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February 18, 2010

何でもコラボすりゃいいってもんじゃないんだよ(後半)−『信頼学(DHBR2009年9月号)』

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 前回の続き。

チームワークの嘘(J・リチャード・ハックマン)
 これもまた心理学の知見に基づいて、巷にはびこる「チームワーク優位説」、「コラボレーション万能説」に異を唱える興味深い論文だった。一般的には、チームのメンバーが固定化すると馴れ合いが生じて生産性が低下するため、新しいメンバーを入れて新陳代謝を促した方がよいと考えられているが、これに対して次の調査を持ち出し、「同じメンバーで臨んだ方が真のチームワークが築かれる」と反論している。
 アメリカ国家運輸安全委員会(NTSB:National Transportation Safety Board)の調査によれば、NTSBのデータベースに登録されている飛行機事故の73%が、乗務員たちが初顔合わせした日に発生しているそうです。すなわち、彼ら彼女らは、経験を通じて最高のチームワークを学ぼうにも、まだその機会がなかったのです。
 航空会社は人員の稼働率を重視するため、パイロットや乗務員の空き状況と今後のフライト予定をアルゴリズムにかけて、稼働率が高くなるようなチーム編成を決定する。それがかえって事故につながる原因となっていると著者は指摘している。あまりに頻繁にチームメンバーを入れ替えると、チームの安定性が低下し、むしろ信頼関係を損ねることにつながるというのだ。

 ただし、著者は完全にチームメンバーを固定することを勧めているわけではない。あるR&Dチームに関する研究では、創造性と新しい視点を失わないために、新しい人材を投入することが有効であることが示されている。だが、その投入ペースは3〜4年ごとに1人という緩やかなペースであると述べている。

 とはいえ、チームメンバーを固定化するとメンバーの考え方が同質化し、創造的なアイデアが生まれにくくなることも確かであると思う。チームメンバーをできるだけ変えずに、かつ新しい視点をチーム内に持ち込む方法を考える必要がありそうだ。

コラボレーションの損得勘定(モルテン・T・ハンセン)
 新規事業や事業変革など大きなプロジェクトを立ち上げる時、各部門から人員を集めてチームを結成することが多い。これは関係各部門によるコラボレーションを期待してのことだが、本当にそうしたコラボレーションがペイするのかどうか、事前にきちんと検証しなければならないと著者は警告している。そして、コラボレーションの価値を測定する方法として「コラボレーション・プレミアム」という方法を紹介している。
コラボレーション・プレミアム=
   「予想リターン」(そのプロジェクトからもたらされるであろうキャッシュフロー)
  −「機会コスト」(とりわけコラボレーションする必要のなかった場合に
    利用できたはずの時間、労力、また資源をコラボレーションに
    費やした結果、失われたキャッシュフロー)
  −「コラボレーション・コスト」(事業部、職能部門、営業所、海外子会社、
    製造拠点など垣根を超えた組織横断的なコラボレーション固有の
    障害ゆえに生じる損失)
 組織横断的で大掛かりなプロジェクトは華々しく映るため、どうしても「予想リターン」を過大評価し、2つのコストを軽視してしまう。たいていの場合、プロジェクトメンバーには各部門のエース級社員が投入される。そうすると、その間各部門の成果は一時的に低下する。これが「機会コスト」である。

 また、異なる部門が協業してプロジェクトを進める時には、各部門に対して通常業務外の調査やインタビューで協力を仰いだり、現場の意見を吸い上げるための説明会や対話の場を設けたりして現場社員の参加を求めることがある。さらには、イレギュラーな申請処理や稟議処理が発生することもある。それらに費やされるプロジェクト外部の部門のコストが「コラボレーション・コスト」にあたる。

 もちろん、このコストを正確に見積もることは実際には不可能に近いと思うのだが、そういうコストがあるということを認識することが大切である。コンサルティングのプロジェクトをやっていると、そのプロジェクト自体から生まれるキャッシュからコンサルティングフィーを引いたものがコンサルティングのROIと捉えられているように感じることがある。だが、実際にはクライアント企業の各部門からもメンバーが参加している。彼らに関わるコストも考慮したうえで、コンサルティングの成果を図る必要があると感じる今日この頃である。

風通しのよい組織をつくる(ジェームズ・オトゥール、ウォーレン・G・ベニス)
 これまでの行き過ぎた株主重視経営に対して、これからの企業経営においては、長期、持続性、信頼、倫理などがキーワードになる。きれいごとのように聞こえるが、今求められているのは「透明性」の高い組織である、と著者は主張している。特に、反対意見を奨励し、問題やミスが隠蔽されることなく上層部に行き渡る組織を設計することが重要であると述べている。

 情報が組織内を自由に流通する組織を作るためには、まずは「マネジャークラスが部下の意見にきちんと耳を傾ける」ことが必要だと思う。三隈二不二のPM理論で言えば間違いなく「pM型(調整に長けたリーダー)」に当てはまる故竹下登元首相は、とにかく人の話を最後まで聞くことを心がけていたらしい。たとえ自分がすでに知っているようなことでも、実りの少ない長話でも最後までちゃんと聞く。

 もし相手に対して、「その話はもう知っているよ」とか、「今忙しいから後にしてくれないか」と言ってしまうと、相手は気後れして自分に話を持ちかけてこなくなる。そうすると、重要な情報が自分の耳に入らなくなる。これは国家レベルの意思決定を下す首相にとっては致命的だ。だから、どんな話でも最後まで聞くようにしていたのだという。人心掌握に長けた竹下登の一面を表すエピソードである。

ビジネススクールの責任(ジョエル・M・ポドルニー)
 ビジネススクール批判の論文だが、なぜこれが「信頼学」という特集の中に入っているのかというと、エール・スクール・オブ・マネジメントの学長を務めた著者が、
 私が怒っているのは、ビジネススクールが、倫理と価値観に基づくリーダーシップを軽視していることについてである。それは、現在の金融危機が教えてくれたわけではなく、7年以上も前に、エンロンやワールドドットコムのスキャンダルが明らかにしたことである。
という問題を提起しているからである。

 著者は、MBAのプログラムが本当の意味での倫理や価値観を全く教えていないことに怒っており、現在のリーダーシップ教育で教えられている倫理観にも欠陥があると述べている。さらに批判は、ビジネススクールのランキングに対してまで及び、現在のランキングの仕組みは純粋な実力を反映していないと、実に辛らつな言葉を並べ立てている。

 今までのビジネススクール批判は「左脳型思考重視、右脳型思考軽視」を取り上げるものが多かったが、この論文はもっと根深い問題に切り込もうとしている。そして、MBAホルダーの行動規範をきちんと定義し、それに反する者の学位剥奪も辞さない姿勢が大事だという大胆な提案まで行っている。

 元ビジネススクールの学長がビジネススクールを批判しているというだけで大変興味深く読めるのだが、「そもそも『経営』とは何か?」、「経営のプロフェッショナルを育成するためのビジネススクールの役割とは何か?」という非常に根源的な問いを投げかけている奥深い論文であると思った。

 (ちなみに、以前の「プロフェッショナルとは「辞めさせる仕組みがある仕事」」という記事は、この論文の内容を少し参考にして書いている。)
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