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April 30, 2010

ソニーや出版社の動きも解って嬉しい−『iPad vs. キンドル』

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西田 宗千佳
エンターブレイン
2010-03-12
おすすめ平均:
分かりやすい
チープな装丁で敬遠しないで
iPad発売の今こそ読むべき一冊
posted by Amazon360

 タイトルは「iPad vs. キンドル」となっているが、iPadの記述はそれほど多くなく、むしろソニーの「ソニーリーダー」に関する記述が多かった。日本企業も健闘しているんだよ。しかも、Kindleがアメリカとカナダでしか本格的にビジネスを展開していないのに対し、ソニーはヨーロッパでも各国の出版社と提携して電子書籍のオンラインストアを開設しているというのだから、ソニーの方が一歩進んでいると言ってもいいぐらいだ。

日本の技術の方が先行していたのにビジネスで負けた
 そもそも、電子書籍の原型は日本にあったことがこの本を読んで解った。Kindleが採用しているイーインク社の電子ペーパーのサイズは6インチ。これはアメリカの書籍のサイズとしては中途半端(ハードカバーよりは小さく、ペーパーバックよりは大きい)であり、むしろ日本の文庫本のサイズに近い。なぜこんなサイズをAmazonは採用したのか?

 6インチサイズの電子ペーパーは、実はソニー向けに製造されたものだった。ソニーは2004年に「リブリエ」というデバイスを発表し、電子書籍ビジネスに参入した。が、このビジネスは失敗に終わる。Amazonはその失敗を見て、自社のデバイスをどう設計するか考えた。電子ペーパーは、サイズを変更すると製造コストがかさんでしまう。6インチサイズであれば、ソニー向けの製造実績がある程度あるから、製造コストも下がっている。そこでAmazonは、アメリカの書籍のサイズとは合わないことを承知の上で、6インチサイズの電子ペーパーをKindleに搭載したというわけだ。
(ソニーはその後、「ソニーリーダー」を開発して電子書籍ビジネスに再参入を果たしたが、その際にはハードカバーに近い7インチサイズと、ペーパーバックに近い5インチサイズの2種類を用意している)

 ところで、ソニーのリブリエはなぜ失敗したのか?理由は簡単。販売している電子書籍の数が少なすぎたからだ。AmazonがKindleを発売した時に購入可能だった電子書籍は9万冊。これに対して、ソニーがリブリエを発表した時にはわずか800冊しか品揃えがなかった。小売業が成功する鉄則は、とにかく「品数を揃えて顧客に幅広い選択肢を提示すること」。これは戦略の定石であり、ソニーぐらいの企業ならば十分に解っていたはずだ。だが、それを阻害したのはやはり、日本特有の著作権の構造にあると言えるだろう。

あいまいな著作権管理はどうなるのか?
 電子書籍を出版する際にネックになるのが著作権である。アメリカでは作者と出版者との間で、ちゃんと書面で出版契約を結ぶのに対し、日本は口約束で契約を交わすのが慣習になっているようだ。つい先日も、『ブラックジャックによろしく』の作者・佐藤秀峰氏が出版社にブチ切れてカバーイラストを拒否した、というニュースが話題になったが、マンガ業界における著作権管理のずさんさが露呈した形だ。

 「佐藤秀峰、出版社にブチギレ!! 『ブラよろ』カバーイラストをボイコット

 出版社が電子書籍を出版するためには、改めて作者との間で「電子書籍による出版」に関する契約を結ぶ必要がある。ところが、今まで口約束で何となくやり過ごしていた契約関係を一から見直すなんて面倒くさいことを出版社もしたくはない。そこで、一部の大手出版社が「日本電子書籍出版社協会」を設立し、出版社側が電子書籍出版の権利も持てるように法的改正を目指す動きに出た。

 「電子書籍化へ出版社が大同団結 国内市場の主導権狙い

 しかし、全ての作者がこれに対して素直にYesと言うとは思えない。なぜなら、Amazonと直接出版契約を結び、アマゾンDTP(アマゾン・デジタル・プラットフォーム)というソフトを使って自ら電子書籍を制作・出版した方が、はるかに高い印税を手にすることができるからだ。当面は電子書籍の出版権をめぐって、作者と出版社の駆け引きが続くのだろう。

 著作権管理がもっと複雑になるのは、雑誌や理工系の書籍である。これらの書籍には、文章を書く人、写真を提供する人、図表を提供する人、イラストを提供する人など、様々な人が絡んでいる。彼らはもちろん、自らが提供した素材に対して著作権を持っている。だから、これらの書籍をデジタル化するためには、全ての著作権者からデジタル化の許諾をもらわなければならない。考えるだけで気が遠くなりそうな作業である。

 ちなみに、「Webオリ★スタ」というサイトで「オリ★スタ」を立ち読みしてみると、ジャニーズ事務所のタレントはことごとくグレーアウトされている。一部の著作権者からデジタル化の許諾が下りないと、何ともお粗末な電子書籍になってしまうことがよく解る。

雑誌の広告ビジネスモデルは崩壊するのか?
 電子書籍が本格化した場合、雑誌の著作権問題もさることながら、ビジネスモデルそのものも変容を迫られるはずだ。音楽のインターネット配信がそうであったように、電子書籍が普及すれば、分解可能なコンテンツはバラバラに解体される。小説やビジネス書はさすがに分解できないが、雑誌なら記事単位で分割ができる。ユーザーは、好きな雑誌から、好きな記事だけを選んで購入すればよい。そうすると、従来のような広告ビジネスモデルは成り立たなくなる。

 この点については、雑誌出版社から成る社団法人・日本雑誌協会が、PC向けの雑誌記事配信サービス「Parara(パララ)」を試験的に始めていることが同書に書かれている。この実験はクローズドシステムで運営されているため内容はよく解らないのだが、おそらくは前述した著作権管理の問題や、記事をバラ売りした場合の収益性を検証しているのではないかと同書は指摘している。

 雑誌の広告ビジネスモデルは電子書籍によって崩壊するのか?個人的にはそれはないと思う。紙としての雑誌は依然として残るだろう(一概には言えないだろうが、中高年は電子書籍よりも紙媒体の方をやはり好むのではないか?)。特定の雑誌を定期購読で読み続ける人もそれなりに残るに違いない。

 ただ、私は個人的に特定の出版社の考えに偏るのがイヤなので、できるだけ多くの種類の雑誌に接したいと思っている。しかし、それぞれの雑誌を全て購入していたら、とてもじゃないがお金も持たないし、自宅の床が抜けて大家さんに怒られてしまう。各雑誌の中から気になる記事だけをピックアップしたいのだ。そのためなら、1記事あたり100円なり200円なり払ってもいいと思っている。

 もちろん、そういうサービスがこれまで全くなかったわけではない。新聞・雑誌の記事を横断的に検索し、PDFで保存できる「日経テレコン」がそうだ。だが、これは法人向けのサービスであり、検索するといくら、記事表示をするといくら、といった具合に料金が細かく定められていて、とても個人が負担できる金額ではない。

 とはいえ、電子書籍が普及して私のようなニーズを持った人たちが増えてくれば、記事のバラ売りビジネスは、昨今の広告収入減を補う新たな収益の柱として成立する余地があるのではないかとも思うのである。私としては是非実現してほしいと願っているところだ。

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