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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
December 06, 2009

リーダーは私心から入って私心を離れる

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 リーダーは常に私心を捨て、組織や社会全体の利益のことを考えなければならないという崇高なリーダー像が理想とされることがあるが、やや短絡的な見方のように思える。リーダーの個人的な動機は実のところ非常に大切だ。なぜなら、未来の見通しが立たない状況では、個人の欲求や願いがありたい将来像の輪郭を描き出す重要なトリガーとなるからだ。

 だが、単に個人的な動機を押し通すだけではリーダーにはなれない。それはただのわがままである。周りにいる人たちにも同じように個人的な動機や欲求があるわけで、彼らの思いとは相反することもある。リーダーは個人的な動機を発端としつつも、ステークホルダーの利益を尊重し、それらをできるだけ包摂する未来像を導き出す必要がある。その意味では、リーダーには「私心から入って私心を離れる」態度が求められる。

 松下幸之助『決断の経営』にあったエピソードが、この「私心から入って私心を離れる」リーダー像を表していると思うので紹介したい。

松下 幸之助
PHP研究所
2007-03-17
posted by Amazon360

 パナソニックの前身・松下電器は昭和11年に電球の製造・販売を開始した。当時の電球には4ランクあり、一流はT社のMランプ(36銭)、二流は25〜26銭、三流は15〜16銭、四流は10銭。一番売れていたのは最も高いMランプであり、市場シェアの7割を占めていたという。

 松下は新製品の電球の値段をどうするか悩んだ結果、Mランプに対抗して36銭で販売することに決めた。そこで取引先である販売店を回ったが、実績のない松下電器の製品に対する販売店の反応は冷ややかだった。二流か三流の値段でないと売れないと言うのである。

 松下としても、会社の利益のことを考えれば何としても36銭で売りたい。社員が汗水たらして新製品の発売にこぎつけた姿も思い浮かんだだろう。だが、「うちの利益が出なくなるので36銭で売ってください」などいう私心は口に出すことができない。そこで松下はこう言ったのである。
 「これは私個人とか、松下電器だけの問題ではないのです。みなさんにとっても、わが国にもう一軒、一流のメーカーをつくるかつくらないかは重大な問題です。相撲でも、つよい横綱が一人だけでは、土俵がおもしろくないでしょう。二人いて、互いに張りあい、競争しあってこそ土俵が盛り上がってきます。これは電器業界でも同じではないでしょうか。

 電器業界の場合でも、二人の横綱がいてこそ、業界がさらに向上発展していくのです。そういう意味から、松下電器を横綱に育てるためにもこの電球を三十六銭で売ってください。商売というものは現実のものだけれども、しかし現実の商売とあわせて将来の理想も必要だと思います。みなさんは、この電球についての将来の理想をどうか考えてください」
 松下は単に自社が儲けたいという次元の話を超えて、業界全体の利益のことを販売店に訴えたのである。実は、Mランプを販売していたT社はGEと提携しており、いつまでも外国の技術に押されていてはいけないという個人的な思いもあったのかもしれない(これはあくまでも私の推測だが)。36銭という価格は確かに高い。だが、松下電器がその価格に見合った品質の製品を作ることができれば、それは業界全体にとっても、消費者にとっても、そしてもちろん、松下電器と直接取引をする販売店にとっても利益になる、ということを松下は主張したのである。
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