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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
January 11, 2010

「金になる顧客」と「金を連れてくる顧客」

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 「『金になる顧客』と『知恵になる顧客』」という記事では、単純に顧客ごとの取引額だけで顧客のランクづけを行うことに警鐘を鳴らし、顧客の重要度を測るもう1つの尺度として「その顧客が自社にもたらす知恵(ナレッジやノウハウ)の大きさ」を指摘した。今回は、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2008年11月号の論文から、「顧客『紹介』価値」という別のものさしを提唱している論文を紹介したいと思う。

posted by Amazon360

 V・クマー、J・アンドリュー・ピーターソン、ロバート・P・レオーネ「顧客『紹介』価値のマーケティング」という論文では、「顧客生涯価値(CLV:Customer Lifetime Value)」と「顧客『紹介』価値(CRV:Customer Referral Value)」の2軸で自社の顧客ポートフォリオを管理することを提案している。

 顧客生涯価値(CLV)とは、1人(1社)の顧客が企業または製品に対して生涯のうちに支払う累積金額から、その顧客を獲得・維持するためのマーケティング・営業関連の累積コストを差し引いた「累積利益額」を、現在価値に割り戻すことで算出する。平たく言えば、顧客別の取引額を生涯という超長期スパンで計算した金額と捉えればよい。ただし、CLVだけで顧客の価値を決めてしまうと、結局は「『金になる顧客』と『知恵になる顧客』」で指摘した罠と同じような失敗を招く危険性がある。

 顧客の中には、口コミなどによって別の新規顧客を連れてきてくれる親切な顧客もいる。あまり品のいい表現ではないが、簡単に言えば「金を連れてくる顧客」である。彼らの「紹介力」を数値化したものが「顧客紹介価値(CRV)」である。算出式を引用すると、
 CRV=(紹介によって加入した新規顧客のCLV÷割引率)+(紹介なしでも加入したであろう新規顧客のCLV÷割引率)
となる。さらに具体的な算出式は論文を参照してほしい。

 なお、「紹介によって加入した新規顧客(タイプ1)」と「紹介なしでも加入したであろう新規顧客(タイプ2)」を分けて計算している点がポイントである。タイプ1の場合は、紹介がなければ製品を購入しなかったのだから、売上貢献を大きく評価しなければならないが、タイプ2の場合は、放っておいてもいずれは自社の顧客になったわけであり、本来かかる顧客獲得コストが口コミによって節約されたにすぎない。両者の違いに留意しながらCRVを算出している(この辺りについても、論文では実例を用いて詳しく解説している)。

 こうしてそれぞれの顧客のCLVとCRVを算出し、この2軸を使って4象限のマトリクスを作成すると、次のような顧客ポートフォリオが完成する。
チャンピオン:CRVとCLVの両方とも高い顧客層
金持ち:CLVは高いが、CRVは低い顧客層
サポーター:CLVは低いが、CRVの高い顧客層
けちん坊:どちらの価値も、低い顧客層
 従来のCLVの考え方では見落とされていたサポーターの役割を軽視してはならない。彼らに対しても適切なプロモーションを実施することが重要であると著者は主張している。

 以上が論文の概要であるが、なるほど、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューの論文の中では珍しく数式まで登場するなかなか読み応えのある論文であった。だが、このモデルを実際に企業で実践するのはかなり大変なはずだ。まず、「顧客紹介プログラム」や「顧客管理システム」が充実しており、誰がどの顧客の紹介によって自社顧客となったのかを追跡できることが条件となる。

 また、実際の計算を難しくする点として、1つは顧客紹介プログラムを使わずに単なる口コミで自社顧客になった場合をどう把握するのか?ということと、上記のタイプ1とタイプ2をどうやって見分けるのか?ということが挙げられる(新規顧客に対して「あなたはAさんの紹介がなくても製品を購入しましたか?」といちいち確認するのだろうか??)。ただ、厳密な計算を重視するよりも、顧客の真の価値を測定する基準として、「顧客紹介価値」という考え方もあるのだなと理解しておけば十分なのかもしれない。

 ちなみに、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2008年11月号は、マーケティングの2大大家であるセオドア・レビットとフィリップ・コトラーの長文インタビューも掲載されている中身の濃い号であり、マーケティング関連のDHBRとしてはお勧めの1冊である。
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