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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
January 28, 2010

シナジーは「足し算」ではなく「掛け算」で考える

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 最近は「コラボレーション」などという言葉が流行りのようで、何かと社内外の様々な人を巻き込んでチームを結成し、新しい取り組みを始めようとする動きが多いようだ。ちょうどロザベス・モス・カンターの論文を読んでいたら、「これからのリーダーにとっては、コラボレーションを推奨することが大事な仕事になる」といった内容のことが書かれていた(※)。

 確かに、「三人寄れば文殊の知恵」ということわざもある通り、それぞれのメンバーがうまく噛み合えば、チームはシナジーを発揮して目覚しい成果を上げる。だが、誰でも彼でもいいからとにかく組み合わせればシナジーが生まれるかというと、そんなのは幻想である。

 シナジーはよく「1+1以上の効果を生むことだ」などと言うが、和訳の「相乗効果」という言葉が表すように、「足し算」ではなく、「掛け算」出考えるべきだと思う。

 コラボレーションによるシナジーには2種類ある。1つはスキル不足を補い合う「補完関係」である。製造業の工場では、熟練者と若手がチームを組んで、熟練者のスキルを若手に伝承し、品質のばらつきを抑えるといった活動がしばしば行われる。また、プログラミングの世界では「ペアプログラミング」というのがあって、2人で1台のパソコンを使い、一方が単体テストを打ち込んでいるときに、もう一方がそのテストを通るクラスについて考えるといったように相補的な作業をすることで、プログラミングの生産性を上げる手法があるそうだ。

 こうした補完関係におけるシナジーは、感覚的に数式で表すならば、「1.3×0.8=1.04」といった具合になるだろう。熟達者が非熟達者の弱みを補うことで、個々人のパフォーマンスが平準化されるイメージだ。

 この数式によって明らかになるのは、スキル不足の者同士がコラボレーションしても、かえってパフォーマンスは悪化するだけということである。例えば、0.8の人間同士が集まって共同作業しても、余計に成果が下がってしまう(0.8×0.8=0.64)。こんなのは当たり前ではないかと思われるかもしれないが、意外とはまる落とし穴である。

 スケジュール管理が苦手なAさんがいて、その人のタスクが遅延しているとしよう。それを見かねたBさんが、よかれと思ってその社員を手伝ったとしても、Bさんも同じようにスケジュール管理が苦手だとすると、スケジュールはめちゃくちゃになる。私はそんな現場を何回か見たことがある。補完関係のコラボレーションにおいては、誰が何のスキルを補う関係なのかを明確にしないと、チームの生産性を下げるだけである。

 もう1つのシナジーは、お互いの強みを活かし、新しいものを生み出す「創造的関係」である。新規事業を立ち上げるために、各部門のエースを集めてタスクフォースを結成するといったケースは、まさに創造的関係である。また、ハリウッドの世界ではプロデューサー、脚本家、監督、演出家、俳優などの精鋭たちが切磋琢磨することによって映画を作り出している。

 創造的関係におけるシナジーを同じように数式で表すならば、「1.3×1.3=1.69」といった感じになる。こうして、1人では成しえなかった全く新しいものが生まれる。

 この数式から見える創造的関係の注意点は、メンバーがどんなに優れた強みを持っていても、共通の目的・目標に向かって足並みが揃っていなければ、多大な損害を生み出す、ということである。数式にすると、「1.3×(-1.3)=-1.69」になってしまう。全く違う方向を向いている人間が混じっていると、優れた人材が集まっても成果を上げるのは難しい。さらに悪いことに、違う方向に突っ走る人間の才能が優れていればいるほど、マイナスの値は大きくなってしまう。

 あるベンチャー企業から聞いた話を紹介したい。この会社では新規事業の立ち上げを検討していた。しかし、当時は社員数が少なかったこともあり、外部のパートナーを多数活用することにした。チームメンバーには、社員であるコンサルティング経験者に加え、外部からは事業会社で事業再生に携わったことがある人間、投資銀行で事業投資をしていた人間、新規事業のコア商品となる分野に精通した人間などが入っていた。顔ぶれだけを見れば錚々たる面子である。

 にもかかわらず、それぞれのメンバーの思惑が異なり、どういう方向性で新規事業の開発を進めていくのかという基本的な方針さえ全く定まらい状態であった。しばらくするうちに外部のパートナーが1人消え、2人消え・・・といった感じで、結局のところ新規事業の計画は頓挫したという。

 優秀な人間が集まれば創造的な成果が生まれるというのは間違いである。優秀であるがゆえに、みな自分の中に信念や譲れない部分を持っている。それらが衝突すると、チーム内に軋轢が生じ、チームは崩壊する。譲れない部分を曲げろとは言わないが、少なくともチームの目的や方向性について合意できない限り、創造的な結果は生まれないものである。

(※)ロザベス・モス・カンター「ドラッカーに学ぶべきこと」(『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2009年12月号)
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