※2012年12月1日より新ブログに移行しました。よろしければこちらもご覧ください。
free to write WHATEVER I like
April 13, 2010

日本型雇用制度は半世紀持ったんだから十分だろ(補足)−『7割は課長にさえなれません』

拍手してくれたら嬉しいな⇒
城 繁幸
PHP研究所
2010-01-16
おすすめ平均:
社会全体の緩やかな下降
7割は課長にさえなれません
現状の日本型雇用システムの疲弊を抉る慧眼の書
posted by Amazon360

 昨日の記事の補足。城氏の考えには基本的に賛同しているものの、1箇所だけ気になる記述があったので言及しておこうと思う。
 企業が経済活動の結果として得た利益から、人件費などの経費や税金を払い、最終的に残った余剰金は基本的に株主のものである。ただし、企業を存続させるためには、一定の現金や設備投資が必要であり、すべてを配当にまわすわけではない。結果的に社内に残ったぶんを内部留保と呼ぶ。

 ただ、リスク覚悟で株主に出資してもらったお金を使って生み出した利益なのだから、だれのものかと言われれば、法的には株主のものであるのはまちがいない。銀行に預金して、「銀行員たちの人件費を維持するために、利息をカットしました」とあとから言われたら、ふつうの人は怒るだろう。というわけで、内部留保で雇用を守れというのは、そもそも論理的に矛盾している。
 以前、私は「乱気流時代の人材マネジメントの5つのポイント」という記事で、次のようなことを書いた。
 こんなことを言うと非現実的だと怒られるかもしれないが、(好況期には過度の採用を控えて生産性向上に努め、)生産性向上によって増加した利益を退職金の積み立てに使う代わりに、不況期の雇用保障のために積み立てておく方法が必要になるかもしれない。

 不況期においても、上記で積み立てた貯金をうまく使いながら、可能な限り雇用の維持に努め、リストラを最小限にとどめる。株主を喜ばせるためにリストラを行っても、長期的にはプラスになるどころかむしろマイナスになることが多いことは過去の事例が示している。
 私と城氏の見解の違いは、人材が重要な経営資源とみなされていながら、会計上ではコストとして計上され、貸借対照表の資産の部には登場しないことが関係している。

 「人、モノ、カネ、情報、知識」の5つが経営資源の5大要素だと私は思っているのだが、このうち貸借対照表に全く現れないのが人である(なお、情報についても、ソフトウェアへの投資額が資産として計上されているだけで、情報そのもの価値が記載されているわけではない。また、知識に関しても、特許権や商標権といった権利として特定できるものに限定されている)。無形資産が経営に占める重要性を否定する人は今や少数派だと思うが、財務会計システムだけは工業時代にできた古臭い制度を未だに使っているのである。言うまでもなく、現在のビジネスモデルは工業時代のものとは大きく異なる。

 バランス・スコアカードを開発したキャプラン&ノートンも次のように述べ、新しい財務会計システムの必要性を唱えている。
 財務会計モデルは、理想的には、例えば、高品質な製品やサービス、やる気のある熟練した従業員、優れた顧客対応と予測可能な社内ビジネスプロセスおよびロイヤリティーで満足度に満ちた顧客のように、企業の無形資産や知的財産の評価を組み込んだ財務会計モデルに拡大・発展させるべきである。
(キャプラン&ノートン著『バランススコアカード−新しい経営指標による企業変革』)

ロバート・S. キャプラン
生産性出版
1997-12
おすすめ平均:
翻訳のひどさ、どうにかならないものか。
中身はいいのだが
BSCの古典です
posted by Amazon360

 無形資産をどのように貸借対照表に載せるべきかをめぐっては、現在様々な研究が行われている。無形資産の範囲をどこまで広げるのか(人、情報、知識にとどまらず、キャプラン&ノートンが言うような顧客といった視点、あるいはブランド資産といったものも入れるべきなのか)、そしてそれらをどのように金額換算して計上するのかは、まだコンセンサスが取れていない。

 人件費に関して一番手っ取り早い方法は、損益計算書から人件費をすべて控除して、貸借対照表の資産の部に「人的資産」という項目を作ることであろう。人件費がコスト扱いされない分だけ企業の利益は増加するが、増加した内部留保は貸借対照表上で「人的資産」に投資されている、という構図になる。まぁ、そう単純なものではないから研究者の好奇心を駆り立てるのだけれども…。ただ、人材がコストではなく、資産として計上される日はいつか来るに違いない。

 前置きが長くなったが、人材が貸借対照表に計上されれば、それは立派な「投資対象」となり、内部留保を振り向ける十分な正当性がある。だから、私が書いたように、内部留保から雇用保障(この言葉を使うからややこしくなるのかも。「人材への投資」と言い換えた方が適切かな?)のための積立を行うのは、決して論理矛盾ではないと思うのである。

おススメの書籍

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:

コメントする