※2012年12月1日より新ブログに移行しました。
>>>現行ブログ free to write WHATEVER I like
⇒2019年にさらにWordpressに移行しました。
>>>現行HP シャイン経営研究所(中小企業診断士・谷藤友彦)
⇒2021年からInstagramを開始。ほぼ同じ内容を新ブログに掲載しています。
>>>Instagram @tomohikoyato
   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
March 20, 2010

評価制度を間違えると社員の行動はおかしな方向へ導かれる

拍手してくれたら嬉しいな⇒
posted by Amazon360

 DHBR2010年4月号に収録されていたアンドリュー・リキアーマン卿の「業績評価制度の罠」という論文を読んで、業績評価制度について少し考えてみた。個人的に、業績評価制度はすごーく地味な制度である割に、社員には非常に大きな影響を与えるものだという印象を持っている。制度設計を間違えると、社員の行動を悪い方向へと導いてしまう。

 これはあるコールセンターの方から聞いた話だが、コールセンターは基本的にQ&A対応が中心のコストセンターとして見なされるため、収益性を高めることが至上命題となる。そこで、あるチームは「1コールあたりの所要時間(の削減)」を、別のチームは「顧客1人あたりのコール回数(の削減)」を評価指標にしたという。ここでクイズ。収益性が高まったのはどちらのチームだろうか?

 前者のチームは、とにかく早く対応を終わらせて電話を切ろうと皆が必死になるのだが、顧客は自分の問題が解決しないため、何度も何度も電話をかけてきてしまう。1コールあたりの時間は短くなっても、コール回数がその効果を打ち消すほどに増えてしまい、収益をむしろ圧迫する結果となった。

 一方、後者のチームは、極端な言い方をすれば顧客が同じような問合せを二度としてこないように、ファーストコールで懇切丁寧に説明することを心がけた。1回目の対応時間は長くなったものの、2回以上電話をかけてくる顧客が大幅に減ったために、総合的には収益が改善されたという。両チームが掲げた評価指標の違いは微妙なものだが、それだけでも社員の行動、ひいては部門の業績にに与える影響が全く異なることを示す好例である。

 ところで、DHBR2010年4月号の特集は「イノベーション」であるため、イノベーションと業績評価との関係で一言付け加えておくと、イノベーションを担う部門の業績評価およびそれに基づく人事評価の制度は、既存事業部門のそれとは別物にするべきである、という見解が一般的である(ピーター・ドラッカーをはじめ、ロザベス・モス・カンター、クレイトン・クリステンセンら多くの経営学者が主張している)。

 イノベーションが事業として軌道に乗るまでには時間がかかる。よって、イノベーション担当部門の業績を既存事業と同じ指標、つまり売上や利益、あるいは製品販売数や市場シェアなどで評価すると不利になりやすい。すると、マイナス評価をされたくないがために、優秀な人材がイノベーション担当部門の業務を避けるようになる。誤った業績評価制度は、イノベーションの芽を摘み、企業の将来性を潰してしまうことすらあるのだ。

 イノベーション担当部門の場合は、最初からあまり財務的な指標を強調せず、市場の啓蒙活動を評価する指標を設定することが有益であると考える。例えば新製品・サービスの認知度、アーリーアダプター(早期採用者:新製品・サービスを初期の段階で購入してくれた顧客)の顧客満足度などを指標にする。あるいは、当初の事業計画の進捗度合いといったプロセス的な指標も考えられる。いずれにせよ、既存事業と異なる指標によって評価することで、社員が安心して新しい試みにチャレンジできるよう、工夫を凝らすことが求められる。
トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:

コメントする