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April 15, 2010

「バランス」の意味を再考してみる−『バランススコアカード−新しい経営指標による企業変革』

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ロバート・S. キャプラン
生産性出版
1997-12
おすすめ平均:
翻訳のひどさ、どうにかならないものか。
中身はいいのだが
BSCの古典です
posted by Amazon360

 過去の記事「スコアボードを見ずに野球ができるか!−プロセス指標の必要性」や「部門のミッションに合ったKPIを設定しよう」でKPI(Key Performance Indicator)の重要性に触れたが、KPIを語る上ではやはりこの本は欠かせないということで改めて読み返してみた。

 バランススコアカード(BSC)の「財務の視点」、「顧客の視点」、「社内ビジネスプロセスの視点」、「学習と成長の視点」それぞれについて具体的な指標が示されており、またBSCを実際に導入している企業のBSCが部分的ではあるが紹介されているため、内容を理解するのに苦労することはない(多少、翻訳に難がある程度)。ただ、例示されている一部の指標がやや混乱を招くようにも感じるので、私なりの見解を書いておきたいと思う。

 例えば、「社内ビジネス・プロセスの視点」の章では、研究開発部門のKPIとして「新製品売上高の割合」、「主力製品売上高の割合」(p139)が挙げられているが、これらは「顧客の視点」に入れるのがふさわしいだろう。代わりに、「新製品開発件数」や「新製品の市場投入リードタイム」、あるいは「実際に製品化された製品企画の割合」などが「社内ビジネス・プロセス視点」のKPIになりうるはずだ。

 また、同様に「社内ビジネス・プロセスの視点」の章において、「ブランドマネジメント」という活動の成果を測るKPIの例が「市場占有率」、「ブランドの認知度」(p150)となっている。これらもやはり「顧客の視点」のKPIとして位置づけた方がよい。「社内ビジネス・プロセスの視点」のKPIとしては、「雑誌広告の出稿回数」、「キャンペーンの企画実行数」の方が適切だと考える。

 さらに「学習と成長の視点」の章では、保険会社の変革プロジェクトを例にとり、「チームで作成した事業計画の割合」(p187)をKPIとして挙げているが、事業計画自体は業務プロセスのアウトプットであるから、「社内ビジネス・プロセスの視点」に入れるべきだろう。仮に事業計画作成にあたり、何らかの部門横断的な研修を実施したとすれば、「学習と成長の視点」には、例えば「事業計画作成のトレーニング回数」を入れることができる。

 BSCにおけるKPIの妥当性や各KPIの因果関係を実感するためには、やはり自分の会社や部門を例にとって、実際に自分でBSC書いてみるのが一番だろう。

 ところで、BSCの「バランス」とは何のバランスなのか?これについてはいくつかのサイトを見てみると、多種多様な解釈が存在するようだ。キャプランとノートンは、同書の中で次のように述べられている。
 業績評価指標は、株主や顧客という外部的業績評価指標と、重要なビジネス・プロセスやイノベーション、さらに学習と成長といった内部的業績評価指標との「バランス」を表している。さらに、この業績評価指標は、過去の努力結果を表す成果の業績評価指標と、将来の業績向上を導く業績評価指標との「バランス」も表している。バランス・スコアカードは、客観的で定量化しやすい業績評価指標と、何らかの主観的な判断を要する業績評価指標とで「バランス」を保っている。
 たまに、「短期的な財務の視点と長期的な学習と成長のバランスをとる」といった趣旨の表現を見かけるが、これは正確な表現ではない。

 BSCの4つの視点は、「学習と成長によって従業員の行動やスキルが変われば業務プロセスが改善され、それによって顧客の満足度やブランド価値が高まり、結果として財務状態が上向く」という因果関係で結ばれている。よって、KPIの値が短期的に変化するのはむしろ「学習と成長の視点」や「社内ビジネス・プロセスの視点」であって、「顧客の視点」や「財務の視点」のKPIの値は、もっと長時間をかけて変化することになる。

 バランススコアカードの本来の目的は、「戦略の実現をサポートすること」にある。戦略はその本質からして、基本的には3年〜5年程度の将来を見据えて立案される。したがって、必然的に「財務の視点」に掲げる目標は中長期な実現を目指す目標になるし、「顧客の視点」でいうところの顧客は、将来の顧客にフォーカスを当てる必要がある。

 その上で、「その戦略を実現するために、今日からわが社の社員はどのような能力を身につけ、どのような業務を行う必要があるのか?」と問う。その答えが、「学習と成長の視点」や「社内ビジネス・プロセスの視点」のKPIとなって現れるのである。

 また、「短期と長期の財務目標のバランスをとる」という表現にも注意が必要だ。もっとも、キャプランとノートンは、この点を否定しているわけではない。次の記述がそうだ。
 財務的な視点により、短期的な利益を維持ないし確保できる一方で、バランス・スコアカードは、長期の財務的業績向上と競争優位を確保するためのバリュー・ドライバー(価値創造要因)を明らかにしてくれる。
 だが、私が思うに、もし仮に短期と長期の財務目標のバランスをとるならば、短期的な財務目標からブレイクダウンされるBSCと、長期的な財務目標から導かれるBSCの2種類を作った方がいいような気がする。前者には各年度の事業計画や過去の戦略に紐づいている戦術、後者には中長期の新しい戦略がバックボーンとして存在する。この2つを1つのBSCにまとめてしまうと、社員も経営陣も混乱してしまうに違いない。

 BSCは、コンセプト自体は非常に解りやすいがゆえに、簡単に使いこなせるように錯覚してしまうのだが、その本来の目的や4つの各視点の因果関係を見失ってはいけない。何よりも、自社の戦略に対する深い洞察が求められる。その点で、非常に奥深いツールである。

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