビジネスで金銭的に成功すること」に意義を見出していた。ところが、よくよく見直してみると、それは自分にとって本当に大切な価値観ではないことに気づく。世界中を彷徨った果てにジャウォースキーがたどり着いたのが、「アメリカ、そして世界中に本当のリーダーシップを根づかせる」という使命感だったのである。

 (続く)
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コメント

はじめまして。

実はこのたび「ユング」をテーマに文章を書く関係で
このキーワードで検索しているうちに、
こちらを覗かせて頂くことができました。

勉強させて頂きました。

ありがとうございました。

このブログもユングがテーマでしたが、
面白かったですよ。
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