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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
June 09, 2010

なぜリーダーにはリーダー固有の「価値観」が必要なのか?

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 リーダーシップに関する書籍を何冊も読んでいると、その多くが「自分の価値観を明確にする」ことの重要性に触れていることに気づかされる。例えば、ジェームズ・M・クーゼス、バリー・Z・ポスナーの著書『信頼のリーダーシップ』では、リーダーに求められる「6つの規範」の最初に「自らの本質を見極める」という項目が挙げられており、リーダーに自らの価値観の内省を促している。

ジェームズ・M. クーゼス
生産性出版
1995-07
おすすめ平均:
リーダーシップの力の源を見直す良書
じっくり読み込んで欲しい一冊です
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 メンバーは、彼らのリーダーがその信念に勇気を持つことを当然のことながら期待している。メンバーは、リーダーがその信念のために立ち上がることを期待する。もしリーダー自身の信ずることがはっきりしないと、好き嫌いの感情や世論調査の結果で、その立場を変えることになってしまう。核となる価値観のない人、もしくは立場をただ変えればよいと思っている人は、一貫性のない人と判断され、またその行動が「政治的である」と軽蔑されるであろう。
 ジェームズ・M・クーゼスらのもう1冊の著書『リーダーシップ・チャレンジ』の中でも、リーダーの価値観の働きが別の言葉で表現されている。

ジェームズ・M・クーゼス
海と月社
2010-02-19
おすすめ平均:
人間愛に満ちた実用の書
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 信念は人生に指針を与えてくれる。心の羅針盤となって、日々の生活をみちびいてくれる。信念があれば、道をふみはずす心配もない。

 先の見えない困難な時期はとくに、こうした道しるべが欠かせない。問題が次々と起こり、方向性を見失いそうなときは、自分がいまどこにいるのかを教えてくれる標識が大いに役立つ。
 このブログでも何度か述べたことがあるが、価値観はその人にとって世界の見え方を規定するレンズのようなものであり、またその人が何らかの決断を下し、行動に出る際の判断基準として機能する。

 では、なぜリーダーシップを発揮する際に、リーダー自身の価値観がこれほどまでに重要になるのだろうか?強い信念はリーダーの力の源泉となり、チームの変革を後押しするという一面ももちろんあるだろう。意思が弱い人間に大きな行動を起こすことはできない。だが、そのような精神論めいた理由以上に、リーダーの固有の価値観は重大な意味を持っていると私は思う。

 リーダーシップの役割とは、言うまでもなく変革を起こすことであり、現在の世界を異なる高みへと非線形的に導くことである。どんなにうまくマネジメントされてきた組織でも、周囲を取り巻く様々な要因が変化すると、従来のやり方が通用しなくなる。いわゆる「成功の罠」というものである。そんな時こそ、リーダーシップの出番である。

 組織が採用しているマネジメントには、その組織の価値観や仮定が組み込まれている。それらを経営陣や社員が意識しているかどうかは問題ではない。とにかく、あらゆるマネジメントには、その組織が長年にわたって脈々と受け継ぎ、蓄積してきた価値観が色濃く反映される。

 例えば、アップルのマネジメントの根底には、「顧客をあっと驚かせる製品を生み出す」、「デザインや機能性において完璧を追求する」という価値観が存在する。ディズニーでは「安全性」、「礼儀正しさ」、「ショー」、「効率」という4つの価値観が明確に定められており、かつこの順番で優先順位がつけられている。つまり、ディズニーの社員はいつ何時でも、顧客の安全性を最優先に行動することが求められる(究極のエンターテイメントを追求するディズニーのイメージからすると、これはちょっと意外に思われるかもしれない)。

 しかし、マネジメントが機能不全に陥るということは、マネジメントが前提としている組織の価値観や仮定が時代遅になっていることを意味する。残念ながら、永遠で普遍的なマネジメントというものは存在しない。環境が変われば、旧来のマネジメントはミスマッチを起こす宿命にある。

 組織が下り坂を転げ落ちる前に、組織の価値観を時代に適合した(あるいは時代を先取りした)ものに書き換えなければならない。ところが、社員が全員古くさい価値観に染まっていると、誰一人として価値観の書き換え作業を行うことができない。新興企業のイノベーションを見くびって変革を怠り、その結果として苦境に陥った大企業は、この手の失敗を犯している。

 トヨタが何十年も前にアメリカ市場に参入した時、GMはトヨタのサブコンパクト・カーを見て、利益率が最も低い市場セグメントを守るために競争しても意味がないと判断した。GMは「利益率を守る」という価値観に従ってトヨタとの競争を避け、ハイエンドの市場へとシフトしていった。その結果、長い年月の果てに片方はアメリカ市場で覇権を握り、もう片方は債務超過で破綻した。

 最近はKindleやiPadの登場によって電子書籍がホットである。これもまた新しい市場を切り開くイノベーションであるのだが、東京電機大出版局長は次のように述べて、日本における電子書籍の成功にあっさりと「No」と言ってしまった。
 日米では、読書習慣や出版文化が明確に違う。しかもそれは急には変わらない。米国人にとって「読書は消費」だといわれており、バカンスに本を4〜5冊持って行き読み終わったら捨てて帰る人が多いという。日本人は紙質や装丁にこだわり、読み終えても取っておく人が多い。米国で成功したから日本でもというのは、分析が足りないと思う。
(「電子書籍:「元年」出版界に危機感 東京電機大出版局長・植村八潮さんに聞く)」
 しかし、未来が過去の延長である保障はどこにもない。だいたい、「読み終えても取っておく人が多い」ならば、ブックオフがここまで巨大化することはなかったはずだ。さらに、「本を自炊する(=スキャンしてPDF化し、PCに取り込む)」という言葉が市民権を獲得しつつあり、「紙にこだわりを持つ人が多い」という分析自体が甘い可能性もある。出版業界に根づている古い価値観で日本の書籍市場を眺めているから、こうした発言になってしまうのである。

 社員が皆古い価値観に染まっていると、組織は変化を起こすことができず沈没する。一方、誰かが組織の価値観に染まり切らず、別の価値観を持っていれば、旧来の価値観をひっくり返す確率が出てくる。その別の価値観を持つ人物こそが、リーダーになる資格を持っているのだ。組織から見れば「異端」に映る彼の価値観が、実は変革のカギを握っている。

 リーダー固有の価値観を通じて見ると、それまでの組織の価値観では認識できなかった市場、顧客ニーズ、競合、技術が見えてくる。すると、従来のマネジメントが見過ごしていたビジネスチャンスが出現する。さらに、リーダー固有の価値観は、ビジネスチャンスをつかむための製品開発、マーケティング、製造工程、サービスプロセス、意思決定、コミュニケーション、人材育成などの方法を、これまでのマネジメントにおける方法とは全く異なるものに変えてしまう。リーダー固有の価値観は、まさにこの点で変革を推進する原動力となっているのである。

 キャリア論の大家であるエドガー・シャインは、長年にわたる組織文化とビジネスパーソンのキャリアの研究を通じて、「組織にも個人にも譲れないものがある」ことを発見した。企業は組織の価値観で社員を”洗脳”しようとするが、社員は必ずしも自分の価値観を全て捨ててしまうわけではない。どこかの部分では、自分らしい価値観を固持しようとする。

 これは決して悪いことではない。むしろ奨励されるべきことなのだ。なぜならば、組織の価値観に完全に染まらない余白を持つ社員が何人かいれば、いざという時には彼らがリーダーシップを発揮して組織を救ってくれるからである。

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