※2012年12月1日より新ブログに移行しました。
>>>現行ブログ free to write WHATEVER I like
⇒2019年にさらにWordpressに移行しました。
>>>現行HP シャイン経営研究所(中小企業診断士・谷藤友彦)
⇒2021年からInstagramを開始。ほぼ同じ内容を新ブログに掲載しています。
>>>Instagram @tomohikoyato
   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
January 21, 2010

発想を広げるプロセス改革の視点(1):問題だと思ったことは本当に「問題」か?

拍手してくれたら嬉しいな⇒
 マイケル・ハマーらが1990年代に提唱したBPR(Business Process Reengineering)の概念は一気に広まり、アメリカ中の企業でBPRブームが巻き起こった。生産性を重視するアメリカ企業は、こぞってBPRの手法に飛びついた。だが、このBPRブームはハマーの当初の狙いから逸れていくことになる。

 それは、生産性向上という大義名分の下に、大規模なリストラを敢行し、コスト削減に走る企業が増えたことである。短期的には生産性が向上し、株価も上昇したものの、長期的には組織力が落ち、収益を悪化させる企業が出てきた。こうしてBPRの問題があちこちで指摘されるようになり、マイケル・ハマーも批判の対象となってしまったのである(過去の記事「マイケル・ハマーの誤算」を参照)。事実、マネジメント思想に影響を与えた世界中の学者や企業家を選出する「Thinkers 50」というランキングを見ると、2001年のランキングにはBPRをともに提唱したジェームズ・チャンピーと一緒にランクインしているが、2003年以降はランキングから外れてしまっている。

マイケル ハマー
日本経済新聞社
2002-11
おすすめ平均:
リエンジニアリングの原典
ビジネス・プロセスの全体最適化に関する古典的名著
業務改革の教科書
posted by Amazon360

 だが、BPR、つまり業務改革の重要性は決してなくなることはない。いや、むしろ、ますます重要になっていくと私は思う。なぜならば、ビジネス環境が日々変化する中で、企業は頻繁に戦略やビジョンを見直していかなければならず、そのたびに戦略やビジョンを実現するための業務プロセスを再構築する必要があるからだ。かつては一度立てた戦略やビジョンが5年〜10年持つと言われたが、金融危機のような経済構造をひっくり返すような出来事が起こり、新興国企業の進出などが進む現代では、もっと短いスパンで戦略の見直しが迫られる。

 ドラッカーはよく「体系的廃棄」という言葉を使って、定期的に事業の内容を点検し、不要な業務プロセスを捨て、新しく始めるべき業務を規定することを勧めていたが、いよいよこの言葉が重みを持つようになってきている。

 もちろん、改革を強調することによって改善を軽視しているわけではない。以前、「たゆまぬ改善があってこそ改革は成功する」という記事で書いた通り、両者は補完関係にある。ただ、日々の細かい改善だけではどうしようもない構造的な変化を必要とする時、我々は改革の手法を採用しなければならないのである。今回から「発想を広げるプロセス改革の視点」と題して、3回に渡って業務改革のポイントを書いてみたいと思う。

 皆さんもきっと経験があると思うが、日々業務を行いつつ、たまに一歩引いて他人の業務を含め全体を眺めてみると、いろんな問題に気づくことだろう。改善の場合は、こうした問題を一つ一つしらみ潰しのように解決していけばよい。だが、組織全体、ひいては事業全体の業務プロセスを変えるような規模の大きい改革の場合、細かい問題を潰しているだけでは不十分である。

 そもそも、「問題」とは何なのだろうか?野村前楽天監督は含蓄のある「ボヤキ」で知られたが、インタビューで「なぜいつも監督はボヤくのですか?」と聞かれた時にこんな答えをしたのをテレビで見た。「私の中には理想があって、現実との差が見える。その差をボヤいているんだ」−つまり、「問題」=「あるべき姿(理想)」−「現状」と定義できる。

 ということは、「あるべき姿」を定義しないことには「問題」は見えてこない。日常業務の細かい改善の場合、我々の頭の中には、意識しているかしていないかは別として、ある程度の「あるべき姿」が存在している。例えば、読みやすいパワーポイントの資料とはこうあるべきだとか、お客様を説得させるための交渉はこう進めるべきだとか、効率的な会議とはこう運営すべきだ、といった具合である。

 しかし、組織全体、ひいては事業全体の業務プロセスとなると、ぐっと視点が広くなる。「あるべき業務の姿とは何か?」という問いは急にその難易度を増すのである。

 ある中堅のサービス企業の例だが、この企業は全国にたくさんの支店を構えていた。この企業で社員が当初問題だと思っていたのは、「本社からいろんな方針が五月雨のように支店に降ってくるが、支店の営業は本社からの情報が多すぎて十分に吸収できず、自分たちが売りたい商品を好きなように売っている」という点であった。もっと端的に言えば、「支店に対する本社からの方針伝達が非効率」ということである。

 ここだけを見れば、グループウェアか何かを導入して、情報流通の効率化を図れば問題が解決するのではないかと思われるだろう。実際、この企業の社員もそう考えていたそうだ。

 ところが、もっと根本に立ち返って、「そもそも本社と支店の関係のあるべき姿とは何なのか?」という問いを立てた時、議論は違った展開を見せた。この企業は中堅ではあったが、大手に引けを取らない差別化された商品をいくつか持っていた。一方で、他社とそれほど変わらないサービス内容で、競争が激しい商品群と、収益性が悪く、撤退も視野に入れた商品群があった。

 そこで、大胆にも支店を3種類の商品群に合わせて再編成することを決めた。つまり、差別化された商品を扱う支店(タイプA)と、通常の商品を扱う支店(タイプB)と、撤退の余地もある商品を扱う支店(タイプC)の3種類である。そして、本社側の支店支援体制も変更し、タイプA〜Cの支店群それぞれに対応する支援チームを編成した。タイプAの支店群を支援するチームは重点的に施策を企画し、タイプCの支店群を支援するチームはできるだけ手間をかけずに施策を企画するとともに、商品の撤退の見極めを行うことになった。

 あるべき姿をこのように考えると、当初この企業が考えていた「支店に対する本社からの方針伝達が非効率」という問題は、自然と消滅することになる。問題だと思ったことが必ずしも問題であるとは限らないのだ。この組織改変を行った後の本社、支店それぞれにおけるあるべき業務プロセスをさらに具体化していき、それと現状業務のギャップを調べることで、本当の「問題」が見えてくる。

 発想を広げるプロセス改革の第一のポイントは、問題だと感じたことが本当に「問題」なのか?と一度立ち止まって問い正すこと、そして、まず「あるべき姿」を明確にし、それと現状のギャップを問題とすることである。
トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:

コメントする