※2012年12月1日より新ブログに移行しました。よろしければこちらもご覧ください。
free to write WHATEVER I like
February 07, 2010

リーダーが帰納的に課題を設定するとはどういうことか?

拍手してくれたら嬉しいな⇒
 「マネジメントとリーダーシップの違いを自分なりにまとめてみた」という記事の中で、マネジャーは取り組むべき課題を演繹的に設定するのに対し、リーダーは帰納的に課題を設定すると述べた。マネジャーは自分が属する組織がすでに持っている目的や目標を出発点とし、世間的に既知とされている手法や、組織で定められたフォーマルなルールに従って課題を詳細化していく。これが「演繹的」の意味するところである。

 では、リーダーが帰納的に課題を設定するとは、具体的にはどういうことなのか?それは、リーダーが現実の世界を直にじっくりと観察し、五感を通じて入ってくるありとあらゆる情報の中から一定のパターンを発見することであると言える。新たな課題は、現実世界の中からボトムアップ的に発見される。そして、往々にして、従来の原則やルールにそぐわない課題が設定される。

 インドのタタ・グループが20万円台の超格安自動車を引っさげて自動車業界に参入したことが話題になったが、タタ・グループはなぜこうした新しいビジネスに挑戦しようと思ったのか?DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2009年4月号にその経緯が次のように記載されていた。
 雨の日にインドのムンバイの路上に立っている自分を想像してほしい。いくつものスクーターが自動車と自動車のすき間を縫いながら、危なっかしく蛇行していることに気づくだろう。

 よく見れば、ほとんどのスクーターが、家族全員−両親と子供たち何人か−を乗せている。普通なら、「何て危ない」とか、「開発途上国では当たり前だ。あるもので済ませるしかないのだから」と思うのではないか。

 タタ・グループを率いるラタン・タタはこの光景を目にして、これこそ、解決されるべきジョブであると確信した。すなわち、スクーター家族に、より安全な乗り物を提供するのである。

 インドでいちばん安い自動車でも、スクーターの最低5倍の価格はする。したがって、大半の世帯にとって自動車は高嶺の花であることは、彼にもわかっていた。経済的に手が届き、安全かつ全天候型の乗り物は、(中略)自動車購買層に達していない数千万世帯を開拓できる可能性があった。
(マーク・W・ジョンソン、クレイトン・M・クリステンセン他「ビジネスモデル・イノベーションの原則」)

posted by Amazon360

 もし演繹的に自動車産業への参入を検討していたならば、先進国の自動車産業の歴史を紐解き、消費者の所得増に従って自動車の販売台数が増えるという一般的な傾向をまず初めに頭に思い浮かべただろう。ラタン・タタがこの原則に忠実であったならば、少なくとも自動車業界への参入はもっと先延ばしにされたであろうし、何よりも20万円の超格安自動車という発想は絶対に生まれなかったに違いない。なぜならば、インド国民の大半の所得は、自動車を購入できる水準に達していなかったからである。

 しかし、ラタン・タタはあくまでもムンバイの現実と向き合っていた。道路を行き交う数多くの家族スクーターを実際に見ながら、「彼らが安全に運転でき、かつリーズナブルな価格で手に入れることができる乗り物はないだろうか?」と考えた結果、「超低価格の自動車を自ら製造・販売すればよい」という結論に達したのである。これこそ、リーダーが帰納的に課題を設定した典型的な例と言えるだろう。

 とはいえ、リーダーが新たに設定した課題を実際に実現しようとすると、前述したように従来の慣習やルールに反する部分が出てくる。実際、20万円台の自動車などというのは常識外れの発想であり、アメリカや日本の自動車メーカーと同じ事業モデルでは絶対に成しえないことである。

 そこで必要なのが、経営資源の「新結合」である。経営資源の投入方法や組合せを変えることで、課題を達成する。これがリーダーの第2の仕事となる。マネジャーが課題の実現のために経営資源を「配分」するのとは対照的である。
 タタ・モーターズが、<ナノ>におけるCVP(Customer Value Proposition)と利益方程式の要件を満たすためには、設計や製造、流通のあり方を一から見直さなければならなかった。そこで、若手エンジニアを集めた小規模チームを組織した。

 (中略)このチームは、部品数を劇的に減らし、莫大なコスト削減を実現した。また、サプライヤー戦略を見直し、<ナノ>用のコンポーネントの85%を外注し、ベンダーの数を6割近く減らすことで、取引コストを削減し、規模の経済を働かせた。

 製造ラインのもう一方では、まったく新しい手法で自動車を組み立て、流通させることが考えられていた。それは、モジュール化したコンポーネントを自社工場と外部工場のネットワークに流し、そこでBTO(受注製造)するという究極の計画であった。
 タタ・モーターズは、従来の自動車業界の経営資源の使い方とは全く異なる方法を追求し、<ナノ>の製造・販売を実現させたのである。まさに、シュンペーターがいう「新結合」という言葉がよく似合う事例だと思う。

おススメの書籍

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:

コメントする