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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
February 08, 2010

乱気流時代の人材マネジメントの5つのポイント

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 終身雇用制は日本企業の成長を支える原動力とも言われたが、それは安定かつ継続的に企業の成長が見込めることが前提での話である。ここ20年でその前提は完全に崩れた。わずか20年の間に、バブル崩壊、アジア通貨危機、ネットバブル崩壊、リーマンショック、ドバイショックなど立て続けに経済危機が起こり、そのたびに企業の経営は乱高下を繰り返している。過去の安定的な経済ではなく、乱気流の経済を生き抜く企業の人材マネジメントはどうあるべきなのか?まだ論理的に整理できているとは言えないメモ書き程度の文章だが、5点ほど個人的な考えを述べてみたいと思う。

(1)軽はずみに「わが社は人を大切にする会社」と言わない
 ここ数年、人材育成を喫緊の経営課題に挙げる企業が増えていることが日本能率協会の調査で明らかになっている。また、日本企業は「わが社は人材を大切にする会社である」と社内外にアピールする傾向が強い印象がある(わざわざ「人材」ではなく、「人財」という字を当てるぐらいだ)。しかし、そういう会社がいざ経営難に陥って教育予算の削減やリストラを行うと、社員は期待を裏切られたような気持ちになり、退職する人も会社に残る人も心に深い傷を負う。

 こんなことを言うと頼りない話だと思われるかもしれないが、よほど自信がない限り、「人材を大切にする会社」と謳わない方が、むしろ社員の信頼感を獲得できるのかもしれない。もちろん、言わないから社員を大切にしなくてもよいというわけでは決してない。だが、不確実な約束ならいっそしない方が安全のように思える。
 歴史的に人を大切にする企業として浮かんでくるのは、リーバイ・ストラウスとヒューレット・パッカード(HP)だが、このような企業でも、社員のレイオフを余儀なくされると、過剰な反応が見られた。

 その一方、これまで社員をコストと見なし(※)、経営が苦しくなると、真っ先に余剰人員の首を切ってきた企業では、ほとんど同様が見られなかった。要するに、そのような企業で働く社員はレイオフされることを覚悟しているのだ。

 2006年、サイモン・フレーザー大学経営大学院准教授のクリストファー・D・ザトジックとロデリック・アイバーソンが、カナダ国内の3080ヵ所の職場を対象に調査を実施した。

 その結果、レイオフが生産性に最も大きな悪影響を及ぼしたのは、「社員参加型」の組織、すなわち、従来型の職場よりも社員の責任や医師決定権限が大きく、社員を大切にすることを重視している職場であることがわかった。
(ロバート・I・サットン「不況期の上司の心得」)
(※なお、私自身は社員をコストと見なすのには、後述の通り反対である。)

ダイヤモンド社
2009-07-10
おすすめ平均:
右脳型経営、グラニュラーマネジメント。参考になった
posted by Amazon360

(2)好況期には過剰な採用をせず、生産性の向上に務める
 乱気流の時代には好況期と不況期が不規則に短期スパンで訪れる。好況期に入ると、その状況が長く続くような錯覚を覚え、つい人員をたくさん採用したくなる。昔はそれでよかったのかもしれない。若くて安い労働力を豊富に持っていることは、高度経済成長期おいては確かに日本企業の強みであった。

 しかし、今は好況期になったからといって即採用拡大へと走らない方がよい気がする。そうではなく、あまり人数を増やさずに、一人あたりの生産性を上げる方法を考える。むやみやたらに売上拡大を目指すのではなく、人件費の急激な増加を抑えつつ利益率の向上を目指す方が賢明だと思う。こんなことを言うと非現実的だと怒られるかもしれないが、生産性向上によって増加した利益を退職金の積み立てに使う代わりに、不況期の雇用保障のために積み立てておく方法が必要になるかもしれない。

