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April 29, 2010

KindleとiPadのビジネスモデルの簡単なまとめ−『電子書籍の衝撃』

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佐々木 俊尚
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2010-04-15
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衝撃はまだ続いている
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2010年の電子書籍業界を体系的に整理した良本
posted by Amazon360

 昨日の続き。何となく解ったKindleとiPadのビジネスモデルを同書を基に簡単にまとめてみた。

Amazonを通じた電子書籍販売のパターン

Kindle普及のための「原価割れ」戦略
 まず最初にAmazonがやったのは、赤字覚悟で仕入価格よりも安く販売する作戦だ。アメリカのハードカバーは日本よりも高く、大体25ドル前後で売られている。そこで、ベストセラーなど販売数が見込める書籍については、Amazonは出版社から13ドルで本を仕入れ、それを原価割れの9.99ドルで販売した。

 日本では再販価格維持制度があるために絶対にこういうことはできないのだが、Amazonは出版社が卸値を決めておいて、その上でAmazonが小売価格を自由に決められるという「ホールセール契約」を出版社と交わしているため、こういう値決めができる。書籍単体では赤字になってしまうものの、まずはKindleというデバイスを普及させるために取った戦略である。

出版社に代わる「ディストリビュータ」の登場
 作者が書籍を出版する場合、作者と出版社の間で出版契約を結ぶ。だが、この契約が前提としているのは「紙媒体」での出版であり、電子書籍は想定されていない。今まで電子書籍など存在しなかったのだから、これは当然といえば当然だ。出版社が電子書籍を出版するためには、改めて作者との間で「電子書籍の出版契約」を結ぶ必要がある。

 この契約の穴を狙ったのが「ディストリビュータ」という存在である。彼らは作者とAmazonとの間に立って、両者の出版契約を仲介する。例えば、Amazonが20ドルの電子書籍を販売すると、Amazonは販売手数料として65%(=13ドル)をもらい、残りの35%(=7ドル)がディストリビュータの手元に入る。ディストリビュータは7ドルのうち85%(=5.95ドル)を印税として作者に還元する。この印税は通常の出版社よりも高く、作者にとっては非常に魅力的だ(※Amazonが手にする販売手数料、およびディストリビュータが作者に還元する印税の割合は、ケースバイケースによって異なる)。

 出版社はディストリビュータの動きに慌てた。自分が抱えている人気作者の電子書籍出版権を、どこの誰かも解らないディストリビュータに横取りされたのではたまったものではない。そこで、出版契約の中に「電子書籍」も含める方向で契約書を見直す出版社が増えている。

Amazon自身が出版社に
 Amazonがもっとすごいのは、「アマゾンDTP(アマゾン・デジタル・テキスト・プラットフォーム)」という書籍出版用のソフトを自前で用意してしまったことである。アマゾンDTPを使うと、誰でも電子書籍をAmazonで販売できるようになる。

 従来、名もない作者が書籍を出版するためには、出版社に対して数百万円を払って自費出版するしかなかった。出版社が紙代や印刷代などの原価を作者に肩代わりさせて、投資回収のリスクを回避していたからである。しかし、電子書籍ならば原価の心配がいらない。だから、アマゾンDTPを使うと何と「無料」で書籍を出版することができる(実際には、ISBNコードを取得するのに若干のお金がかかる)。

 しかも、販売価格は書き手自身が自由に決められる。例えば20ドルで電子書籍を販売すると、Amazonは販売手数料として30%(=6ドル)を徴収する。残りの70%(=14ドル)はまるまる印税として書き手の手に残る!!これは、通常の出版では考えられないような印税率である。印税率はケースバイケースで変動し、最大で販売価格の90%になることもあるそうだ。

ipadとkindleのビジネスモデル(エージェント契約方式)

Kindleの対抗馬=iPadのビジネスモデル
 Kindle(とソニーの「ソニーリーダー」)の独走を許すまじと、満を持して参入してきたのがAppleのiPadである。ただ、iPad自身は電子書籍専用のデバイスではなく、iPhoneと同じ様々なアプリケーションが使える汎用型デバイスである。

 Amazonが出版社と交わしている「ホールセール契約」では、出版社は自らが決めた納入価格に従ってAmazonから代金をもらえるので、出版社が直接損をするわけではない。しかし、Amazonが電子書籍=9.99ドルなどと自由に最終価格を決定してしまうと、25ドルの紙の書籍の方が売れなくなり、トータルで見ると損になってしまう。最終価格の決定権をAmazonに握られていることに、出版社は強い不満を抱いていた。

 そんな出版社に対し、Appleは「エージェント契約」を提示した。「販売価格は出版社が自由に決めてOK。ただし、Appleは販売手数料としてその30%だけいただきますよ」という契約である。出版社は喜んでこの契約に追従した。そして、出版社はAmazonに対しても「エージェント契約」を突きつけ、自らの元に価格設定権を取り戻すことに成功したのである。

戦略変更後のAmazon
 優しいApple。さながらホワイトナイトのような振る舞いである。Appleの戦略を受けて、Amazonもエージェント契約方式に移行し、販売手数料を30%に設定した。ところが、この30%が適用されるには、「Appleより安い価格で販売すること」などという厳しい条件があった。このあたりはAmazonも抜かりがない。

 仮にAppleが20ドルで販売している電子書籍を、Amazonにおいて14ドルで販売したとする。この時、Amazonが手にする販売手数料は30%の4.2ドルとなり、残りの9.8ドルが出版社の手に入る。しかし、この9.8ドル、もともとはAmazonに13ドルで卸していたことを考えれば、完全に損なのである。

 出版社が13ドル以上手にするためには、19ドルで販売しなければならないのだが、Appleが2ドル値下げして18ドルになった瞬間に、Amazonではエージェント契約ではなくホールセール契約が適用される。Appleの出方次第で、価格設定権は簡単にAmazonに奪い返されてしまうのである。

 Appleは全然優しくなかった。そして、Amazonはもっと優しくなかった。出版社はこの2社の戦略に完全に翻弄されている。出版社は今後どのようなビジネスモデルを取るべきなのか?著者の佐々木氏は、音楽業界を引き合いに出して、作者のトータルプロデュースを手がけるような存在になるだろうと予測している。

 確かに、iTunesがヒットしてから、アーティストは収入源をCDからコンサートやライブに求めるようになった。しかし、書籍の作者はアーティストのように幅広い活躍フィールドを持っているわけではない。だから、音楽業界と同じような動きになるかどうかは個人的にはちょっと疑問である(そもそも「トータルプロデュース」って何よ?)。

 電子書籍のビジネスモデルに関しては、オルタナティブブログの下記の記事が非常に解りやすいので、こちらも是非どうぞ。
 「電子書籍リーダが変える産業構造。消える産業、産まれる産業
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