(3)不況期のリストラを最小限にとどめる
 不況期においても、(2)で積み立てた貯金をうまく使いながら、可能な限り雇用の維持に努め、リストラを最小限にとどめる。株主を喜ばせるためにリストラを行っても、長期的にはプラスになるどころかむしろマイナスになることが多いことは過去の事例が示している。

 人材は単なるコストではなく資本である。しかも、企業の知的資本(intellectual capital)や社会資本(social capital)と密接につながった貴重な資本である。これらの資本をないがしろにすると、組織に計り知れないダメージを与える。

 好不況の影響を受けやすいビジネスにも関わらず、あまり人員整理をしない業界がある。それは工作機械業界である。この業界は製造業の設備投資の傾向に左右されるため、好況期には一気に需要が増えるものの、不況になると一転して恐ろしい割合で受注が減少する。実際、リーマンショック以降の工作機械の受注高の落ち込み方はひどかった。

 それでも、工作機械業界はあまり人員整理をしない。それは、工作機械の設計・製造技術が社員同士の擦り合わせに依存する高度なものであり、簡単にリストラをすると貴重なナレッジが失われるからである。そのため、多くの工作機械メーカーは、好況期の利益をできるだけ内部留保に回し、不況期の受注減に備えるようにしている。(とはいえ、今回ばかりは大手の森精機製作所でも400人程度の早期退職募集を余儀なくされたようだが・・・)

 また、もしリストラを実行するとしても、一発でリストラが完了するようにしなければならない。1回あたりのリストラの規模が小さくとも、何度もリストラが続くようだと、社員は必要以上に不安感を抱くものだ。

(4)不況期でも新卒採用は止めない
 好況期になると一斉に採用拡大に走るのとは逆に、不況期になると一斉に採用を縮小する動きが見られる。実際、リーマンショック以降は多くの企業が新卒採用を控える傾向にある。

 だが、ここでバブル世代の教訓を思い出さなければならない。現在の40代前半から中盤の社員は、バブルの頃に入社したバブル世代である。しかし、その後バブル崩壊によって新卒採用を一気に絞った結果、30代中盤から後半の社員が異常に少ないといういびつな年齢構造になっている企業が多い。その結果、バブル世代の下には長い間部下がつかないまま、年齢だけは管理職の年齢に達してしまい、不慣れなマネジメントを強いられているケースが発生している。

 どんなに年功序列が崩れて年齢は関係ない組織構造になったとしても、やはりある程度年齢のバランスが取れた形にすることが望ましい。これがバブル世代の教訓であった。リーマンショック以降、新卒採用を絞る企業は増えたが、バブル世代の教訓を活かして、一定の新卒採用を行う意思を表明している企業も決して少なくない(その点、日産は新卒採用を急激に減らしたため、彼らが管理職になる15年後あたりがやや心配ではあるのだが・・・)。

(5)異なる職種の業務内容を理解するトレーニングに投資する
 不況期になると各事業や組織の統廃合によって配置転換が増える。また、不況期には各部門の力を結集して打開策を検討する必要がある。その際に、自分の職務内容しか知らないという偏狭な視点では、苦境を打破できない。

 かつての日本企業ではゼネラリストの育成が重視され、頻繁なジョブローテーションや、自分の業務とは関係ない職種の研修への参加が積極的に行われていたという。しかし、今はどちらかというとスペシャリスト志向の方が強く、一つの専門分野を極めることの方が優先されているようにも思える。もちろん、どこかの分野に精通していることは非常に大切ではあるものの、それだけでは十分とはいえない。

 「T字型人間」とか「π(パイ)字型人間」という言葉が表すように、確固たる軸足は持ちつつも、視野を広く持ち、他の専門分野に対する理解ができる人材がますます求められる。なぜならば、現状を打ち破るブレイクスルーは、しばしば異分野との融合によってもたらされるからだ。企業はそうした人材を育成するトレーニングにどんどん投資するべきだと考える。
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